207、行く道
明けましておめでとうございます。
投稿遅れて申し訳ないです。
本年もまたよろしくお願いします。
「俺が強いわけがない」
何を言っているんだ。強い奴はもっとどうどうしている。
こんな身構えています! みたいな事は本当に強い奴はしない。
策略だろうが何だろうが正面から潰せるヤツや何があっても芯が折れないヤツ、そういうヤツが強いっていうんだ。
話す事が何も思いつかなくなったか?
この困ったような顔を見るとそうとしか思えなくなる。
なぜか腹立たしさがある。
なんで腹立たしいのだろう。
やっぱりリクには勝手に期待してしまったのだろう。
仲間だとか思ったのだろうか? あぁ、面倒くさいなこの感情は。
勝手に期待して、勝手に腹を立て、勝手に失望する。
ほんと身勝手の極みだ。
「さっさとそこに連れてけよ、今の俺にはそれしか選択肢がないんだから」
あぁ、選択肢を実質1つにされた状態で行動を促されるのはイラつくな。
腹立つポイントはそこにもあるのか。俺が取りたくない選択肢を周囲に散らばめているのが気に食わない。
結局俺はワガママなんだろうな。
決められたレールは好きじゃない。
人に整えられた道は歩くのが嫌だ。
これをワガママと言わずして何がワガママだろうか。
自己嫌悪が極まりない。
……思えばこれは俺のやり口そのものか。
俺も最適な道を提示して人をコントロールしようとする節がある。
リク君に対するこれは同族嫌悪なのか。
リク君の困ったような苦笑を見ろ。
どうしようか悩むその姿を。
俺が悪いんだろうな。分かっているんだ。
分かっていても好きじゃないモノは好きじゃないんだ。
「あの飛行船の入り口はどこだ? 手を引かないと前に進めないのか?」
自分への苛立たしさで声にトゲが立つ。
リク君は悪くない分めんどくさい。
とても俺自身が醜い。
気持ちを切り替えろ。
飛行船の中を知りたくないか?
見知らぬ場所を知りたくないか?
そういうものを俺は本来好むだろう?
俺は仕組みが知りたい。未知が知りたい。そういう生き物だろうが。
起きた事にクヨクヨしても意味はないんだ。先に進め。時は無慈悲に進むもんだ。
「大丈夫だよ。……いや、手を引いてもらおうかな?」
……? ……? ……?
「手は引いてくれないのかい?」
やばい、思考が停止した。こいつ何言っているんだ?
俺の中身を知っていて、何故こういう言葉が出るんだ?
どういう反応が正しいんだろうか? 分からないんだが……。
ツンデレ少女ならきっと「バーカ!」とか言うのだろう。
親友みたいな感じなら「はいはい」って手を引くのかもしれない。
しかし俺は別に親しみを覚えているわけじゃないんだ。もう覚えていないんだ。
役割に従って演じるのは簡単だ。しかしそれは心がすり減りなくなるのだ。
人形に落ちるといえばいいだろうか? 役割に従うだけなら定型文を使えばいいのだから。
定型文を使う程に役割に落ち着き、人間性を捧げる事になる。だから怖い。
「気持ち悪い……」
これは何て言えばいいのだろう。俺は今どんな表情をしているのだろう。
一瞬でもちょっと心を許してしまっていた分、不快感が強いのかもしれない。
あぁ、もうわからない。そもそも俺は演技に向いていないんだと思う。
制限をかけた人生を左右する選択肢を出されたから、俺はリクを敵認定したのだろう。
そういう事をしてくる相手は今後も似た事をされる可能性があるから。
だから今リクへ警戒心が止まらないのか。嫌悪感は一度つくとしつこい。
冗談を冗談で返せるメンタルじゃなかったんだ。
あぁ、すごく面倒くさい。これは俺が悪いんだ。
そもそも面倒くさい事になったのは俺のせいなのだろう。
あぁ、もう。見ろよ。リクの顔がこれ以上となく劇画調になっている。
こうやって断られる事は想定していなかったのだろう。
俺も自分でそう返してしまうのを想像していなかった。
「ごめん。どうしようもなくダメな気分だ」
ほんと俺自身が醜くて仕方がない。
黒い事自体は百歩譲っていいとしても、こういう態度は俺自身が一番気に入らない。
自分の感情を相手に押し付けて、人に自分の機嫌を取らすとか醜悪極まりない。
手前に手前の都合があるように、人には人の都合があるんだよ。
して欲しい事があれば口で言え。やるかどうかは判断するが、自分で片つく事は自分でしやがれ。
個人的な都合で人を動かすな。集団に関係する事は進行状況の管理もあるから早めに言え。
あーもう。気に入らない。自分自身が気に入らない。
で、どうすればいい? とりあえず前に進まなければ。
どうしたらリクは復旧するだろうか?
