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196、ついてきた

 つま先から地面に着き、土踏まずや膝に股関節を駆使して衝撃を和らげる。

 あまり大きな音を立てることなく地上には降りられた。そんなに高さもなかったし衝撃音自体少なかった。

 ただ通りを歩く人の目はこちらに集まっている。笑って手でも振っておこう。


 どんなに異常であっても普通に振舞えば普通に見える。

 異常は異常と認識しているモノにしか異常と思えない。周囲が平然としていれば自分がおかしいと誤認する。

 それに異常にかかずらって、自分の日常が壊れるのは受け入れがたいだろう。


 放っておいても直接自分に被害が出る事が容易に想像できるものじゃない。

 ちょっと変だろうが、女の子1人が何出来るか? そう思ったら放置一択だろう。

 そもそも実際施策などに何の裁量もないし、出来る事など特にない。破壊活動なんてしたくもない。


 そう考えると一部の時間のあるお人よしくらいだろうか? 関わってくる可能性があるのは。

 飛び降りを見ていた野次馬が多少見てくる事はあっても、話しかけてくるヤツは少ないはず。

 海外なら「お前すげーな。足どうなっているの?」とか冗談言う人もいるのだろうか?


「お前すげーな。足どうなっているの?」


 ……。


 フラグが立っていたかな? それにしても考えていた事が一字一句違わず考えた直後に出てくるとか有り得ないだろう。

 誰だ? どんな顔をしたヤツだ? こんな異常の塊を呼び止めるヤツ。

 小説の主人公って何かいっつも何か余計な事に首を突っ込みがちだよな。そんな主人公顔か?


 後ろを見た。


 見なかった事にした。


 なんだよ。あの明るすぎる瞳。なんであんなキラキラした瞳で俺を見ているんだよ。

 あれに対して見つめ返せる程俺は何か出来ただろうか? 何か優れているだろうか?

 ただちょっと手慰みに行動して、上手くいかなくて逃げ出した俺に何があるというんだ。


 そうだよ。俺なんて結局は逃げているだけなんだよ。

 人付き合いに詰め将棋を持ち込もうとして、上手く動かせずに詰んだ頭が足りない雑魚に過ぎないんだ。

 足りないんだよ。色々なモノが。ダメなんだよ。


 欠けている事は分かるけれど、何がどう足りないかが上手く説明できない。

 自分の性質だ、しょうがない。そんな言葉で逃げている。

 そんな逃げてばかりの俺がこの瞳に対して胸を張れるわけがない。


「なぁ、どこに行くの?」


 無邪気な声が聞こえる。純粋な好奇心だろう。

 青年と少年の狭間の声。強がりと幼さが混ざっている。

 子供は時間がある事が多いし、声を掛ける事に躊躇する事情は少ないよな。


 それに見た目的に言えば俺は子供なのだ。さらに言えば小奇麗で美形なのだ。

 そう設計したのはリク君だ。降り方を考えれば天使みたく思われるかもしれない。

 子供から見れば恐怖などを抱く対象足りえないだろう。


 で、どうしよう? この子を振り払った方がいいだろうか?

 わからない。でも振り払う必要はないか。飽きればどこかに行くだろう。

 この子を気にする必要はほとんどないんだ。


「決めてないよ。ぷらぷら歩いてどこかに行くだけ」


 死ぬまでの散歩。動けなくなるまであとどれくらいだろう?

 陽が落ちるまではついてくるかもしれないが、流石にそれ以降はついてこないだろう。

 こっから先はただブラブラするだけ。普通の子にはつまらない散歩だ。


 飽きるのが先か、門限が先か。


 どうせいつかはいなくなるだろう。

 親がいるのなら親の元に帰るべきだ。

 それが俺が見ている世界のはずだ。


「そっかぁ。じゃあ、俺が案内しようか? お姉ちゃんここの人じゃないだろ?」


 お姉ちゃんか。


 見た目で言えば声の持ち主の方が確実に年上だろう。16歳とかそこらだと思う。

 前世も含めた年齢でいえば俺の方が年上だろうけれど、それが分かるはずもない。

 どうしてお姉ちゃんと言ったのだろう? わからない。


 おじさんがいうお姉ちゃんと同じだろうか?

 まぁ、若く見られたいが下に見られたくないみたいな感情から、お姉ちゃんが無難な呼び方になるのだろうか?

