199、帰れ!
口の俺は本当の俺なのか。人間の俺なのか。
シチュエーションに流されて作り出してしまった俺か。
本でこういう人いたよな? みたいなのが咄嗟に出てしまった?
想像はいくらでも出来る。でも真実は分からない。
結局俺とは何なのか? もはや全てが虚構の出来事だとしても受け入れられる。
虚構だと思えば都合の良すぎる世界に説明がつく気がする。
想像は悪い方に進む。いい事があってもいいだろうと思ってもそのぶり返しはすぐにある。
これが俺の夢だとしたら俺は今病院のベッドの上だろうか?
在っておかしくないと受け入れられるものばかり。
そう思うと俺の人格だけだな。俺が受け入れられないものは。
受け入れられないという事は本物という事だろうか?
そういえば本当の自分はたいてい受け入れがたいと聞く。
そう思うとあれが俺自身であるというのは間違いないという事なのか?
気色が悪い。
結局俺は俺自身になるとあれ嫌いこれ嫌いとうるさい。
他人はそういうものだと全肯定に近いことをしているくせにな。
ワガママなヤツだ。こうやって考える俺自身に対しても決断が出来ていないと苛立ちすら覚える。
言葉を出せない。
それが自分の言葉かわからなくなる。
どこかで知った言葉というよりも、その場に合わせた人格で話している違和感。
リク君は俺の人格なのだろうか? そうとしか今は思えない。
空の青が濃い。背後を見れば橙色の空。そろそろ夜になる。
宵の明星はこの世界にもある様だ。宵の明星は金星を示すし、太陽との間に金星に似た惑星がそこにあっても別におかしくない。
地球と似た惑星の配置なら人類が特別な装備なしに生存できるだろうからあってもおかしくないのか。
いや、別に多少似ていればそれで十分なのか。
気温が2、30度で安定する場所が一年中どこかにあればタンパク質の変性とかを気にすることなく生存できる。
それ以前に地球基準であればタンパク質、つまり炭素で出来た生命体が優勢だが、どこかの映画にあった様にケイ素を骨子にした生命体であってもいいのだ。
ガラスみたいな生命体が蠢く世界か。
高温の環境下でのみ生存できるとかあってもおかしくない。
もしかしたら俺が認識出来ていないだけで、この世界はケイ素で出来た生命体が蠢く世界かもしれない。
転移だとしたら地球と同条件じゃなくちゃいけないが、転生なのだから地球じゃなくてもいいのだ。
まぁ、今更こんな事を言うのは戯言だがな。
……視界に先ほどの少年? が入り込む。
ついてきていたのは知っていたが、いつまで着いてくるのだろう。
時間は大丈夫なのだろうか? 少年の時間を気にする意味は特にないか。
安全面の問題はまぁあるかもしれない。
だがそういう悪人が先に目をつけるのは俺の方だろ。
まぁ、万が一少年が狙われたとして、俺の身体能力ならいくらでも対処出来るはずだ。
何の問題もない。
何の問題もないが微妙に不安がある。
万が一少年の身に何かが起きた時、俺が間に合うのだろうか?
間に合う可能性は高いが間に合わなかった時気分はすごく悪いだろう。
こちらがついてくるなと言ったとしても、遅くまで俺についてきてしまったのだから責任はないとは言えない。
普通に考えて10歳程度の子供にしか見えない相手をほっぽってどこかに行けない。
そう考えると今回相手に行動を強いているのは俺だと言える。非常に面倒くさい。
俺は少年の家に行き、少年を安全な場所に置いていかなければ、事実上保護責任者遺棄みたいな扱いになるのだろうか?
