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198、人格

「なんで誘うんだ? 俺みたいなおかしなヤツを」


 きっと近所のお兄ちゃん的な優しい言葉を言うんだろうな。

 予想としては「寂しそうだから」だろうか? 癇に障るだろうからちょっと凝った言葉を使うだろうか?

 こんな瞳をしていて、もし「面白そうだから」だったらもうコイツの言葉は聞かん。


 それにしてもなんでこんなに瞳が澄んでいるのだろう。

 いや、澄んでいる方が本来普通なのか。辛い事などを経験したり、しょうがないと思う経験をしなければこんな瞳が出来るのだろうか?

 俺は昔そんな瞳をしただろうか? していない気がする。何か初めから悟っていた気がする。


 最初からおかしかったな。聡い子というよりも、感覚的に判断している事の方が多かった。

 今よりも昔の方が頭が良かった気もする。今よりももっと人間に興味がなく、自然にしか目がいってなかったが。

 昔に縋りすぎるのは頭が固い証か。ダメだな。


「捨てられたわんこみたいな顔をしているからかな?」


 わんこ。


 わんこ。


 わんこ。


「おかしなっていうけど、そこまでおかしくないかな」


 おかしくないのか。


 いや、おかしいだろ。おかしいのをそこまで見せていないからそう判断しただけでは?

 いや風貌も絵本の神様そのもの。だが魔力の片鱗も見せない。だというのに力だけは異様な程だ。

 どこにおかしくない要素がある? 外見からしておかしすぎるんだ。そもそもポンチョ1枚しか着てないのが色々おかしいだろうが。気にしない様にしてたけど、恥ずかしいんだぞ、これ。


 なのになんでそんな可愛らしいモノを見るような瞳で俺を見るんだ。

 内心が滑稽か。あぁ、滑稽だな。独り相撲で勝手に倒れる様な奴だ。

 滑稽。滑稽。間違いなく滑稽だ。滑稽、滑稽言っていると途中で烏骨鶏って言いたくなる。


「わんこちゃんが何に怒っているのか分からないけど、怒っていると見えるモノも見えなくなっちゃうよ?」


 わんこちゃん?! わんこちゃん?!


 え? 俺は何を聞かされているんだ?


 じゃすとあもーめんと。ちょっと待って。

 何が起きているんだろう? 分からない。

 思考が予想外の単語に吹き飛ばされた。


 わんこは好きだが、俺のどこがわんこなのだろう?


 彼らは賢く忍耐強い。協調性も高く、集団生活を営む能力が高い。

 もちろん個体差はある。だがその能力の多くがチームとして動く方に振られている。

 彼らは人類によりコーディネートされ、そうあるべく育てられたのだ。


 にゃんことは違うのだよ。にゃんことは。


 げふん。


 にゃんこにはにゃんこの良さがあるのは分かっている。

 彼らは基本的に群れないハンターであり、それ故に瞬発性能が高く、個でならわんこを上回る事もある。ライオンとかヒョウとかあれをネコと言っていいならそうだろう。

 遊びを理解しており、行動に発展の余地があり、生存能力はわんこを上回りすらする。


 何思考を吹っ飛ばしていやがる。わんにゃん論争をしている暇などないだろうが。

 わんこが好きだからってわんこに例えられて少し機嫌が良かったか? この野郎。

 西洋のジョークみたいだからそこまで深い意味がない? んなことはわかってんだよ! このキャベツちゃんめ!


「俺は犬じゃない。ましてわんこちゃんじゃない!」


 口が勝手にグルグル言ってやがる。子供か。子供だな。

 頭だけでヘンに知恵をつけて、何も学ばなかったんだから。

 前世はムダに歳だけ食ったバカな子供だ。


 冷静で全て他人事にしてしまおうとする俺がいる。

 これが最悪なんだ。他人事じゃなくて自分事だろうが。

 前世では客観的になる事は褒められる文化があったが、主観的になれない奴はダメなんだよ。


 感情が揺れている。なんでこんなに揺れているのだろう?

 あぁ、もうすぐ死ぬからか。そうだよ。死ぬんだよ。

 今更避けられるわけもなくな。


「じゃあなんて呼んだらいい?」


 瞳が優しい。優しい光が揺れている。

 そんな瞳で見られるとつらい。陽の人は俺には眩しすぎる。

 背中が壁にぶつかった。気づかないうちに後ずさっていたのだろう。


 何が怖いのだろう。善人だから怖いのかもしれない。

 悪人なら力で制圧したり、逃走する事にきっと躊躇しなくて済んだ。

 そもそもこれはチャンスなのかもしれないから逃げられないのだろう。


 善も悪も捉え方次第だというのに、悪人なら殴れると簡単に言えないか。

 その要素が何かを抑えていたかもしれないとかある。

 その悪がある事で辛うじてそこの世界がまとまっているとかもあり得るのだ。


 精神が現実逃避激しすぎる。現状に向き合えよ。おい。

 どんだけ避けたがるんだ。どうしたらいいかわからない? 考えろよ。

 逃げるのか? 迎合するのか? 立ち向かうのか? 何に立ち向かうんだ?


