表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/383

204、庭園

「大丈夫」


 その瞳は静かだった。どこか温もりすら感じる瞳だ。だがどうにも陰がチラチラしている様に見える。

 その明るい茶色の瞳は何を考えているのか、まるで読めない。

 再び言ったその「大丈夫」という言葉が意味が分からなくて怖い。


「何がだよ……」


 いい感じの仕立ての白い衣服。旅装か何かなのか、丈夫そうな材質だ。

 神官とかそういった雰囲気を感じてしまう。そういう方面で力を強めたのだろうか?

 服のしわなどを見るに体には力がこもっている様に見えない。むしろ弛緩している?


 やはり見ていても理解が出来ない。


 信用させようと思っているのだろうか?

 動物の目の前では緊張していると相手も不安に思うものだ。

 それと同じだろうか? わからない。


「君を傷つける可能性があるものは全部僕が止められるから」


 ……やっぱり理解ができない。

 

 俺の不安は排除に対してのものが大きい。異物として排除される可能性があるからダメなんだ。

 異物として排除する行動はどこにだって転がっていて、それをどうにか出来るのは自分自身だけだ。

 誰かが動き排除されない様にする? それは根本的に間違った行動だ。


 妬み嫉み憧れ崇拝。大きな力にはいつだって付きまとう。

 文化文明の発展を考えると、それらの力は停滞を呼ぶ事が多いが、大きな進歩を呼ぶ事もある。

 決して不必要な感情とは言わないが、不都合になる事が多い感情だ。


 1つの能力だけが、1人の人間だけが突出し過ぎても、文明的に成熟は出来ないから?

 停滞は1つの分野だけに限定すれば停滞にしか見えないが、他の分野に色々な技術が流れ込む時間になり得る?

 あぁ、もうめんどくさいな。一局面的に見れば不都合かもしれないが、必要な感情と捉えている。それでいいんだよ。

 小さ過ぎれば潰される。大き過ぎれば狙われる。圧倒的力で行けるところまで行けたところでフォロワーがいなければ道は残らない。そんな話だ。


 リク君は自分が強くなったと言った。つまりリク君の庇護を望むものだって出てくるという事だ。

 存在が大きくなる程見てくる人も多くなる。そこには好悪入り混じり非常に面倒な事になる。

 俺という人間関係に疎遠なモノは弾き出しやすい弱い存在だ。コネ入社のヤツみたいなもんだ。悪印象を抱きやすい対象となり得る。


 自分で関わるだろう人の中での自分という存在を「敵わないモノ」「味方でいると利になるモノ」「友好関係でありたいモノ」にしなければ根本的な解決は得られない。

 下手になめられる要素があると「効率よく利用するためのモノ」「目障りなモノ」「引き摺り落とせるモノ」になってしまう。

 強くて弱みの少ない存在がいい。コイツがいないと困ると思われるくらい社会に入り込めて初めて安心が出来るというモノだ。


 これは自分でやらなければならないモノなのだ。

 多少プロモーションしてもらったりして、手伝ってもらえると助かるが、地力がないと達成できない。

 今の俺にはその地力が足りていない。だからダメだ。


「お前はどこに行くつもりだよ」


 自分が足を引っ張る。それが一番嫌いだ。心の奥底に汚泥が溜まっていく様な気分になる。

 自分が何も出来ないヤツでいるのがとても嫌だ。周囲が働いてる横で何も出来ずに佇むのは心に悪い。

 ただの重荷。とても嫌なモノなんだ。


 それをしていても何も思わないヤツがいる。別にそれは個人の勝手だ。俺には関係がない。

 俺は弱い。そうあって何も思われないとわかっていても嫌だ。心に積もる不満の音を幻聴してしまう。

 だから俺は人に頼るだけの関係性はとても嫌いだ。それに陥る事がとても不快感を覚える。


 ワガママだ。分かっている。何も成し遂げられていない持たざるものの遠吠えに過ぎない。

 1人でずっとグルルと唸って歯を剥き出しにしているだけでしかない。

 だがどうすれば望むものを入手できるか分からない。


「僕はどこにもいかないよ」


 意味が分からない。


「お前が将来どうしたいかっていう意味だ」


 なんですっとぼけた表情していやがる。

 頭に血が上っている様な感覚がある。上る血がこの身にあるのかすら知らないが。

 人間を模している以上あるとは思うが、この身の正確な組成を俺は考えていない気がする。


 そうだよ。この身はリクが作ったんだよな。

 そのせいで余計な苦労が積み重なっていくんだよ。

 この身が成人男性であればもう少し働くのに困難がなかったんだよ。


 自由ならどうにでもなると思っていたが厳しすぎるんだわ。

 ほんと余計な事をしてくれやがってさ。

 どうしてくれよう、桃太郎さん? 


