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191、脱衣所

 鏡を見ても人間とは何かの答えは出ない。出ないのに何故見ているのだろう。

 ちゃんと全身を見る機会なんてほとんどないからだな。たぶん。

 この体をちゃんと見たのは初めてなのでは?


 この体を一時的なものだと認識してはいないだろうか?

 思っているだろう。そこも人間らしくないな。この体ゲームのアバター並みに均整が取れているがな。

 人間に予備の体なんてありはしない。ゲームでアバターを変える様に体を切り替えられない。


 実際問題この世界に来てから俺は1度体を切り替えているのだがそれは例外だろう。

 2週目特典か。その言葉自体がおかしいな。

 本来人生に2週目なんてあり得るわけがないのだから。


 俺はどこからどこまでをゲームと認識しているのだろう?

 俺のゲームは誰かと協力するようなモノですらない。1人、ただ1人、誰とも繋がる事なく、画面の前で始まり終わる孤独なゲームの様だ。

 そのプレイヤーはどうしたところでゲームの中の人間足りえないだろう。


 誰かと何かを共有する事ない。これがおかしいのだ。

 NPCの会話の様に、表の世界の話は裏の俺には関われない世界だと思っているのがおかしい。

 それが自分を人間ではないと認識している大きな部分なのだろう。


 自分の事だというのに他人事なのが抜けない。焦っているはずなのに、変えられないのだろうか?

 今までの焦りみたいなのは例えてみればゲームのコントローラーを投げる気分で「クソゲー!」とか言っているのと何ら変わりがなかった。

 ゲームで残機が1減るみたいな感覚のそれなのだ。そう思うとほんとおかしいだろう。


 そもそも俺は自分の命だろうとただの残機としか捉えていないんじゃないだろうか?

 死に対しても実のところ何も思っていない気がしてならない。

 ゲームの縛りプレイと同じなのだ。俺の自分で思っているしてはいけない事というのは。


 これは倫理で縛ったモノではない。

 これは理性で縛ったモノではない。

 これは法律で縛ったモノですらない。


 ただこうなるだろうからするのは止めた方がいいだろうという機械的な判断に過ぎない。


 そこに含まれているのは感情ではない。

 そこにあるのはただのドミノ。どこを倒せば思い通りの絵柄になるかを見ているドミノ。

 俺に絵柄を操る能力はなさそうだがな。


 物事を並べて倒し、次の物事を誘発させる。

 上手く並べられればそれこそ何でも描けるのだろう。

 学校とか、そういうのは絵柄の根幹となる部分を作りあげるのに役立つはずだったのだろう。


 どうすれば生きるのが上手くなれるのだろう。

 

 こうやって悶々としているのが一番意味がない。

 どんなにいい事を語ろうと行動が伴わなければただの妄言だ。

 だが何をすればいいのだろう? わからない。


 どうすればこのガラスを突き破れるのだろう。

 ガラスのこちら側で暴れたところで何も起きやしない。

 アバターを動かさないとダメだろう。


 ゲームの人に感情移入できる人、その世界に没入できる人。

 彼らと同じ様にその世界の住人になりきって?

 なりきるも何も今の俺にはこの世界しかないはずなのに、人間になれなかったんだがな。


 欠けているモノが大きすぎるんだろうか? 話せた記憶はあるか?

 リク君や木の神様か? あの人達? みたいに直接心を読まれなきゃ本当の意味では話せない?

 やはり俺は壊れているに違いない。あれは会話じゃなくてやけっぱちだ。


 やけっぱちこそが本当の会話になるのだろうか?


 だとしたらやけくそであの人にぶち明ければいいのか? 何それ怖い。

 だが現状をズルズルとする事が出来る程の時間があるわけじゃないだろう。

 もう選択肢など残っていないんだ。


 信じるわけじゃない。裏切られる覚悟は決めないといけない。

 死ぬ間際に自爆する怪人になった気分で行くだけだ。

 ヒーローの悪役って自分が勝つ自信をどこから持ってくるのだろう?


 能力が上がった高揚感? だとしてもおかしくないか?

 何故その程度で、周囲の怪人がやられているというのに自分の優越を信じられるのだろう。

 根拠のない自信というのはそういうものか。あいつよりも俺は強いという認識がそこにあるのかもしれない。


 あぁ、思考がまとまらない。


 とりあえず服着よう。ほんといつまで裸で突っ立っているんだよ。

 ろくに拭いていないのに体が乾いちまったじゃないか。

 髪の毛に着いた水も毛先に全部溜まって頭皮部分はもう乾いている。おかしいな。


 ……つうか、目があれだな。うん。人を見る目をしていない。

 俺がこの体を見る目が自分の体に向ける目ですらない。

 感情が欠片も見えない、人形のガラス玉か何かを思い起こさせる。


 感情ってなんだっけ? 情欲とかほんと困るんだが。


 俺の自由になりたいというのは欲求として成り立っていないのでは?

 それしか考える事がないから、それだけを考えているというのであって、欲し求めているわけではない?

 やはり精神構造が歪だな。何も求めていないと考えると正確にすら感じる。


 普通の人ってこんな事で悩んだりしないだろう。ムダだしな。

 そもそも俺は何かが必要だと思っているのだろうか?

