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211、廊下

 飛行船の座席数は4席だった。これやっぱVIP席だよ。

 この程度の事にも気づかない程に意識が狭まっていた。

 やはり俺はこの状況にテンパっている。深呼吸しよう。


 深呼吸して落ち着く理由って脳内に酸素が供給されるからだろうか?

 ゆっくりとした呼吸で副交感神経が刺激されてリラックスできるから?

 この体にそういうモノはあるのだろうか? 神経系はあるか。じゃなきゃ動けない。


 余計な事を考えすぎなのだろうか。

 いや、だが……まぁ、俺はそういう生き物か。

 考えるだけ考えて行動が足りていない。


 状況に流されるだけではダメなんだ。

 求めているモノが主体的ではないのがダメだ。

 しかしどうすればいいんだ? 1人で勝手に動いたところで上手くいかないだろう?


 やはりリク君を利用するぐらいの気持ちで行かなければいけないか。

 しかし利用すると口にするのは簡単だがどうやればいいんだろうか?

 そもそも利用してどうするんだ? そもそも俺は自由が欲しいだけで大願はない。


 自分らしく生きるのが至上命題なのだ。

 自分らしく生きるというのがとりあえず難易度が高い。

 自分を出して生きるとしてそれが下手すると監獄フラグとかないわ。


 人間がどれ程エゴに塗れ、欺瞞に満ち溢れた種族であろうと、面白いと思うからいい。

 しかしながらその構造の面倒くささは例え理解が出来たとしても受け入れきれない。

 その面倒くささが発展の理由であると俺は思うし面白いと思うが、順応できるかと言えば出来ていないのだから起きているこの現状は如何ともし難い。


 もうそこはどうだっていいんだ。そこを悩んだって堂々巡りだ。

 どうすればいい? これから向かう先で何を見ればいい?

 いや、見るモノはあるだろうか? 違う、見てどうするんだ?


 魔王が世界を滅ぼすとして、どうしてそれを止めなければいけない?

 そもそも人間こそ世界を滅ぼす存在とすら思うんだがそこはどうなんだ?

 覇権種族は時代毎にあるだろう。恐竜しかり。アノマロカリスしかり。その移り変わりの一環に過ぎないじゃないか。


 モズのはやにえ。速贄。あれの意味は分からない。だがそういう習性を持っている事を知っている人はなんだかんだ多いと思う。

 速贄にされる相手がカエルや虫などだから忌避感が薄いのか? 人間がされていないから?

 魔物が人間相手にそういう事をすれば残虐などの感想を抱くだろう。なんかゴブリンを虐殺する人の話を思い出す。


 生物の関係性は流転する。俺はそこに当然だとしか思わない。

 だからこそ見たところで何かしようと思えないだろう。

 もし人間が家畜並みの扱いになろうがそれも時の流れだと思う。


 ……。人間を同族だと思っていない弊害がこれなのかな?

 いや、自分の意思以外で守りたいモノがないからか。

 人は人。それが歪な形で表れているのだろう。


 守りたいモノを作ればこれは変わるのだろうか?

 自分の集団を持てばいいのだろうか? どうやって?

 リク君は守りたいモノだろうか? 分からない。


 そういえば女の子を助けるためにカニを殺した事があったな。

 それが本当に助ける事に繋がったか分からないし、殺してしまった後で悩んだ。

 だが少なくともあの時俺は人間を守る事を選択したのは間違いないだろう。

 俺の中でも人間贔屓なところがあるのだろう。


 いや、どうだろう? あの時はけっこう切羽詰まっている様にも見えた。

 俺は別に殺す事へ抵抗を覚えているわけではない。できるのにしなかった場合の関係性が気になったのでは?

 殺した後で(もしカニと女の子が知己で)とかは思った。そうだとしても状況的には許されるだろうと考えられる。


 少女とカニの関係性は初見でわかるものではない事。

 途中まで一緒に歩いていた目撃者の存在。傍から見た状況的に救出対象と判断した少女は危機に瀕していた。

 人間の立場で過ごそうと考えた場合、この行動は何も間違えていないはずだ。


 これは人間贔屓というよりも、俺の表面的な立ち位置的な問題か。

 人間と一緒に歩いていた俺が人間側に立たないといけないと思うからした行動なのだろう。

 もし魔物と一緒に歩いていたなら少女を殺していたかもしれない。


 ……俺は今どこを歩いているんだ?


