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193、お姉さんとお話

「あれ? 言ってなかったっけ? あたしはリドだよ」


 柔らかく笑うとリドお姉さんは俺の頭をわしわしと撫でた。

 見上げると険のある鳶色の瞳が柔らかい色を帯びていてとても優しそうだ。

 こういう人って表裏がない不器用を想像してしまう。実際はどうなんだろう?


「リド……リドお姉さんって呼んでもいいですか?」


 これからどうしていけばいいか。

 まず服か。新しい服がないと素肌にポンチョという背徳的な姿のままだ。

 下着とかもないと変態だろう。


「あぁ、いいよ」


 なんかさっきよりも笑みが深い気がする。

 漫画的に言えば頭の周囲にタンポポが咲くようなと言えばいいだろうか?

 お姉さんと言われてテンションが上がったとかそんな感じだろうか? 流石にそれはラノベの読みすぎだろう。


 わからない。


「リドお姉さん、私今この下に着てなくて何か服があると嬉しいんですが」


 子供らしくない言葉になった気がする。

 どうせ子供だと言い張るのは厳しいし気にする必要はないか。

 いっそ俺にしてしまうか? その方が清々する。


「服? え? あぁ、何かあったかな?」


 思案顔。普段ここに子供がいないのだろう。

 でなければこんな風に悩んだりしないと思う。

 いるならもっとどこかにあるだろうっていう顔をするだろう。


「なければないで大丈夫です」


 あってほしいけれど、話のネタよりの内容だしな。

 お風呂で体の付着物が消えたことでポンチョが密着している感じがして気持ち悪いだけだし。

 これも慣れたらお終いだ。この体は垢が出ないし、ポンチョは壊れにくいし、優先するべき事ではない。


「そ、そうか?」


 突き放した言い方になってしまったかもしれない。

 メロスは距離感がわからぬ。メロスはどこから来たんだ。知らぬ。

 考えればいい事が分からなくなって思考が暴走している。


「私は何したらいいかわかりません。ただ働かぬもの食うべからずという言葉が出てきます。何か私に出来る事はありませんか?」


 不思議少女だな。空から現れて仕事させてくれという。

 実際問題ここで放り出されると大分困る。だから仕事をしないといけないんだ。

 俺には何よりも時間がない。起動停止する前に人間だと認識できないといけないんだ。


 認識するために行動するっていうのが最高に人外。


「え、あ、うん。そうだね? まだ君の事がお姉さん全然わからないから教えてくれるかな?」


 リドお姉さんはくしゃっとどこか困ったように笑った。

 展開が急過ぎるよな。思考が追い付かない可能性が高い。

 というか俺も混乱が激しい。人間相手に話すのに慣れていない。


 自己紹介。事故紹介。ほんと事故しか起きないだろ。


「私はシロだよ。どこから来たかとかは分からないよ。それで何を教えたらいいの?」


 正しく事故。いや、知りたいと思われるのはどこから来たかだろうし、俺はそれを答えられない。

 下手に王都とか言ってそこに送り直されたら元も子もないしな。

 それと地味に方角とかも分からないし、ほんと何とも言えない。


「えっとそうだね。じゃあ、今まで何をしてたとか?」


 その質問も色々困る。俺としてもなんて説明すればいいか分からないモノが多い。

 そもそも今世で何かを成し遂げただろうか? 何も為せていない。

 どれもこれも逃避と言ってしまえばそれでお終いだ。そうだよ、逃避だよ。


 逃げて避けて、自分が出来ない理由を必死こいて探してさもそれがそうする事が正しいと思い込んだ。

 自分から何かをしただろうか? 状況に対応した行動と言えば聞こえはいいが、目的意識が足りない。

 自由になりたい? それは結果的になるモノだ。自由な人とは成し遂げた結果に成れるモノだ。


 あぁ、思考が脱線している。今聞かれているのはバックストーリーだ。

 そこから何が見えるか? 孤児なら孤児らしいエピソードが出るだろう。そういったモノだ。

 貴族の子とかそういう可能性もあるだろうと服を見て思うかもしれない。


「難しいなら大丈夫だよ」


 話さない。それは人間だろうか? 普通だったらそれで問題ないはずだ。

 だが俺の場合はどうだろう? ディスプレイの前にいる人でしかないんじゃないか?