 処世術か。あんな明るい瞳の子でも苦労しているんだろうな。


 知り合いがそう言っていたから似た感じで接しているとかもあるかもしれない。

 それがかっこいいと思ってやっているとしたら何も言えない。

 むしろこの瞳の子だ。その可能性の方が強いか。


「いい。私は私の見たいものを見に行くから」


 見たいものを見る。結局これが自分の世界を狭めている最大の要因じゃないだろうか?

 それにしても心がトゲトゲしている。何故だろう?

 自分から離れたんだ。その判断は誰かのせいではない。俺のせいだ。


 そこに居着けるかもしれない、そういった期待感がかえって裏目に出たのだろうか?

 一瞬でも神の思し召しみたいな運命を感じたから、それを上手く扱えなかった俺が嫌なんだ。

 今世にしても生まれ自体は幸せだっただろう。それをダメにしたのは俺なのだ。


 出来なかったのは俺自身のせい。

 一瞬清々した思いになったのはただの諦めが生み出した幻想。

 そんな簡単に諦められるなら俺はここにいないはずだ。


「何を見たいのか教えて。案内するからさ」


 ナンパか? これは? ナンパなのか?

 いやしかしだ。ぱっと見10歳児をナンパする可能性はあるのか? ないだろう。

 しかも肉体的強いシーンは見ているのだ。それでナンパをかけてくる可能性は低いよな?


 興味本位のそれか? 見た目がちびっこな以上、保護者目線になっているのか?

 迷子の可能性を考慮して、動いてしまう兄貴分的な意識だろうか?

 それともかどわかしてどっかに連れ込む目的? 人身売買的な? この子自身騙されている可能性もあるかもしれない。


 どんなに力が強くてもとかだったら笑う。

 この身には刃物だろうと刺さらないし、反撃であれば俺が躊躇する事もない。

 そもそもついていく意味がないし、案内される必要もない。


 俺が見たいのは人の営みやそれが生み出す光景だ。

 それは住んでいる人程無頓着になりやすいものだ。

 的外れな案内になる事は確実である以上、かかずらう必要はない。


「いらない」


 そう必要ないものなのだ。


 ……これは逃げているのだろうか?


 見ない様にしているんじゃないんだろうか?


「そっか。じゃあさ、ついていってもいい?」


 彼は何故こんなに冷たい対応をしているのに寄ってくるのだろう?

 理解が出来ない。何故心折れずについてくるのだろう?

 走って逃げるのはなんか負けた気分になるし嫌だな。そこまでする意味もないし。


 気分がモヤモヤする。


 切り捨てた事で一瞬ハイになった分、今嫌な気分が増幅されている。

 さっきの判断で間違えていなかったかなんておかしな事を考えている部分もある。

 そもそもやる事に正解などありはしない。視点を変えれば全部間違った判断になる。


「好きにすればいいんじゃない」


 あ、そうか。危険な人に見られている可能性もあるのか。

 何をしでかすか分からない奴として見張っているのかもしれない。

 身体能力の高さは分かりやすい異常だから、街を守るとかそんな意識で見ている可能性も微レ存。


 まぁ、変なのがついてきていようが、俺がしたいのはただの散歩。

 道行く人を眺めて、自分の得られなかった生活というのを少しは理解した気になりたいだけ。

 最期の場所探しにもなるか。……ただのは間違いかもしれない。


 やる事としては散歩なのは間違えないし、そこは大きなミスではないだろう。

 この世界にはノラ猫とかいるのだろうか? そういうのも見てみたい。

 俺はまだこの世界をちゃんと見ていないのだろう。


「ありがと」


 ぼんやりと。ボケっと。焦る事なく。ただただ自然を楽しむ。

 甘酸っぱいヤマモモの実をつまみながら枝の上で寝転がってた小学生時代。

 風でざわめくこの葉の音に耳を澄ませ、枝の隙間から見える雲を眺めた。


 ただ自然に身を任せる。そんな穏やかな時間を今世は過ごせていない。

 もう最期の時間なのだ。せめて最期だけでもそんな落ち着いた時間を過ごしたい。

 邪魔される様であればどこかの壁を越えたりして撒けばいい。










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― 新着の感想 ―
[一言] もはや完全にラノベのヒロイン! そうか……綺羅星のごとき無数のラノベのヒロインたちは内心でこういうことを考えてきていたのですね……!
[一言] 何かに遭遇したりするのかねぇ
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