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197、少年

 空はまだ青くお天道様が高くにある。空気に緑の青い匂いが混じる夏の香り。

 湿気は少なく、日本のそれとは違うけれど、空気は夏のそれに近い。

 湿気が少ない夏って控えめに言って最高では?


 自然の匂いは好きだ。天気や季節によって空気の匂いは大きく変わる。

 わかりやすいところだと雨上がりの土の匂いとか好きだ。正体はカビの胞子が原因らしいが。

 こういった匂いも心がざわついていると気づけなくなる。余程な異臭でないと意識に上らない。


 人混みの臭い。汗臭さなどは感じられない。

 ここの人達はきれい好きなのだろう。そういえば俺もお風呂にすぐ案内された。

 水が使いやすい環境なのかもしれない。それと汗を流して働かなくても生活できるとかありそうだ。


 身なりのきれいな人が多く、土ぼこりも舞わない。

 人通りはそこそこ多くてもゴミの類も見受けられない。

 安定した地域なのだろうか? 不思議な地域だな。


 日本で言ったら年収600万くらいの人ばかりが固まった地域みたいなモノだろうか?

 会社経営者ばかりの地域があるとしたらそんな感じだろうか。肉体労働者の雰囲気はそんな感じられない。

 個人個人は小市民のつもりだけれど、そこそこ贅沢できるくらいの人達の集まり。


 この環境だ。資源には事欠かないだろう。

 資源があれば製造関係は栄えやすい。消費する地域があればそこに向けて製造していけばいいだろう。

 西が確か砂漠みたいな環境だったかな? そうだとすれば消費地はそこが中心になるだろうか?


 東は木材が強く、西は金属に強いとかありそうな予感。

 北と南はどうなるのだろうか? 外に求める敵は魔物がいる。

 1つの統一国家としてまとめるのが容易いのかもしれない。


 1つの都市が主張できる領土と言っても限られている。

 外壁がなければ魔物が襲ってくると考えたら領域の拡大に関して他の都市と争う事はないだろう。

 むしろ人的資源を狙うだろうか? 住民権だ、なんだとニキさん達が話していたのを思い出す。


 住民権で逃したくない人材を確保したり、どうでもいい人員を放逐したりするのだろうか?

 土地が限られている以上、都市に住んでいるというだけでステータスなのかもしれない。

 溢れた人員は都市の近くでスラム街を建設している可能性とかあるのだろうか?


 スラム街が都市の外に出来ているとして、ここに来るまででは見ていなかったな。

 辺境がほど近い以上、住民権を獲得できない様な人は都市の側だろうと生き残れないのかもしれない。

 外壁に守られていない以上魔物に襲われるだろうし、エサになりに行く様なモノだったりするかもしれない。


 そうなるとあふれた人員はどこに行くのだろう? 中郭の辺りだろうか?

 あそこなら辺境からも離れている以上、この辺りに比べて魔物の危険は少ないだろう。

 行きは車の中、魚の腹にいたから見てない場所になる。


 そういえば盗賊云々も王都から中郭の間だった。

 魔物がいるからというのが色々影響するんだろうな。

 そう思うと本当に不思議なところだ。


 いや、だからこそリドお姉さんは俺が身分の証明が出来ない事で匿うのに躊躇したのか。

 この世界だからこそ身分証明が出来ないのは痛手なのだろう。

 都市の規則に反した時自分にそれが返ってくるかもしれない、そこら辺も恐ろしいかもしれない。


 都市から追放されるのは割かし身近な出来事かもしれない。

 余計な人員を抱える事が出来る土地がないのだから。

 自分の価値を証明し続けないと生きていけない、そんな可能性すらある。


 ある程度の年齢までは保護してもらえるとかあるのだろうか?

 それを越えたら、価値の証明が出来るまで、どこかに居つく権利を失うとかあるかもしれない。

 生まれた時から持っているのはいわゆるビザで、期間限定の滞在許可証とかだったりする?


 滞在許可証の期限更新はお金でなく能力の査定で行われるとかだとやばいな。

 肉体に埋没させたりしているのなら盗難や詐称は難しくなるだろう。

 体の目立つ部位にそれがあれば期限切れが分かりやすいし、魔法で管理していた場合色々とやばい。


 まぁ、この世界ならそんな事も出来るだろうっていう妄想だけれど。


 そんな事が出来るならルールを破るのを怖いと思ってもおかしくない。

 ルールを破って減点などされて都市の外に放逐されたら普通の人はどれだけの期間生きられるだろうか?

 見た感じ文明は発達しているのだ。この便利さに野生を忘れた人は1週間も生きられたらいい方なのではないだろうか?


 さすがにいきなり放逐は厳しすぎるだろう。

 そうなると居住権、滞在許可証、色々段階を踏んで最終的に放逐みたいな感じになりそう。

 ここまで来てまだ残るとか言わないよな? くらいに外堀を埋めてって感じで。


 まぁ、全部想像でしかない。具体的に手続きを見たわけじゃない。

 いくら想像したところで実際それを全国的に展開するのは大分困難だろう。

 国の成り立ちとか考えるといきなり仕組みを導入するのは困難。初期の住人とかそんな管理を受け入れがたいだろうし。


 いや案外イケるのだろうか?

