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201、少年は家に

 俺は何を考えているのだろう。よく分からない。


 自分の事が一番よく分からない。

 口調が気に入らない、自分の口から出てくるっていうのが何よりも気に入らない。

 咄嗟に出てくる言葉があれになったという事が意味わからない。


 ……エネルギーが切れかけなのかもしれない。

 そういえばさっきも一瞬すごい力が抜ける感覚があった。

 エネルギーが切れかけているから変な思考になるのかもしれない。


「シロ? っていうんだよね?」


 目の前の背中は大きい。

 こういう体であれば俺はもっと正攻法で前を向いて歩けたのではないだろうか?

 成長しないだろう、この完成された体はとても小さい。どんなに力があっても小さいんだ。


 ……この考えは見た目に人の認識が左右されていると考えているから出るものだ。

 実際のところほんとに小さい子供として扱われた事は少ない気がする。

 むしろ今初めて小さい子供として扱われている気がする。


 感情に振り回されて子供じみた振舞いをしているんだ。

 幼稚な思考の流れをしておいて、どうして子供として扱わられないと思う?

 扱わられないわけがないだろ。


「そうだ」


 感情は社会性のある生物にとって優れた情報伝達手段だ。

 そして教育や娯楽は感情の共通化、共感を助け集団行動をさせやすくするものだ。

 ある程度共通の立ち位置を作る事で、情報の理解を助ける。


 感情は共感を構成する道具であり、ひいては感情は相手に何かさせるためのモノ。

 そこに理が見えたら共感への道が出来てしまう。それは相手に強要させるモノ足りえる。

 だから感情は凶器になりうる。それを濫用するのは子供だ。


 人間は個人では大した事ができない。だから感情を発達させた。

 1人の力では生活の糧を集める事すら厳しいんだ。

 サバイバルの知識があれば? そのサバイバルの知識はどうやって得た? 毒の類など調べる方法などそれこそ先人の知識ありきだ。その先人の知識は無数の繋がりを経てその人の元へ辿り着いたんだ。


「その名前って自分でつけたの?」


 背後関係を詮索しようとしているのだろうか?

 否定? 肯定? 誤魔化す事、それに意味はあるだろうか?

 意味は……ないか。見つかりたくなかった相手にもう出会う事はないだろうし。 


 万が一俺が数か月生きる事があるとして、その時俺はどこにいるだろうか? ここかな?

 もし生きているなら人間になったという事だ。どこかで社会の一部になっているはず。それならここの可能性は高い。

 万が一を考えると詳細は濁した方が得策だな。


「いいや、俺を作った人だよ」


 リク君。思えばあの子も理解が出来ない。

 いや俺に理解が出来ているものなどあるのだろうか?

 何が正しいかなんてわかりやしない。検証方法もあるわけじゃないんだ。


 観測したモノが正しい保証などどこにもない。

 どんな天才だろうと観測が正しくなければ正解にたどり着けない。アリストテレスだってそうだった。

 表面的な動きを見て、内側をいくら推測しても、正しいモノにはたどり着けない。


 正しく知るのはとても難しい。

 その正しさも現在は正しいと思われているとしか言えないのもわかっていないといけない。

 四元素が長い間正しい考察とされていたのを思えばよく分かる。


「作った人を覚えているんだ?」


 深層は意識するのも難しいし、そこに根源的な欲求があったとしても、これを言語化するのは困難。

 表層、つまり今考えているこの部分は多少思考として成り立っていても自分向けのモノ。

 口に出すモノは他人向けの言葉だ。成形された言葉なんだ。


 口に出される言葉がそのまま表層の人もいるだろうが、それを装っている人の可能性だってある。

 口に出される言葉はやはり信じられない。よそ向けの事実を伝えている可能性が高いんだ。

 そしてこれを口に出すことで不信を表明する意味もない。


 思考が暴走している。

 思考があっち行ったりこっち行ったり。

 最期の時が近いのだろうか?