「シロ」


 わからない。わからない。わからない。

 なんで名前を答えたのかもわからない。

 結局俺はこれをチャンスとして見ているのかもしれない。


 俺は何を求めているんだ? 知らない。この状況が想定外だ。

 俺はどうしたいんだ? 知らない。ただチャンスなのだろう。

 俺はどうなりたいんだ? 知らない。別に死なないなら死なない方がいい。


 死ぬならいい景色を見て死にたいと思った。

 もしこの少年についていったら俺は人間に成れるのだろうか?

 人間になれば死なないで済むだろう。


 人間になりたいから人間に近づくのは人間じゃなくて化け物の所業だろう。

 それが求めているモノであるわけがない。

 人間になりたいで動くのはダメなんだ。もっと生きた行動をしなくちゃいけない。


 ほんとどうしたらいいいんだ?


「わんこみたい」


 ……。


 超ニコニコしながら言われた。


 やばい、この頭超叩きたい。

 すごい「バーカ!」って言いたい。

 何でだろう? この名前に俺は愛着を持っていたのだろうか?


 わからない。


 でもからかわれるのは嫌だ。

 そこに悪意がないのは分かっている。

 ただの感想だろう。分かっている。


 でも嫌だ。


 むしろ悪意なら完全にシャットアウトできる分微塵も感情は揺さぶられない。

 悪意なら何をされたところで叩き潰せばいいだけだから気にならない。

 悪意じゃないから苦手なんだ。対処の仕方が分からなくなるから。


 ねじくれた感情は弱い。コンプレックスなどが原因なので1つ潰したところで別の場所から生えてきて根絶し難い。だが弱いので潰しやすくて実のところそこまで怖くない。

 真っ直ぐな感情は強い。根拠を崩したり出来れば折れやすいが、出来ないものはすごい面倒くさい。

 悪意みたいなねじくれた感情なら自分の中で簡単に潰せる。でもこれは上手くできない。


「俺はわんこじゃない! そう言われるのは嫌だ!」


 俺を表に出すとどうしてこんなに子供っぽくなるのだろう。

 歯をむき出して威嚇するわんこみたいだ。

 いつもは仮面に全て対応を任せていたからだろうか?


 外に出した俺と中の俺が乖離しだした。

 リク君は本当にこの世界産の人だったのだろうか?

 多重人格よろしく、明確に分離した人格の1つだったんじゃないだろうか?


 わからない。彼が本当は何者なのかとか知らない。

 だが彼の事を俺がコントロールできるわけじゃない。

 つまり彼は別人なのだ。俺じゃないんだ。それでいいんだ。


 思考が乖離する。乖離している。

 思考の海に潜行してしまう。周囲を見ている様で見ていない。

 ダメだ。それではいけないんだ。もっと周囲を、前を、相手を見ろ。


「はいはい」


 超絶ニコニコ。


 傍から見たら絶対フシャーッ! って威嚇するネコを可愛いなと見ている少年の図じゃないか!

 それでいいのか? 俺はそれでいいのか? 良くないだろう。俺はもっと理知的でいたいんだ!

 理知的? 理知的というには俺はバカすぎるだろう。雰囲気だけのそれは色々悲しい。


 どんな時でもサラサラと何でもないかの様にやり抜く。それが理想的な理知的青年の姿だろう。

 いや、今の少女の姿なら不思議な空気をまとって、何でも出来てしまう不思議ちゃんが面白いはず。

 ノラネコ系少女ならもっとスレていてほしい。後もっと活力が欲しい。俺じゃ色々足りないのだ。


「もういい! 俺はこっち行くから着いてくんな! バカ!」


 お前は誰だ! 俺の中の俺! ツンデレワンコか!


 びーくーる、びーくーる、ビーグル……。落ち着け。モチつけ。

 仮面が雰囲気に流されておかしくなっているだけだ。

 落ち着けばテンションは直るはずだ。


 ……おい、やれやれ顔であの少年ついてきているぞ。

 頭の中のテンションがマンガでいうところのグルグルお目目になっている。

 どうしているんだ? 本当に。


 ……この姿を俺と受け入れた時俺は人間になるのだろうか? 何それ怖い。



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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく生の感情を剥き出しに出来るようになりましたね。
[一言] わんわんお!わんわんお!
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