 ゲームの中の勇者が如く、無言か決められた文言だけでしか俺は話していないんじゃないか?


 それは果たして人間だろうか? 自分の言葉で話しているといえるだろうか?

 やけくそで一人称を俺にして話してみるか? だがそれは雇って欲しいと言っている相手にする言葉遣いじゃないな。

 どうすればいいんだ? 分からない。だが何かしないといけない。どうすればいい?


 目的意識に欠けるんだ。分かりやすい選択肢に飛びつき過ぎなんだ。

 それにレールに乗れる人生はリク君のモノだった。あれは俺のモノじゃない。

 ダメなんだよ、それじゃ。考えろ。どうすればいい?


 俺は俺自身で道を切り拓き、自由を獲得できる成功への道を見つけなければならないんだ。


「リドお姉さん。私って何歳に見えますか?」


「え?」


 いつかどうせバレる物。というか下手したら、魔力切れまでのタイムリミット的に、1日以内にバレる可能性のある事。

 この体がゴーレムである事を明かすのは別に問題ない。

 世界5分前説だっけ? 今の俺という存在を形作る記憶は誰かに造られたモノかもしれない。そう思えば前世云々など妄想と思うのは容易い。


「私、実は生まれて? 造られて? 1週間経っていないんですよ。生まれて逃げ出して川とか流れて、神様みたいな人に投げられてここに着いたんです」


 何も嘘をついていない。


 だがしかし……自分で言ってみてなんだが、フィクションもビックリのストーリーだな。

 オズの魔法使いとかメアリーポピンズとかその辺りを思い出してしまう。

 俺は何を言っているんだろうな。


「証拠と言ってはなんですが、私は魔力を吸収して動く人形のようなモノなので、魔力の放出は一切しておりません。力が強いのでお姉さんを持ちあげる事も簡単ですし、今のところ何も私を傷つける事は出来ていません。川を流されたと言いましたが正確に言うと魚に食べられてですね」


「うーん、ちょっとお姉さんよく分からないなぁ」


「こういう事もできます」


 高速移動。無駄の極み。しかし歩きに緩急をつける事で分身している様に見えるのだろうか?

 歩くというより走って止まっての繰り返し。お姉さんを中心に前後左右。イメージはシャトルラン。

 エネルギーの無駄だけど、分かりやすいと思う。出来るだけ速くやればそれらしくなるはず。


「……あたし疲れてるのかな? お酒飲んだ覚えはないんだけどなぁ……」

「現実ですよ」

「音がぶれて何言っているのか、分からないし、止まってくれるかな?」

「これは現実です」


 止まって口にすると泣きそうな顔をしてリドお姉さんは困っていた。

 まぁ、間違いなく困るだろう。自分が拾ったのが得体の知れない何かだったのだから。

 仕方のない事だ。


 しかしほんとにこれで良かったのだろうか?


 自分をさらけ出す事で本当に俺は人間に成れるのだろうか?

 この世界の住人足りえるのだろうか?

 成るんじゃない。なのだ。人間なのだ。人間だと認識しないといけないのだ。


 姿形が動物どころか、器物だったところで、人格を持ち人と交流できるのであればそれは人間だ。

 会話できるモノは何だろうと「あの人」と呼び指し示すのは日本人のお得意芸だ。

 姿形でそうなのだ。能力なんて大した意味合いはない。この人に出来てあの人に出来ない事などたくさんある。出来る事で人間を選ぶモノではない。


 話し合えるモノが人間なのだ。

 人間の形をしていて、人間の言葉を使える以上、俺は人間なのだ。

 俺は人間なのだ。


「ちょっと落ち着かせて。頭が痛くなってきちゃったからね」













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[一言] 一歩前進した( ˘ω˘ )
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