 始め村レベルの開始だとして、そこを名誉住民とかにして、永住権で保障とか言えば簡単そうだ。

 順次移民を受け入れたとして、そこからは先の制度を導入すればいいのだから。


 中心部とかにそういう都市成立初期の人達が住んでいそうだな。

 国として考えた時、町長というかそういう存在はあえて国から派遣した人にした方が管理が容易いか。

 地方豪族とかで一極化すると政治が腐るとあっという間に住みにくい場所になるだろうし。


 前に見た地図の都市配置を考えると国が計画して作り上げたところなのは間違いない。

 計画して作られた都市だとすると、魔物対策とかの意味もあるはずだ。

 砦だと考えたら陥落はしてほしくないし、いざという時国からの指示をちゃんと守ってほしいとすると、代官を置くのが自然。


 ……何を考えているのだろう。未練がましいか。


 結局俺は色々間違えてしまったのだ。頭でっかちで行動が出来ていないのだ。

 後悔しない行動を! とかいき込んでもそれが空回りしている。

 自分1人の知識などたかが知れている。想像できる事も興味の矛先が変われば大きく変わるし、1人では結局求めている物は何も得られないのだ。


 求めている物。そうだ。俺が求めている物。

 1人でやっていくのは俺としては気楽でストレスのないモノだろう。

 だけれどそれは本質的に求めている物じゃない。


 俺が求めている物は俺が逃げている物でもある。

 人付き合いだ。互いに認め合い、独りよがりではなく作り上げていく事。

 他の人が息をするようにやっているそれを俺は出来ない。出来ないから欲しいと思う。


 これが出来るのが俺が思う人間なのだろう。


 俺は誰かを認めたのだろうか? 誰も認められていないだろう。

 さっきから後ろでのんびりついてきている彼どころか、この世界で生まれてきた頃から一緒だったリク君でさえも。

 俺の中には本当の意味で存在できていない。外側の世界だと拒絶している。


 認めるとは何だろう? 仲間だと思う事だろうか?

 なんか違う気がする。敵同士だろうと物語の中の彼らは認め合う事が出来ていたのだ。

 仲間だろうと認められない奴は認められないとも言える。


 こいつならこうするだろう。そう思える事だろうか?

 それも何か違う。大まかな予測など初対面だろうと出来る。

 多少見ればその精度は上げられる。それが認めるとは言えない。


 本の中のキャラに感情移入して、その思考をいくらトレースできる様になっても、認め合うにはならない。一方的だからな。

 ストーカーがいくら相手を理解したつもりになっても、それは一方的な行為だから人間になれない様に、自分1人がいくら動いても意味はないのだろう。

 あぁ、もうどうすればいいのだろうか? わからない。


 一緒に働く事で互いの性根を分かり合えれば部分的にでも人間になれるかと思ったがそれも出来なかった。

 だが人と話すのが不得意な俺はそんな関わり方が一番無難だと思っていたんだ。

 それが出来そうだと思ったのに出来なかったのは俺がダメだからだろう。


 こんな事を考えるのはやはり悔しいからなのだろうか?

 あぁ、ほんと未練がましい。自分で決めた事だろうが。後悔しやがんなよ。

 最善を尽くそうとはしてきたんだろ。俺じゃなければとか一番答えになっていない言い訳するんじゃねぇよ。


 いくら人に憧れようが、俺は俺でしかないんだ。

 他人に俺の道を歩けない様に、俺はどこかの誰かの道を歩けない。

 俺は俺の道を行き、ここで終わるんだ。そこに他人はいない。


「なぁ、何か悩みとかあるのかな? なんでそんな寂しそうなんだ?」


 この少年の話し方、誰かを手本にしようとしてそこに自分の言葉が混ざっているっていう感じがする。

 借りてきた言葉の部分、アクセントがおかしい。これが自分の言葉になった時、全てがすんなりと言える様になるのだろうか?

 けれど借りてきた言葉とはいえ、この言葉は本心から出てきたものだろう。


「俺はどこにも居つけないモノだからだ」


 あーあ。このガワだっていうのに俺って言っちゃったよ。まぁ、いいか。

 きっとヤケになっているんだろうな。俺は。

 彼をどうでもいいただの傍観者だと思っているからこの言葉遣いが出来るのだろう。


 まぁ、今更外面を取り繕っても意味がないとも思っているのだろう。

 実際きっとそんなに経たないウチに俺は終わるのだ。終わればそこでこの今世ともお別れだ。

 だから外面を気にせず言葉が出たのかもしれない。


 やはり捨て鉢だな。ヤケッパチだ。しかもなんだ? 厨二病か? 厨二病だな?

 例え本心でそう思っていたところで、言い方が厨二病なんだよ。草生えるわ。

 気取ったクソ野郎だろ。バカみてーだ。いやバカだ。間違いない。保証する。


「んー? じゃあ、ウチ来る? 家がないって事だろ? 家出中か何かかな?」


 思わず振り返って少年を見てしまった。


 少年は腰に手を当ててこちらを見ていた。

 青空の様な色をしたTシャツと彼の目の光が陰気を纏ってしまった俺には眩しい。

 少年は本気で言っている様な雰囲気だ。


 それにしてもこんな異様な不審者を誘う奴がいるなんてとも思ってしまう。


 ……いや、そうだな。俺のこの見た目だ。普通に厨二病にしか見えないわ。

 しかもここの世界だもの。なまじ力を持っている子供が親に理解されないってすねて家出している様にしか見えないだろうな。

 考えたらそれにしか思えなくなってきたわ。俺とか言っても強がっているんだねにしかならないのか。


 駄々っ子にしか見られていないと思うと草が生えてきたわ。

 ぶっちゃけ俺の頭も多少年食っただけで、駄々っ子がごねているのと内容はさして変わりがない。

 そういう風にすら思えてきてしまった。対人経験の不足で出来ないとか言い散らかしている様なもんだからな。


 毒が抜かれてしまうな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 会話が少なすぎて思わず読み返しても主人公一カ所しか喋ってなかったw
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