「元は作った人の中にいたからな。どんな経緯で作られたかすら覚えているよ」


 話し過ぎだ。……まぁ、いいか。

 この感じならもうすぐ俺は終わるんだろうしな。

 終わった後の事などもはや野となれ山となれだ。


「作った人ってどんな人なの?」


 リク君か。どんな人なんだろうか。

 寂しがり屋? 違うな。あれは依存なんだ。

 ずっと一緒にいたから手放したくなかったっていうやつなんだ。


「いい奴だよ、間違いなく」


 俺とは違ってちゃんと人間だ。

 生きた生身の人間だ。ちゃんと心がある子だ。

 俺みたいな自己愛の果てで、人に優しいのとは違うはずだ。


「あの子は俺とは違うんだ」


 俺のそれは利己的で自己愛に塗れた汚いものだ。

 それは心と呼ぶにはあまりに理屈っぽく、言い訳がましい。

 自分しか見えないそれは俺には黒く見える。


「どうして君はここにいるんだい? その子の元にいた方がいいんじゃないんかい?」


 バカ言うな。そしたらあの子まで汚れてしまうだろう。

 こんな黒ずんだモノは周囲まで引き摺り落とす。

 きれいな光の世界には闇は要らない。


「ダメだ。あの子と一緒にいてはいけない」


 俺にあるのは過去の残響。必要以上の警戒。

 見えるモノ全てに唸って威嚇して、それを隠そうとする。

 周囲を怖がり、何も手をつけられないバカだ。


「そっか? あ、そろそろ俺の家だよ」


 少年の指の先を見るとあの建物だった。

 俺がこの街に来た時初めて飛び込んだあの塔だ。

 そういえば少年と会ったのはこの建物の近くだったよな。


「そっか。ここがお前の家だったんだな」


 入口の付近を見ると扉が開いていてそこに人が立っていた。

 あの女の人がこの少年のお母さん……いやお姉さんか。年齢が近すぎる。

 少年、お姉さんに思われているじゃないか。


 遅くなったら心配して待ってくれる人がいる。


 羨ましいな。


「そうだよ。……逃げんなよ?」


 ……?! 背後に回られた?!

 は? 首に腕を絡ませて逃げられない様にするだと?!

 下手に力を入れたら壊れちゃうから手を握れないと言ったからか?


「大丈夫だって。怖い事なんてないからさ。それに姉ちゃんのご飯は旨いぞ」


 ……ご飯なんてこの体は必要ないんだ。

 それにもうすぐこの体は停まる。

 ……それを見て引け目を負わせたくない。


「ムリだ」


 首に巻かれた腕に指をかけた。

 肉の感触。そこそこしっかりした筋肉がある。

 でも柔らかい。軟らかい。


 傷つけない様に手のひらでゆっくり押してみる。

 少年が頑張って解かせない様にしている様だけど、人間の体は自分の体が壊れる様な力を出せない仕様だ。

 少年の力では俺を止められないんだ。


「すっごい力だな!」


 俺が腕を振り解くと少年は目を輝かせながら言った。


「さよなら」


 もう何も思わなくていい。もう何も考えなくていい。

 空を行こう。街の塀の上、あそこはきっと見晴らしがいい。

 そこで最後にしよう。空を見上げていたら終わるだろう。


「え、おい! 待てって! どこに行くんだよ!」


 塀ならここからでも見える。

 停まれば街の外に落ちて終われるはず。

 次は……いいかな。




 あぁ、空が綺麗だ。


 こんなにたくさんの星があるのになんで俺は見てなかったんだろう。


 ほんと後悔ばかりの人生? 人生だな。



衛兵A「こりゃなんだぁ? おめぇさん知ってか?」

衛兵B「んーにゃ、わからん。とりま領主様の館へ持ってくべ」

シロ(すやぁ……)(塀に腰掛けて寝てる状態で石化)


少年?「なんで……どうして……あんなところに……」

リド姉「いやおいおい……」

シロ(すやぁ……)(領主の館に飾られた。一応見た目は土の神様なもんで。中身はともかく)


そして話はリク君がシロを見つける15年後に飛ぶのだった……


ちなみに休眠状態に入る前地味に安らかに落ちたのでシロはそれこそ聖女の様な慈愛に溢れる表情で石化していたのである……

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