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210、船の中

「なんか嬉しくてね」


 リク君は微笑む。


 そうだ。リク君は微笑み続けている。


 どれだけガルルと唸ってもリク君は笑う。


「何が嬉しいんだ?」


 分かる気がする。だがそれで正しい保証はない。


 むしろその考えを思考に露わにするだけで自意識過剰な気がしてしまう。


 この笑顔が偽物だとしたら。いや、笑顔の理由が違ったら。

 きっと俺はそんなIFを恐れている。ほとんど可能性がないと思っていても。

 俺が知っているリク君なら、俺が思うIFである可能性はないのだ。


「なんでしょう?」


 あぁ。


 リク君の楽しそうな微笑みは拗ねた俺にとって痛みすら感じる。


 拗ねた。そう拗ねているんだ。これを拗ねたと言わずして何を拗ねているというだろう?

 真っ直ぐな感情をリク君は向けているはずだ。それを歪んだ感覚で曲解しようとしているのは誰だ?

 俺は拗れた感覚で物事を見ている。おかしいのは拗ねた俺だ。


「知るか」


 ムダにそっぽを向いてしまう。

 空が青い。昔乗った飛行機に比べて雲海の流れる速度がゆっくりだ。

 ……なんか鳥がところどころに見えるが、これは異世界だからだろうか。


 ゆらゆらと舞っている鳥とか、雲海に浮かんでいる鳥とかなんかけっこう見える。

 雲海から時折ぴょんぴょん飛び出す魚みたいなのも見える。

 え、なに? これ? 色々物理法則とか気になるんだけど、どうなっているんだ?


 雲海に生息している段階で、浮力か何かが作用して、ほぼ0キログラムになっているという事だよな?

 どんな構造をしているんだ? 雲海に浮かんでいる鳥が一番意味が分からないな。

 泳いでいたりするなら、羽やヒレで受ける揚力で浮かんでいるとか適当な説明をつけられるんだが。


 いや、それ以前に気圧とかそういうのは影響していないのか?

 真っ当な生物なら栄養不足とか、構造的な不具合とかそういった理由で死にそうだ。

 元からこの高度で生息している場合生きられる? 酸素濃度とか終わっているだろ。


 高山に生物がいない理由は気温低すぎ、酸素濃度が低すぎ、天気の変化が急すぎ、環境に適応してもエサになる生き物がいないというところだろうか?

 微生物は細胞壁が薄すぎて液体部分が凍結するのを防げないのでは?

 そもそも植物が糖度を上げて液体成分を凍結から防げるのがマイナス10度とかそれくらいだった気がする。森林限界とか雲海よりもずっと下……いやそこまでじゃないか。


 雲海って山の頂上からでも見下ろせるんだ。

 高さはそんなじゃなかったはず。標高が千mもない筑波山でも雲海は見えたはず。

 となると低い高度なら生物が雲の中で生息していても不思議ではない?


 いや、微生物の類は生きられないし、雲の主成分は水蒸気だ。

 植物だって繁殖するための素材が不足するはず。……いや、水蒸気の核が色々な有機物?

 それであれば窒素や二酸化炭素などを合成? なんかできそうな気がしてきた。


 にしても問題はあれが魔物か動物かか。

 魔物ならあの巨大ガニよろしく物理法則超えられる気がする。

 いや、あのカニも魔物なのか? そもそも魔物と生物の違いがよく分からんのが問題だな。

 その辺りフィールドワークや前提知識が足らなさ過ぎてダメだ。


 俺自身を基準にするなら、魔力だけで生存できるとか、そういう仕組みはありそうだ。

 よくある設定としては人間や生物を敵視しているとか、生物のタガを外れたとか、魔石が内部にあるとかか。

 分類は進化の順序や推測のためのデータとして重要か。


「……。あ、これは完全にトリップしてるね」


 そもそも人間とはなんだ? この世界で普通の動物は見かけたか?

 大きなクマとか大きなナメクジとか大きなカニとかヒレが多すぎるシャチっぽい巨大なのとか、良く分からない生き物しか見ていない気がする。

 強いていえば植物は普通だったか? いや、それすらも怪しい。


 なんで人間は髪色や瞳の色程度しか姿や大きさを変えずにいられている?

