200、少年の家に向かえ
「分かった。あんたと一緒にあんたの家まで行く」
だからどこぞのツンデレ少女か!
言いたい事は確かに言っているが、フレーバーが気になり過ぎる。
君とかお前とかあなたとかは言いたくないとかが頭にあるのはなんかわかる。
スレ感があるから二人称があんたになるのは理解している。
ちょっと不良感を出したいからスレた口調にしてしまう。
その結果がツンデレ少女とはこれ如何に。見た目と合わさってなおさらだ。
昭和の番長みたいな漢だったら様になっているんだろうな。
あぁー。やっぱコレジャナイ感が否めない。
「ん? どした? いきなり?」
おい、ここで話についていけてないよムーブするか?
貴様、ついていけているだろうが。いや、これは揺さぶりか?
ヤキモキさせて余計な情報をもらさせるあれなのか?
いや、しかし本気でどういう意図で言っているのか確認したいみたいな考えはあるかもしれない。
俺だったらこの珍妙極まりない生き物が何を考えているのか、反応を見たいと思う。
絶対強者のムーブか、厨二病少女の強がりが見えるか、その他謎な行動をとるのか。そういうのは見てみたいとなるだろう。俺なら見てみたいと思う。
好奇心に満ちた瞳だ。ガチの困惑ではないだろう。
揺さぶり? 好奇心? 分からない。興味があるのは間違いない。
だとしてどういう行動が予想できる? いや、どんな行動を取っても相手を制限するモノにすればいいだけの話だ。
「別に。お前の家まで行けば何か変わるかもなと思っただけだ。で、お前の家はどっちだ?」
この言葉遣いをしていると脳内をツンデレ少女がよぎるっっっ!
取っている行動がむすっとした態度だから、正しくツンデレ少女そのものの姿なんだ!
これは他人が取るから可愛らしいとか思えるのであって、自分みたいなモノがとる行動ではないんだ!
らしい言葉遣いをしようとすると全部演技じみて反吐が出そう。
こういう演技をしたくてやっているんじゃないっていうのが最悪な点だ。
何かしらのロールに沿って演じるのであればまだいいが、そうではなく、ただこうあるべきを突き詰めた末、俺の現状の結論がこれというのが気持ち悪いのだ。
演技だと認識させず、これが本性だと思わせながら行動する。それの何たる気持ち悪さか!
創作物を批評されるのはいいが、創作者をそういうものとして見るのは創作者側からしたら違うというか、そういうヤツだ!
これいいよね? って言ってたら創作者側がそういう対象に思われる。これは大分違うんだ……。
思考が混線しやがる……。
「さてどっちだ?」
ムカ。
なぁ、こいつここに置いてどっかに行っちゃダメだろうか?
垂直跳びで屋根まで上がれば追って来れないはずだ。
であれば放置は簡単だ。
……。性分の問題だ。やはり自衛手段に乏しいヤツを変な場所に置いていくのはダメだ。
俺はどうなっても俺の責任だが、巻き込まれるヤツが出るのは気に入らない。
放置はできないんだ。どんなに腹が立っても着いてきてしまった以上俺の責任じゃない場所に行くまでは見捨てられない。
俺から離れた場所で事故を起こすのは気にならない。
俺が関係しないところで死んだなら何も思えない。あぁ、そうなんだで終わる。
でも俺が干渉出来る範囲で行われるところで事故に遭うのはとても胸糞悪い。
「知らん。こっちか? あぁ、こっちだな。じゃあさっさと行くぞ」
鎌をかけて少し視線の揺れを見れば多少なんか分かる。
まぁ、これが正解かどうかはわからないが、見た感じ正解っぽい。
なんか素直そうな子だなとか思っていたが、やっぱり腹芸が出来ないタイプな気がする。
なんか口に手を当てて驚いているが、顔でバレているのだ。
目を丸くして驚いてたところで、ちょっとアホっぽい。
あぁ、空が青い。もう群青色だ。
……そういえば今靴1つ履いていないんだよな。
足元は謎樹脂でそこまで冷たくも熱くもないから大して気にならなかった。
小石の類も落ちていないから足裏が痛くないというのもあるか。そもそも踏んでも痛くないか。
非現実的なところが多いな。見間違えとしか思えない風体を俺はしているんだな。
古の時代の幽霊とか言われても信じてしまう人がいそうだ。
あぁ、もうほんとダメだなぁ。
「あー。えっと……実はあっちなんだよね……」
……。
恥ずかしい。
顔が赤くなっている気がする。
そりゃ人の顔を見ただけで全部わかるわけがないよな。
そもそも俺人付き合い少ないし、そもそも会って1日も経っていない人の顔の動きから全部読み取れる様だったらもはや神だわ。
まぁいい。ダルいやり取り抜きで少年を送り届けられるんだ。もうまんたい。のーぷろぶれむ。問題ないんだ。そうだ、結果問題ないんだ。
これは計算だった! とは流石に言わない。
流石にそれはカッコ悪い。僕の完璧な計算によれば! みたいな痛さがある。
それくらいなら素人質問で申し訳ないんですがと言いたい。
脳内の誰かさんがバタバタ暴れまわるのが見える。
小さい俺が転げまわり壁にぶつかっては床を叩く姿だ。
無駄なイメージに思考容量が食われる。恥ずかしさと混乱の極みじゃないか。
「……案内しろよ」
このツンデレお化けが! 都合よく出来てしまったツンデレお化けが!