 普通の人ならあれがしたい、これがしたいとすぐ考えつくのだろうか? 


 普通の人。普通って何だろうな。

 人は環境によって自身の普通を変化させているはず。

 だから極論普通というのは明確な基準が存在し得ない。


 前世で歩いてきた道を考えてみるとそれがよく思い浮かぶ。


 高校くらいまでなら大学行って公務員やサラリーマンになるのが普通に見えた。

 家出した後見た世界は高卒が普通でくたびれたスーツや作業服が普通になった。

 目を広げれば海外はそれすらも覚束ない場所すらあるらしいし、ほんと普通とは? となる。

 そしてそれらの普通を見て回ると自分の思う普通がいかに傲慢だったかを感じてしまう。


 いや、普通談義はどうでもいいんだ。普通の基準とか、人間とはとか、結局はお気持ちでしかない。

 個人に関係はしても、個人にしか関係しない事なのだから。

 こんな七面倒くさい事、ほとんど無意味に近い。


 無意味に近いはずなのに、俺の体には重要とかほんと面倒くさい。

 お気持ちはあくまでお気持ちであるはずだろ? なんでこんな事になっているんだよ。

 この罠は誰が仕組みやがった? 俺は1人で何でも出来る様になりたいとすら思っていたはずなのに。


 誰のせいとか言っても仕方がないな。それで責任を取らせる意味がない。

 結局は自分の体にまつわる事なのだ。それを解決するのは俺だろう。

 非常に面倒くさくてやる気がわかないが。


 ……非常に気が進まないが、選択肢は藪を突いて蛇が出る事前提で話をあの人にするしかないのだろう。


 ……もう股間は見られてしまったのだ。


 逃げたい。隠し事は気づかれないで過ごしていられるのがよかった。

 隠し事は受け入れられない前提で頭にある。もし受け入れられるのであれば隠し事しない方がいい。

 けれど隠し事は隠していた方が無難に過ごせるから隠し事なのだ。


 全部が全部、周囲の人に知られているのはなかなかに狂っている。

 分かる必要がない事、知られている事で負担になるモノ、世の中には色々ある。

 しかしながら隠し事しながらだと話しにくい事が多いのもまた事実。


 ……そう考えるとやたらと説明が多い悪役って本当は仲良くなりたいのかもしれない……。ないか。

 気分の高揚とか、話せる相手を見つけられた嬉しさとか……あれ? やっぱり仲良くなりたいのか?

 なんかたいていの悪役って友達少なそうだもんな。話したいよな。分かる。


 それ話していいの? って事まで話すの、寂しいからなんだろ? って言えてしまいそうで悲しいな。

 すごい煽りになるから挑発目的以外では戦闘時使わないだろうけれど。

 そういえばなんであんなに戦闘の際話す余裕があるんだろう? 不思議。


 現実逃避し過ぎ。さっさと服を着て話し合いのお時間をしないとだ。

 ろくにタオルを使っていないけれど、髪が乾いているのほんとチート。

 粘液がついていなければ汚れもつかないのかな? お手入れ簡単過ぎて生きるの楽そう。


 どんな過酷な環境を渡り歩いても傷1つつかない体って、女子的には絶対重宝するだろうな。

 そういえば屋形船でなにこれ化粧乗りが悪いって言われて怒って変身した怪人がいたのを思い出す。

 本人としては切実な部分があったのだろうと思う。そしてこの防御力の高い体は化粧乗り悪そうだな。


 ポンチョの下に何か着ていた気がするんだけど……なかった。

 脱いだ時に気がつけばよかったんだけど、下着溶けたのか脱げたのか、なかった。

 地肌にポンチョ直に着るのなんかすごい違和感あるんだけど、これでいいのだろうか?


 下着が溶ける様な環境で目立った傷なく生き残るポンチョってやばいな。


 やっぱ直に着るのはぺたぺたして気持ち悪い。下着が欲しいな。


 ……時間かけてもしょうがない。

 いくら扉を開けるのが怖いからといって、お風呂場で過ごす事は出来ない。

 生きるためにはそこの扉を開けて自分の手で前へ進まないといけないのだ。


 これで全てが変わるかもしれない。何も変わらないかもしれない。

 グダグダと考えても何も得られない。前を向いている様で下を向いている現状が悪い。

 怖がって時間ばかりかけて、変な事ばかり考えても、結局現実には歯が立っていないのだ。


 もうなるようにしかならない。人事尽くして天命を待つ。

 やれる事をやったら、不安を覚えてもそれ以上出来る事はないのだ。

 変な事を考えて何か余計な事をするよりも、ただどっしりと待った方がいい結果が出る事が多い。


 ドアノブに触れる手が震えている。どうしようもないがそれが俺なのだろう。

 個人の能力で片をつけられない対人の問題を必要以上に怖がっている。

 経験が少ないとか、そんなものただの言い訳に過ぎない。


 前を向く。難しいかもしれないが、それしか出来ない。


 ドアを開けると廊下の冷たい空気が吹き込む。廊下に顔を出してみたが周囲に人影が見えない。

 あの女性も見えないし、ここからどうしたらいいだろう?

 とりあえず周辺を散策してあの女性を探したらいいだろうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず面倒くさい性格をしてらっしゃる( ˘ω˘ )
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