 ……。……なんで桃太郎さん出てきた?


「……そうだねぇ。君が居てくれたらいいかなって思ってて考えてなかったかな」


 ……。寂しがり屋か? こいつ? だが知らん。

 俺は俺だ。お前はお前だ。歩む道は1人に1つしかない。

 誰かの道をなぞって歩いたところで、その人の道を歩けるわけじゃない。


 同じ道を歩いても人によって見るモノは違う。興味の矛先が違う。

 そのときの心の余裕によっても見えるモノは変わるし、発見するモノも変わる。

 だから人を縛るな。自由であるべきだ。それが発展へと繋がる道筋となる。


 ……。人間とはと考えて、人間が進むべき道の歩み方を考える。

 それを考えたところで俺が人間になれるわけでもないのに、なぜそれをするのだろうか。

 ほんと俺はバカだな。高見に立ったつもりか? 何も見えていない愚か者が。


「知るか、ばーか」


 何も知らないくせに。

 何を知ればいいかも知らないくせに。

 人とろくに関わった事もないくせに。


 本を読んで体験を追想したつもりなのだろうか?

 それは仮想に過ぎないんだよ。それは現実じゃないんだよ。

 草花の実像だって文字じゃ分からない。図鑑で見ても周囲の空気までは分からない。


 思考の幅を広げる事には役に立つだろうが、結局経験しない事は使えない。

 経験してもその時の心情によって同じ景色は違う色に染まる。

 この場で見えるモノ、その詳細を知っているかどうかで使い方が変わる様に、今の俺が知らない故に何も使えない様に。


 こういう場面に適した言葉が俺の口からは出てこない。

 いくら本を読んでも、いくら場面を想像しても、俺は体験していないから出来ない。

 違う。初体験でも出来るヤツは出来る。俺にその頭がないから出来ないだけだ。バカめ。


「そっか」


 笑うな。


 微笑むな。


 憐れむな。


 結局俺は愚か者なのだ。そんな事は知っているんだ。

 賢しらに知識を振りかざし、思考に振り回される愚か者なのだ。

 見ているモノに、こういうモノだろうとレッテルを貼り付けて、そうに違いないと思いたがる愚か者なんだ。


 レッテルの剥がし方を知らない。

 レッテルに別のレッテルや付箋をつけて喜んでばかりだ。

 いくらレッテルを貼ったところで、それで本質が変わるわけじゃないというのにな。


「ばーか」


 子供か。


 口まで子供になったか、バカが。

 どうする? 何する? 行動の指針はどこに持っていけばいい。

 わからない。だがリクから離れても意味がないだろう。


 もう知るかと言いたくて仕方がない。

 だけれどこれは俺の道なのだ。歩くのは俺しかいない。

 リクについていく? ついていってどうするんだ? ペットになるつもりか?


 ペットな。ワンワン吠えてりゃいいか? 

 あぁ、もう疲れたよ。パトラッシュ。俺にはパトラッシュはいないか。

 躁鬱が激しくてやばいな。急にニュートラルに戻るとなんだかわらけてくる。


 道化の踊りは終えないといけないな。

 とりあえず足場を固める事を意識しよう。

 誰かや何かが繋ぎ止めてくれないと足元は崩れるだけだ。


「ついて行くよ。それしか結局今は道が無いし」


 自由のためだ。嫌だが行こう。

 自由のためには地に足をつけないといけない。

 自由のため、関わる人を増やさないといけない。



 目的のためだ。利用しようとしてくる相手は利用してやろう。



「そっか」




 リクは微笑んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
gqch13hqlzlvkxt3dbrmimughnj_au0_64_2s_15


gto0a09ii2kxlx2mfgt92loqfeoa_t53_64_2s_d
― 新着の感想 ―
[一言] 利用してやろう←出来ないフラグ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