 扉を開けて歩いていたのは覚えているんだ。物思いに耽り過ぎた俺がバカだった。

 むだにあっち行ったりこっち行ったりしていた。床に寝転がっていたらひたすらのたうち回る感じで。

 頭が落ち着かなさすぎだろう。本当だったらこの船体を見て興奮していた。どの道落ち着いていないな。


 足元は化繊のカーペットみたいだ。その下の材質は金属や石材ではなさそう。

 いつもの如く例のあれか。謎プラスチック。樹脂は硬くて軽いもんな。便利だよな。

 ほんとこの謎プラスチックどこにでも使われているな。何なんだ? これ。


 通路は白い謎プラスチックに覆われ、照明は……プラスチックの向こうなのか? これ?

 どういう方法か分からないが、壁自体を発光させている様な感じがするな。

 光源に膜1枚着けたみたいな感じの灯りだ。色合い的にホタルを想像する。光が柔らかい。


 ホタル? ホタルやホタルイカとか夜光虫ってルシフェリンが反応して起きるモノだったっか?

 ルシフェリンがATPや酸素と反応した結果、オキシルシフェリンっていう不安定な物質になり、光という形でエネルギーを放出するんだったと思う。

 ATPの供給が上手く行くなら板状にしてはめ込み式にして照明に出来るかもしれない。


 ATP。アデノシン三リン酸。生体のエネルギー通貨。タンパク質にとって使いやすいエネルギー源。

 これって確か溶液っていう形に出来たよな。この溶液の循環が上手くいくならホタル照明みたいな事が出来るのだろうか?

 でもこれ輸送とか物質の製造とか、色々配置とかのコストに見合わないよな。


 ATP溶液を持ち運ぶとしてどの程度の量を必要とする?

 ルシフェリンがどれだけの期間使用できる? それの張替えはどうする?

 電気ってほんとチートだな。電灯の使用期間の長さとか、エネルギーが場所を取らない。


 タービンが回れば電気を作れる。タービンはどんな方法で回しても問題ない。

 回す力の大きさに応じて電気は生まれるし、その上限はタービンの材質が決める以上確認が困難。

 使用の仕方は機器に応じてだが、そこに使用者の制限は基本的にない。


 ……電気って魔法みたいだな。

 そう思うと機械は魔道具だろうか?

 なんかそう思うと面白いな。


 しかしてこの光はどういうモノかよくわからないな。

 電気が第一候補だろうか? どうやったらこうむらなく光を出せるかわからないけど。

 光源を散らし、単位面積当たりの光量が同じになるように計算しているとかかな?

 光源をどれだけ確保すればいいか分からないけど、この通路全体がスクリーンみたいなモノだとしたら驚きだ。


 ……さすがにそれはないよな?


 しかし内装がこれだと散策のし甲斐がない。面白い内装だがそれ以上何も見えないんだ。

 率直に言うと機関部が見たい。どういう原理で動いているのか分かればこの世界が普段どうやって動いているのかが分かるんだ。

 具体的に言うと電気が普及しているかどうかが今後の展開として大きくなる気がする。


 電気自体はあるだろうと思う。車があるのだから。

 街に出た時目立つところに機械はなかったが、俺が眠っていた間に普及している可能性は高い。

 電気の優位性は比較的簡易な輸送と違うエネルギーへの変換、スイッチ機能だろうか?


 ……なんでリク君が今の目的地、転生者の住居に向かえるのか。

 これは俺の前世が影響して、転生者の言葉が通訳出来るからとかないだろうか?

 コミュ力強者の圧倒的善性をリク君から感じるし、話を上手くまとめる要になったとかないか?


 もしそういう繋がりで行くなら、電気関係の技術者の転生者とかと関わりが出来たみたいなふざけた事があってもおかしくないのでは?

 そういう繋がりがあれば他にも色々技術者と提携してこの飛行船を作りあげるのに役立つだろう。

 前世と同じ世代なら安全重視の基礎設計にするだろうし、この通路もその産物と言われたら信じられてしまう。


 分からない。


 分からない。


 分からない。


 このまま飛行船に乗っていても問題はないのだろうか?

 逃げる意味もない。そもそも閉じ込めるのであれば石像の状態で運べば問題ないのだ。

 あのよく分からない庭に運ぶ事が出来ていたのだ。どこにでも運べたはずなんだ。


「ここにいたんだ。堪能した?」


 声が聞こえた方を見た。リク君は微笑んでいた。分からない。優しい声。風貌。

 理解が出来ない。目的や意図がつかめない。聞けば答えてくれるだろうか?

 その答えを聞いたところで俺は信じられないだろう。


 あぁ。思考がヘンな方向に進んでいく。

 俺の敵は俺だ。誰も悪くないんだ。

 俺はきっと動物にしか心を開けない。







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― 新着の感想 ―
[一言] 今話はこれまでにないほどの激しさで脳内が高速で右往左往してますね。
[一言] 犬猫に癒されるしかない( ˘ω˘ )
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