208、飛行船に搭乗
飛行船。風船部分に入っている気体の浮力と機関の動力により動くモノ。
搭乗スペースは機体の大きさと比較するととても小さい。ほんと小さい。
10分の1もないよな。全長100m近いサイズなのに10人も乗れないんじゃないか?
近くで見ると外装はけっこうメタリック。硬そう。
客室部分と機関部は離れていて、エンジン音などはあまり聞こえないかもしれない。
飛行船の周囲を飛んでいるのは……見間違えでなければタマゴだ……。俺が作ったあのゴーレム……。
魔法的な力を働かせているのだろうか? ……。もしかして動力はボードゴーレムの利用か?
火属性の魔力を使えばボードの穴から火を噴き出す事が出来ていた。もしかしてこの飛行船は俺のゴーレム技術を応用しているんじゃないか?
ゴーレムは魔力さえ突っ込めば満タンで2日は動かし続けられるし、属性さえ合えば誰でも補給できるのが大きい。
機械に比べて魔法は手軽過ぎる。理解していれば機材も必要なくその場で作れてしまう。
魔力の量だけか。ネックになるのは。維持できるギリギリを攻めたら咄嗟に魔法が使えなくなってしまう。
魔力の補給自体は誰でも出来るから人海戦術は出来るが、やる人はいるだろうか?
いや、いるか。その日食うに困った人が魔力を売りに来てもおかしくない。
病気とかケガで仕事が出来なくなった人がいれば、生活資金を得るためにやるのはおかしくない。
魔力を売る事が出来るなら、高魔力保持者が貧困に陥る事は少なくなるし、それにより不穏分子に高魔力保持者がなる事は少なくなる。
魔力を集めるだけのモノとかもタマゴを応用すれば出来るだろう。
タマゴの機能を魔力の出し入れにすればいいのだ。
……空に浮かんでいるタマゴは迎撃用のそれなのだろうか?
金属の硬さがあるならぶつかれば砲丸と同じと効果が期待できるだろう。小さな魔物なら死ぬのでは?
着地寸前でエンジンに鳥が巻き込まれてエンジンが故障したとかそんな事案、基本的に飛行機は騒音が酷いからそんな近くに鳥が飛んでいる事は稀すぎだし起こりにくいけど、あったとかも聞く。
そういったバードストライク事案とか、対象が大きくなる程被害は大きくなるよな。
まして静穏性に長けたこの飛行船、気づかずに近づいて巻き込まれる可能性、普通の飛行機よりも大分高いだろう。
「あー、はいはい、入り口はこっちですよー」
エンジン。推進力で思い出したが、魔力がエネルギー源であっているのだろうか?
保管は多少出来たとして、輸送の面で魔力は多分電力に劣るだろう。
送電線みたいな感じで、ケーブルを通して魔力を送るとかどうやって行うんだ?
ケーブル自体を魔道具にすれば行けるだろうか? ケーブルの被膜を魔力を通さない性質にしたら移動時のエネルギーの損耗を少なく行けるだろうか?