……あーもう。これは俺の人格です。はい、それでいいですか? 認めればいいですか?
逆ギレかっこ悪いわ。これが俺。そうこれが俺。
……すごい認めたくない。
なんだよ! ぶっきらぼうに小さい声で言うの!
は? 不良少女のツンデレアピールかよ? お前バカじゃねぇの?
俺がやって可愛いわけないだろ! しっかりしやがれ!
あぁー……嫌だわ。
「はいはい」
すっげぇ笑顔で微笑まれたわー……。
あれ俺に対してなんだろ? 俺にそんな価値なんてないって。
なんかすっごい手足から力が抜けてくるんだけど。
心が空回って疲れてきちゃったよ。
人間相手に考え事をすると意味もない思考が巡り過ぎて疲れる。
動物相手に状態から機能を予測したりするのは同じ考えるでも全然疲れないんだが。
……なんか手を差し出されているんだがなんだ?
逃げられない様にしようというのか?
なんかすごい微笑まれているんだけど……よく分からないから怖い。
「手つないで一緒に行こ?」
女誑しの薫陶でも受けているのか? こいつは?
俺の自意識は男なのだ。いくら体が少女(?)になったとしてもそこは変わらない。
こういうのが好きな人もいるだろうが、少なくとも俺は違う。
見た目とかも大きい。俺はムダ毛が嫌いだ。臭いの元になるし、見た目が汚い。
チンパンジーとかそういう生き物ならまだわかるんだ。そういうもさもさは気にならない。
だがな、人間のそれってどう考えてもいらないだろ! 汗腺から出る臭い物質の拡散とかに使われるとかもあるが、だからこそ臭い!
なんでか男性と女性だと見た目に気を使う比率に差がある。
モテたいとか言いながら見た目が汚いのとか何を考えているんだ?
人付き合いを諦めているならともかく、人前に出る以上最低限の見た目になる様にするもんだろ!
少なくとも臭いとムダ毛の処理だけなら簡単なはずだ。夏の電車で腕毛が体に触れるのとかまじ勘弁。
まぁ、脂汗が飛んでくるのも、べちょと肌に触れるのとかも嫌なんだけど。
男性は多汗性の人が多いのは仕方がないが、臭い汗の人が生理的にムリなものがある。食生活が悪いんだろうな……。
「怖い?」
怖い。
人間自体、何をするかわからない生き物だ。
他の生き物なら行動の理由はある意味単純だし、それに対し全力だ。
だが人間は戯れで行動が変わる。人によって行動の方向性も大きく変わる。
アリとかなら分化したその見た目から判別がつく。行動の指針が見た目に表れているモノは案外多い。
でも人間は筋肉の発達具合とかで何が得意そうかぐらいしか判別できない。
視線の動き方で狙いが多少判別出来ても、完全にはわからない。だから怖い。
それに
「壊れそう。何かあったらやだからムリだ。手を握るのは諦めてさっさと家に向かって歩け」
途中で逃げる予定である以上、振り払ったら壊れる手を握るのは怖い。
ムリに握ってきたら脱臼とかさせてしまいそうだからやだ。
間接的に壊れるのが怖いというのに、直接的に壊す要因になるのはもっと嫌だわ。
……。にしても咄嗟に出た言葉にトゲが多いな。
まぁ、とりあえず背中を押しつつさっさと少年を家に届けなければ。
背の高さ的に真っ直ぐ手を伸ばして押せるのが腰辺りなのか。
この行動、俺じゃなければ可愛いのにな……。