まぁ、保護責任者として俺は認められないので、実際の法律で裁かれる事はないだろう。
しかし避けられる危険を避けなかったとして、それは俺の責任なのは間違いないだろう。
心象的な問題だ。考え過ぎと言われたらその通りだろう。
だがそこを無視すると俺は俺でなくなる気がする。
たとえ法律的に許されるとしても、俺が関与しながら人を傷つける恐れがある行動をしたくない。
これは善意じゃない。ただの自己防衛だ。
本当にどうしようもない事ならともかく、余裕がなくて頭が回っていない時とかでもないのに、それをするのはとても気持ちが悪いのだ。
これは今以上に嫌いな自分を作り上げる行為を避けたいという俺のエゴだ。
エゴというと利己的、他人の利益を軽視・無視する行為のはずだが、この思考は笑ってしまう。
自己愛が過ぎるから、傷つきたくないから、人を傷つけない様にするのだ。
それが結局一番自分を傷つけているのに気づいている癖に。ほんとバカだ。
「あんたの家はどこなの?」
他人を無視する事をしても気持ち悪い。自分を無視する事は耐えられるけど気持ち悪い。
どちらを選ぶかと言えば自分を無視する方が気が楽。
でも結局どの選択をしても俺は俺を傷つける選択しかない。
ほんと蝶よ花よと草原で過ごしたり、木陰で涼んだり、木の上で眠ったり、洞窟で水の音を聞いたり、そんな事をしていられる自分でいたかった。
何者にも傷つけられず、何者も傷つける事なく、ただそこにいられる存在。
魔力さえどうにかなれば俺はそういう意味で理想の存在になれた事だろう。
自己完結が酷いのだ。自分の中で全部解決しようとしてしまう。それがダメだというのに。
「お、どうした? 急に?」
出来るからといって全部自分でやるのは良くない事なのだろうか? 悪いといえば悪いのか。
手分けしてやればすぐ終わるモノを1人で1日かけてやるのは労力の無駄だもんな。
人間の歴史は個人じゃない。集団の力なのだ。それを忘れてボッチで行動するのは時間の浪費に過ぎない。
核家族化で何が大変か。親と子しかいないから人手不足なのだ。
祖父母がいれば子育ての負担も大幅に軽減される。20代30代の親なら祖父母の年齢も40代60代なのだ。まだ体は元気に動く。
掃除洗濯も同じ家ならまとめて出来る。昼夜問わず大変な子守も楽に出来る。
まぁ、人間関係が拗れるとすごい面倒くさいがな。本当に面倒くさい。
家族の中で1人が強い場合とにかく面倒くさい。その1人の意思できれいにまとまるならいいが、そういかない事の方が余程多い。
自分が! 自分が! と自己主張が強いとほんとよく事故る。もはや事故主張。あなたが事故。俺も事故。
「別に。ただ暗くなってきたから俺はともかく、あんたは帰らないとダメでしょ」
なんかすごいツンデレ感。いや違う。ツンデレは本来始めツンツンしているけど、最後でデレるタイプだ。ツン9割じゃないと原義じゃないとかまぁ色々派閥はある。
しかし今のこれはその攻略後のデレが出ている状態では?
俺は何を考えているのだろう。色々意味が分からない。
思考の迷走が酷い。いつのまに俺はツンデレ属性が入ったんだ?
そもそもこの場合俺が既に堕ちているっていう扱いになるのか?! いやさすがにそれはないな。
俺が堕ちているとか気持ち悪い。さらに言えばこの場合、俺は声を掛けられただけで攻略されたとなる。噂に聞くどこぞの着ぐるみかな? あれはツンデレじゃないな。デレデレだ。
「そうだな。まぁ、大丈夫じゃないかな」
どっちだよ。そうだというなら帰れよ。
何ケラケラしているんだよ。意味わかんないだよ。
あぁもう俺自身に対してイライラする。
引き留められたくない気持ちは強い。
引き留められたい気持ちはなんかある。
もやもやする。人間になりたいとかそんな考えの結果なのかも分からない。
かまってちゃんの気配もする。
何故かまってほしいかもわからない。
どうかまってほしいのかもわからない。
自分に対してイライラする。
「帰ってくれない? 俺のせいで事故にあったとかなると嫌だから」
これで俺はどうするんだ? とかになるわけだろ。
で、俺がどっかに行くとして、それじゃやっぱり「俺心配だからついていく」とかになるんだろ。
かといって少年の家にお邪魔するのは避けたいわな。面倒くさいし。
家の周辺に着いたら撒けばいいのか?
どこにその少女がいるんだい? みたいな状況に持ち込めば俺はフリーになれるだろうか?
物語の敵キャラみたいに瞬間移動よろしく影も形もなくす事が出来たら最高だわさ。
ほんにめんどくさいわー。
「え、やだ」
率直に言って面倒くさい。
「帰れ」
このついていくっていう無用の責任感。とんでもなくめんどくさい。
俺の中にあるちょっと嬉しいって思う感情含めて面倒くさい。
ここであっさり帰られたらそれはそれでモヤモヤしたと思うけれど、面倒くさい。
俺の中の強情な部分がすごい面倒くさい。
少年に対して特に何か特別な感情を抱いているわけじゃない。
ただかまってくれる相手だからいてくれて嬉しいとかいう、嫌な感情だ。
どうでもいい相手でも話しかけてくれるだけでそこに自分がいると認められる。
だが結局はどうでもいい相手だから、それ以上の何かを相手に求めていない。
これを嫌な感情と言わずして何が嫌な感情だろう。ずるい感情だ。
「シロちゃんは自暴自棄に見えるから1人に出来ないかな」
あぁ……。見透かされるかのようなこの言葉。
いや、分かりやすいからか。街を見て回る背中が煤けていたかもしれない。
晴れやかな感じとか、物見遊山の心情とかではないから、そうなってしかるべきか。
……一度少年の家まで行って姿をくらますとするか。
少年と俺が一緒にいたところで誰も幸せにならない。
ただの感傷で少年がついてくる事を内心喜んでいてもいいことなどない。
死ぬときは1人で死ぬ。それがいい。そうだろう。誰かを巻き込むなど性に合わない。