 なんで中央に版図を広げられる? なんでこの大きさで他の生き物と比較して大きすぎる程の魔力を保持できる?

 街の配置も含めておかしすぎるんだ。


 ほんと人間が異物過ぎないか?


 生物の進化があったとして、この世界の人間の原形が見つかる気がしない。

 どこか異世界から移住してきたみたいな違和感の塊だ。

 むしろ異世界から越してきたとしたら辻褄が合う。


 異世界から人間が越してきたとして転生者はなんだ?

 転生者は人間にしかいないのか?

 ニーナとかは元人間だったと言っていた気がする。

 これも理解が出来ない。


 ……これを追いかけて何になるだろうか?

 例え人間が移住者だとして、それを排除したりする意味はないだろう。

 俺は世界を変えたいとか守りたいとか思っているわけじゃないんだ。


 外来生物で環境が大きく変わってしまう事。それは悲しい。

 アメリカザリガニが水草を何でも食べてしまうが故に、様々な水草で豊かだった生態系が壊れ汚泥の溜まる沼になるとか知っている。環境保全を考えると間違いなく外来生物は滅却したい存在だ。

 だがしかしそれを言い出すと人間なんていう長距離移動して、色々なモノを運んでしまう迷惑な生き物が一番始めに滅却しなければいけない生き物となる。


 野生動物が野山から人里に降りてくるのはエサが足りないからだ、各地からドングリを集めて人里に降りない様にすればいい! こんなバカな事を真面目にいう連中が思い出される。

 養鶏場や牧場などへちゃんと消毒されていない土足で踏み込み、口蹄疫や鳥インフルなどを持ち込む輩もいたな。

 考えれば考える程人間は愚かだと思ってしまう。その行動の末にどれ程の生き物が亡くなるかなど考えられない愚か者どもだ。


「……シロはやっぱりシロだねぇ」


 自然で供給される以上の食糧を渡せば、その供給量に見合った数の動物が増える。

 長距離を移動した結果自分がどれ程の細菌を保有している病原体か理解していないヤツ。その一踏みが数万羽を殺し、農家にどれだけの赤字を背負わせるだろうか。賠償金払えよ。

 自然と付き合うという事がどういう事かまるで考えていない癖に分かった口を利く奴ら。ほんと滅却するべきだろう。


 自然は弱くない。だが人間はそれ以上に破壊に特化した恐ろしい生き物だ。

 異物を各地に運び込み、自然界のバランスを混乱に陥れるのは人間の得意技だ。

 どれだけの生き物を絶滅に追いやり、どれだけの病原菌や外来生物を持ち込んだのか。


 同じどんぐりといえど、山が違えば田中さんと伊藤さん程度に違う遺伝子になる。

 ソメイヨシノとかもそうだが、同じ遺伝子というのは同じ病気に弱くなり、一気にその種が滅ぶ危険へと繋がる恐れがある。

 色んなどんぐりを混ぜて全部田中家にしたら、田中家特効で一網打尽される。


「目が動いていない。トリップの方向性が斜めにいったな」


 ……。すごく監察されている……。


 というか現実逃避が酷かったな。特に後半。人類について。人類の罪について。

 いや、重要だよ? 間違いなく。だが俺は特に何かをするつもりはないんだ。

 だからこそ今考える事ではなかっただろう。ただの現実逃避だったんだ。


 どうしよう。どうしよう。どうしよう。話題が何も思いつかない。

 目を動かさない様にしているけれど、視界の端でニコニコしているリク君が見える。

 なんか顔が熱くなってきた気がする。


 頭を冷やしたい。いっそ外に出て風を感じたい。ムリだろうけれど。

 ムリだよな? 外と中で気圧を変えているはずだ。でなければ耳が死ぬ。

 普通にリク君が息が出来ている以上、気圧や気温は地上と同じはずだ。


「ちょっと散歩したい」


 俺はリク君の返事を聞かず席を立った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 雰囲気だけでトリップしていることが分かるとはリクくんよ立派に成られましたな。 それはそうとしてこれまでの現実逃避癖、トリップしてると言われればまさに当てはまりますね。言い得て妙です。
[一言] 機内でのペットの放し飼いはお辞めください( ˘ω˘ )
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