20、この世界の地理*地図イラストあり
ニキさんが内心どう思っているのかはわからない。
笑ってはいるけれどその表情は何かを押し殺したような無機質さを感じる。
この先どうなるだろうか? 君子危うき近寄らずでいくかもしれない。
冒険をしてまで打破したい状況があれば近寄ってくるかもしれない。
「この辺りはモンスターの脅威も少ないし、王都からも少し遠いから落ち着いた街が多いかな」
「そうなんですか?」
「お祭りの時は晴れやかだけど今は南の方にお祭りは行っているからね。東に位置するこの辺りはちょうど祭りの後だからこんな風に穏やかなんだよ」
「お祭りですか?」
「あぁ、夏は火の神様の季節だからね。南の地方が東から順繰りにお祭りを行っていくんだけど知ってるかな?」
「詳しくはあまり……」
「あ、少しは知っているんだね」
「僕はまだ地理が覚えられてないんです……」
「いや、2歳とは到底信じられないくらいだよ」
「僕、外の世界が知りたいんですっ!ニキさん、僕に世界を教えてくれませんか?」
勢いに任せた頼み事。俺は精一杯、目をキラキラさせて子供らしい無垢な欲求をした。
「リク君はどういう風に知りたいのかな?」
「ニキさんは今みたいに各地を旅しているんですよね?僕は色んな街のこと知りたいですっ!」
「そうかい、それくらいならいいよ」
「ありがとうございます!」
2歳児が大の大人に丁寧な口調で頼み事をする光景。
少し不気味に思えるかもしれない。
周囲の人の目が少し気になった。
まぁ、それは今更の話である。
「じゃあ、まずどこの話をしようか?」
「ここの街の話をもっと知りたいですっ!」
「そうか、じゃあ、この辺りについてね」
「まずこの街がどの辺りに位置するのか、詳しく言おうか」
「はい、お願いします! ニキ先生!」
「よろしい」
俺を乳母車に1度置くとニキさんはポーチからくるくるっと丸まった紙を取り出した。
紙の材質は分からないけれどコピー用紙のように白く少し光沢があった。水に強そうだ。
ニキさんが紙を広げるとそこには地図があった。
「この赤い点が王都で白い点が街だよ」
「私たちがいるのは三重円の2番目で東にある湖の南側にある街だよ」
「中心から王都、内郭、中郭、外郭っていうんだ」
「外郭だと隣町まで歩いて半日、中郭だと隣町まで6時間くらい、内郭だと2時間くらいだよ」
「内側に近づくにつれて街と街の間隔が狭くなるのは王都に向かってくる大海嘯に対応するためだよ」
「外側は無理に止めるよりも削ることだけを考えるんだよ」
「内側に行くほど強い人が多いから外側では露払いをするだけね」
「内郭は若い人が多いけど、中郭は年配の方が多いかな」
「外郭はモンスターの討伐が多いけれど、中郭ではモンスターが滅多に出ることもないし別荘や隠居先に選ばれやすいんだ」
「おぉーっ! だからここは年配の方しか見えなかったんですね!」
市場に続く道だというのに人混みという程行き来する人もいない。
この辺りは埼玉の閑散とした住宅街を考えればいいのかな。
「そうだよ、リク君」
ニキさんは静かに微笑んでいた。俺にはその微笑みの裏に何か隠している気がしてならなかった。