出来るか出来ないかで言えば出来る気はする。よく考えたらゴーレムを作る際に回路化自体そもそも出来ているか。ゴーレムの神経とかもろにそれだ。
ゴーレムの場合体内で完結させるから移動距離は短いし何より内部に司令がいるから魔法が使えるが、魔力の輸送では意思の伝達ができない以上魔法の万能性は失われる。
魔力は変換効率が人で左右されるし、電気とは違って人依存のエネルギーだ。
汎用性を考えると電気を主力にした方が安定しそうな気もする。
そもそも魔力ってこうやって考えるのに相応しいエネルギーなのだろうか? よくわからない。
「席はここね」
思えば原子とかもよく分からないよな。例えば水素とヘリウム。陽子電子それぞれ1粒しか差はない。
燃やせば水になる水素、基本的に安定状態のヘリウム。理屈は分かっても不思議なもんだ。
見える性質は違い過ぎて理屈を理解していても不思議に感じる。
数種類の小さな粒の組み合わせがこの不思議な世界を作り上げている。
電子とか陽子はその関係性の中でとても大きな役割を果たしている。
電気とは分子構造にも影響する。
なんか思考が脱線した。とりあえずだ。魔力はどういう扱いなのかだ。
構成要素1つ増えるとそれにともなって世界は様変わりする。
魔力はエネルギーの単位が1つ増えた様なものなんだ。
なんでここまで地球と似た雰囲気の世界なのだろう? そう思うと意味が分からない。
まだ魔力に何か気づいていない要素がある気がする。
でもまぁ、今はいいか。それは現状の判断の先には関係しない。
というか、そこらが関係するのは勇者とか世界を変えたい奴らだろう。
俺は別に世界を変えたいわけでもないし、ある現象を利用出来ればいいだけだ。
「シートベルト着けるよ」
利用するには知らないといけないが、したい事も定まり切らぬ以上何とも言えない。
とりあえず自由になりたい。自由になって動植物と戯れつつ、色々見て自分の中で遊びたい。
俺がしたいのは本質的にそういう方向性のモノだろう。
そういうモノを踏まえた上で、適度に人間と関わり、自分が社会の一員になっている気分を味わう。
自分の身の安全を確保するのにも役立つが、人を羨むところがある俺にとって社会の一員というのは大きな要素なんだと思う。
自己の理解者を求めているのだろうか? そこまでは求めていない気がする。
理解を口で言うのは簡単だが、実際は見ているモノが違う事などたくさんある。
育ってきた環境で、物事に対する印象の違いはとても大きいのだから。
差別とかの問題はその相違が大きすぎるから起きているんだと思う。
「それじゃそろそろ離陸かな。離陸が終われば揺れる事はほとんどないよ」
……。思考にかまけすぎて歩く歩道に立っていたわ。
……。わぁ、空飛んでる。揺れるって言ってたけど、全然揺れないじゃん。
窓から見えるあのお屋敷って誰のお屋敷だったんだろう……。
現実逃避するな! お前、リクと何を話せばいいか分からなくて、飛行船に集中してただろ!
で、何を話せばいいんだ? 近況? この状況で? いや、意味が分からない。
というか俺の近況って石になってたでお終いじゃねぇか。
精神の揺れが激しすぎて、どこの人なのかわからない方言になっていやがる。
だべさとか言った方が良かっただろうか? お餅ついてろ!
落ち着け。モチつけ。黄な粉餅。
「リクは何してたんだ?」
窓の外を見ながら話す事か! ツンか? 正直になれないおじさんか!
脈絡がなさ過ぎて意味が分からなくなっているぞ!
精神の混乱が酷すぎる。モチが足らん。わらび餅。草餅。よもぎ餅。
なんか野草をつかった餅って小学生の時に作った記憶がある。懐かしいな。
……。少し落ち着いた気がする。
横目でリクの顔を見ると柔らかい表情をしていた。
なんかすごく幸せそうだ。
よく分からない。
「最近だとこの飛行船の建造かな?」
よく分からない。
……。いや、タマゴといい、俺の知っている技術があるんだ。
建造に関わっていた可能性は容易に想像できたはずだ。
……。下手したらこれ一式全てリクの作品の可能性すらあるのか?
魔法の万能性を考えるとちゃんとした技術者抜きでも一から作れる可能性がある?
さすがに航空力学を履修しないと空を自由に飛べる様に計算できないはず。
飛行船だからそこまで必要ない? んなわけがない。揚力の確保だって適切な形状があるんだ。
計算はちゃんと物理学が出来ないと出来ない。
空気は流体で良かっただろうか? 空気抵抗だとかもちゃんと考えないと飛ぶ時余計な力が必要になる。
荒天時も考えて普段は出力20%以下で飛んでいるとかあるだろうか? 飛行船は体積が大きい分飛行機よりも影響は大きいんだ。
技術者の監修や管制がしっかりしているからこそ飛行機は安全なんだ。乗客が死亡する様な事故の可能性、800万分の1は伊達じゃない。
「あぁ、僕だけで作ったわけじゃないよ。ちゃんと色んな人と作ったから安心して」