「リクは頑張ったよな」
褒めれば再起動するかと思ったが、そうだよな。リクは頑張ったんだよな。
実際どれだけ活動すれば飛行船を得られるだろうか?
普通の20歳? そんな人はそんなモノを持てる程の資産や影響力を持てないんだ。
いくら手元に材料があってもちゃんと組み上げられる人は少ないんだ。
目的意識が足りなかったり、構想が足りなかったり、人脈もない事が多い。
運とかもあるだろう。だがそれをやり遂げたのはリク君なのだ。
俺には出来なかった。色々持っていたはずの俺には出来なかったんだ。
俺は結局、何かを得られるだけの道を進めなかった。
リク君には出来たんだ。俺と同じ材料で前に進んだんだ。
俺みたいなヤツにどう振舞えば正解か? そんなモノは分かる訳が無い。
普通だったら正解の回答だったはずなんだ。それができなかったのは俺がおかしいからだ。
リク君は何も悪くないし、むしろ俺の生きられる道を拓こうとしてくれた恩人なんだ。
「ごめんな。俺がおかしいばかりに苦労をかけて」
背中に手を伸ばし撫でた。身長差のせいで背伸びしても背中にしか手が届かない。
俺が出ていった体はもうこんなにも大きくなった。……けっこう筋肉質だな。
そういえば俺は体を鍛えるのを大分推奨していた。もしかしてそれを引き継いだのだろうか?
……ここまでに至った道を俺は知らない。相応に苦労もあったはずだ。
何があっただろう? 王族関係のしがらみとかもあったかな。
俺だったらどれだけ苦悩しただろう。きっとミスもたくさん仕出かした事だろう。
リク君は俺じゃない。俺はリク君じゃない。
甘えるな。リク君は俺に優しいが、だからといって酷い言葉をぶつけていいわけじゃない。
バカなことをしているのは俺だと自覚しろ。ちゃんと生きている人を邪魔するな。呪うな。
自分が子供じみた事をしている事を理解しろ。
……俺はほんと頭でっかちで、全然精神的な成長をしていないよな。バカだよ。
……この姿が俺には妥当なのかもしれないな……。
意地っ張りだし、頑固だし、素直になれないし、ほんと子供じみているんだ。
悔しいな。どうしたらちゃんと大人になれるんだろうか。
「シロって難しいね……」
リク君は苦笑を浮かべて頭を掻いた。
まぁ、内部の反応が俺自身にしても異次元だったからな。
これを思考を読む事なく理解出来たら怪異だろう。
「俺がおかしいのは知ってる。理解しろとは言わないから気にするな。とりあえず……行こうよ。飛行船の人達が待っているんだろう? 1人であれを動かせるとは思えないし」
俺の言葉を聞いてリク君は苦笑を深めた。
「リク」と「リク君」入り交じってますが、わざとです。誤字報告はしないでください。
吐き捨てる様な言い方や自己嫌悪、やっぱり俺が悪かったみたいなニュアンスがあったり、でもちょっと許せなかったり、色々呼び方に葛藤があるのです……。






