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206、微笑み

「寄るところ? どこだそれは?」


 リクは微笑む。なんというかすごい微笑むな。

 なんで微笑むんだよ。分からないんだよ。言葉にしてくれよ。

 言葉にしてくれは俺が言えた事じゃないか。

 

「転生者達がいるところだよ」


 俺はきっと胡乱なモノを見る目でリクを見ていただろう。

 正体が不確かで怪しい話にしか聞こえないからな。

 どういう経緯でそこに行くことが出来る様になったかも分からない。


 話したのだろうか? 俺が転生者だとか。

 だとしたらそれはもう敵に近い行動だろう。

 その情報を知っている相手が多い程俺の生きにくい世界になる。


 表面的に何もない様に振舞うのは楽だ。

 深層で「あいつは転生者だしな」そう思われると同族意識の阻害になる。

 話した相手が偉い人である程それは根が深い問題になる。


「どうやってそこの場所を知った?」


 どんな理由であれ、転生者を探す行動は何かしらの憶測を呼ぶ。

 そこに行く許可も必要だろう。勝手に探して行ったとなれば行政側にとって不確定要素になるのだ。

 転生者の常識は異世界の政府にとっては毒だ。しかもここには国は1つしか確認出来ていないんだ。


 違う世界の知識は技術の違う側面への気づきを与えるため有用な面はあるだろう。

 だが違う世界の常識は制度への不満や不審を覚えさせる事になる。

 日本で海外の仕組みを尊ぶ人がいた。あれと同じだ。人は都合がいい事にしか目を向けないんだ。


 海外ではこんな働き方をしている! と言う人がいた。

 もちろんそれを福祉として行えているところはあるだろう。

 しかしそういうものはたいてい社会の上澄みに過ぎないと現地の人らしき人から反論されている。

 どこまでが真実かは知らないが、少なくとも反論している人の方が人間らしいことを言っていた。


 ……これは俺も信じたい事を信じる情弱か。結局信じやすい方を事実と思って言ったに過ぎない。

 どんなにいい人でも間違える時は間違えるし、嘘を嘘だと実証するには経験するしかない。

 そして人の検証する事にかかる時間は流れる時間に比べて長すぎる。時間はどこででも等しく流れるからめんどくさい。


「僕と一緒にいた時孤児院に行ったでしょ? あの落語を話していた男の子から辿ってみたんだ。面白いからそれに関して教えてってね」


 アウト? セーフ? 俺に関しては話していないからセーフ?

 どうだろう。分からない。関係各所にはどう思われているのだろうか?

 分からない。分からない。分からない。


 アウト? セーフ? で一瞬 よよいのよい と続けたくなったくらいに頭が空回りしている。

 正解が分からない。確認する行動が俺を裏付ける証拠に成り得るからするのは危険だ。

 全てに対して不信感を覚えてしまう。俺は人類の空間で生きる事に向いていないのか。


 動物だけの空間なら何も発展はしないが、個々の空間足り得るから少なくとも安寧が少しはあった。

 子孫繁栄だけを考える生き物はとても単純で、とても分かりやすい。

 無言の協調や異物排除の仕組みなどはあるにしても、まだ俺には生きやすい気がする。


「そっか」


 言葉が出ない。声に不信の意が乗ってしまう。

 きっと今の俺の顔は不信感丸出しだと思う。

 野生生活していたから笑顔の仮面が剥げてしまった。


 心の野生化が止まらない。人慣れしていないネコ科の野生動物みたいになっている気がする。

 少なくとも人の皮を被らなければ。ゲームの前でチンパンしているガキみたいだ。

 心のおサルさんをシバキ倒して檻にしまえ。


 あぁ、秘密の情報は誰にも話さないのが1番安全だ。

 俺の知らないところで広まる可能性を無くせる。味方面をしていてもボロなんていくらでも出るんだ。

 俺のミスで出した自分への被害なら範囲予測もしやすいが、こういう状態だと分からない……。


「大丈夫だよ」


 簡単に言うな。


 ……。分からないし、検証できない事にくよくよしていても仕方がない。

 そこに行くとしてどんなモノが出てくるのだろうか。

 見た目は楽園みたいな感じだろうか? 可能性は高いな。


 そこで安寧を享受していてくれたら楽なんだから。

 今の政治に干渉されたくないのが1番大きな部分のはずだ。

 余計な刺激を与えて爆発される方が面倒だ。


 それに街を見る限り転生者の知識はなんだかんだ使われている。つまり知識を得ているのだろう。

 それが出来るのは生活にある程度余裕がある必要がある。

 所内で貨幣経済が成り立っていたり、ベーシックインカムが導入されていたら笑う。


「あー、はいはい。大丈夫ね、そっか」


 実際無駄飯食らいされたら面倒だろうし、生活に格差を出すために資金で調整するのは簡単だろう。

 食料そのものを増やせないが、魔法で植物の生長を補正できるから餓死はしにくいとは思う。

 餓死しない程度の最低限の食料が出せるというのはほんとチートだな。


 所内貨幣で貧富の差を作り、ベーシックインカムで最低限を保証?

 どういう事をしたら金銭を得られる様にする? 所内職員のお仕事を手伝うとか?

 発明とか知識の買い取りとかもあり得そうだな。創作物とかも案外役に立つかもしれない。


 貨幣の使い道は衣服と食料か? それ以外……娯楽って何がある?

 所内で食料の生産に手を出してもあまり価値がないし、価値のある労働が少ないよな。

 どんな労働なら価値が出る? 施設運営に役立つモノが1番重要だろうな。


「僕が君を悪い様にはしない」


 転生者の発覚は基本幼児期だろうし、乳児はいないと思う。

 ……男女問題はどうなるだろうか? 俺自身は特にないが、性欲関係ってとてもめんどくさい。

 というかなんで俺って性欲なかったんだろう? あ、人間が同族に思えないからか。


「あっそ」


 男女同じ区域で生活させたら子供出来るだろうな。やる事ないとヤる事ヤっちゃうの発展途上国や田舎を見れば分かる事。

 子供が出来て1番めんどくさいのはその子供が転生者じゃない可能性が高いって事だろうか?

 親子分離はけっこう反乱の種になるし、そもそも人口はあまり増えて欲しくないだろう。場所は限られているだろうし。


 こういう時転生者の厄介な部分は過去の人生がある事か。

 過去の女性関係だとか男性関係とかが話のネタになってしまう。

 そういう事に悶々と不満を溜められたら超めんどくさい。


 適度に発散できるモノを用意する? いっそ赤子の段階で去勢?

 幼少期に取ると男性ホルモン薄くて中性的な美少年になるとか聞くよな。どうなんだろ?

 あ、でも去勢手術を行うと太りやすいって話も聞く。


「ごめんね」


 考えている内容がどんどん人でなしになるな。

 考えている方向性が人道に背いているからなんだが。

 しかし政治的に考えてみると正道。


 自分の子孫は残せないが、衣食は保障されているはずだ。

 自国の平和も守れている以上誰も不幸ではないだろう。

 転生者が余計な旗頭に掲げられて混乱に陥るのは不毛の極みだしな。

 それは大多数の不幸だろう。


 政治とは変わらぬ毎日を提供出来るのが至上なんだ。

 外国がゴロゴロ変わろうと自国が安定していれば成長予測の通りに成長できる。

 それはとても大きな事だ。安定した社会の形成においてこれ程重要な事はない。


「謝って済む事じゃない。終わった事は終わった事だ。その上でどうやっていくかなんだ」


 一強体制は腐敗に繋がりやすいから定期的な転換は必要だろう。

 しかしそれは組織のルールって形で組み替えていければいいのか。

 例えば30年一区切りみたいな感じで、組織の解体を法律にするとか。


 既得権益を放棄したくない人はごねるだろうな。

 だがそこは上が厳格であればなんとかなるか?

 変わらぬ世界が腐るのは上も下もないか。


 神が圧倒的暴力でルールを徹底させる?

 ぶっちゃけこの世界だとそれ出来てしまうんだよな。

 寿命とかもないだろうし。


「シロは……強いね」


 リクはどこか悲しそうに微笑んだ。










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[一言] 思考の置いてけぼり( ˘ω˘ )
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