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189、さっさと入りましょう

 お姉さんをジッと見つめると「あぁ、うん。分かった分かった。外に出るよ」ってへらっと笑いながら扉の向こうへと行った。

 扉に耳をつけ廊下の気配を窺うと遠ざかる足音が聞こえた。これなら見られる心配はないだろう。

 気にし過ぎかもしれない。股間以外は見られても問題ないと思うし。


 ポンチョをずり上げ鏡の前に立つ。しれっと洗面所に鏡があるところ、前世を感じる。

 品々から前世と程近い文化レベルを感じているから予想は出来ていたけれど、普通に置いてあるとちょっと不思議に感じる。

 透明な謎プラスティックに銀紙を張り付けて作られたモノだろうか? 表面がガラスの質感ではない。


 表面の層に厚みはあるが、屈折率はガラスと大差ない? 色々な意味で不思議だな。

 謎プラスティック、混ぜ物をする事で透明で屈折率を低く作れるのだろうか?

 このプラスティック万能過ぎないか?


 しかしだ。体の表面はけっこう汚れている様に見えるが、肌をすっと手で払うときれいな白い肌が表れる。

 俺はビスクドールか何かなんだろうか? そういいたくなるくらい現実感がない体だ。

 これだけでも人間味が薄いとか思われてしまいそうだ。


 よくもまあこの垢の出ない体でここまで汚れたなとしみじみ思う。

 気を張り詰めていたというのもあるが、きれい好きな方だと思う俺がここまで汚れているのは異常だ。

 数日シャワーもお風呂も入っていないとか、非常事態警報が頭の中で鳴り過ぎだろう。


 まぁ、入る余裕がなかったと言われればそれまでだろうが、手で汚れを払う事すら気が回らなかったのか。

 旅の道中そんな時間もないし、行ける場所もない。死ぬまでのカウントダウンもある。

 ……。現状あとどれくらい活動できるのだろう。活動できなくなったら意識はどうなるのだろうか?


 エネルギー切れに過ぎないからそこに残り続ける?

 糖分切れの脳みそみたいに、徐々に思考力が落ちて最終的には考える事も出来なくなる?

 エネルギー切れになった段階で魔力そのものを使用しながら死に至る?


 わからない。


 分からないがそれを避けるためにも早く生物にならないといけないのだろう。

 生物になるって本当になんだよ。無機物がどうしてなまものになるんだよ。

 意味が分からない。生物って何なんだよ。


 生物学的に言えば自己増殖できるかどうかだったか。

 ウィルスは他の細胞を原料にしているだけで、自分だけでは栄養があっても増殖できないので、生物じゃないみたいな感じだった気がする。

 俺? ゴーレムになったし、そういう意味では増える事が出来ないだろう。つまり生物じゃないな。


 生物になると考えた場合、もしかして生殖機能が追加になるとかそんな流れあるのか? いやないな。

 今回の生物になるというのは便宜上の言い回しだ。別に生殖行為が出来る必要はない。

 体ばっかり気にしているけれど、欲求不満か何かか? 死ぬぞ死ぬぞと考えすぎて、生存本能でも刺激されたか?


 裸で鏡とにらめっこしているのはおかしいな。汚れたとはいえ幼女風の顔を見ているのだ。

 中身のおっさんが見ていると思えば警察へ通報されても仕方がない。

 俺が中身のせいか、鏡の中の少女は酷薄な瞳をしているな。見た目通りの年齢だとは思えない。


 年齢といえば生後1週間くらいなのか、この体。見た目通りのモノがほとんどないな。

 中身は30歳くらいのおっさん。見た目は10歳くらいの少女。実際は少女でも少年でもなく両性具有? 両性具有にしては半端だし、無性体のゴーレムなのか?

 ややこしすぎて草しか生えない。どこの作者がこんなキャラを作り上げるんだよ。事実は小説よりも奇なりか。


 薄汚れた風貌だけれど、少女の冷たい瞳は折れる事を知らない。

 かっこつけて言えばこんな風になるだろうか。誰に向けてかっこつけているんだ。

 物語的に言えばこうだろうが、実際はそんなかっこいいものでもないしな。


 俺はただ折れたところでどこにもいけないのを知っているだけだ。

 折れてただ死ぬのを待つ事が俺には出来ない。思考だけは現状に噛みつきたくて仕方がない。

 現実の体は大して行動出来ていないのがお笑い種だがな。ほんと口だけかよ。


 体がどんな状況に陥ろうと思考はそれを他人事に出来るから折れないのだろう。

 ゲームで負け確の状況に陥ったところで、それは大した事ではないのと同じだ。

 俺にとってゲームと何ら変わらぬ感覚なのがおかしいのだ。


 これが生きていないと言わしめている可能性が高い。

 俺は生きたら現状に圧し潰されて自殺するんじゃないだろうか?

 生きたら死ぬとか矛盾しているな。生きなくても死ぬけどな。


 いや、今の状況からして現状は特に問題ないのでは?

 だとしたら今生きても自殺しない? というか俺が自殺する可能性ってあるのか?

 考えにくいな。そんなメンタルを俺がしているとは思えない。


 他人事じゃなくて自分事になったとしても、俺に諦める可能性はないとすら思う。

 他人事の方が諦める可能性高いだろう? 普通。自分事になって諦めるとは思えない。

 自分事で諦める……どうして諦める必要があるのだろう? 一旦置いておくくらいはするかもしれないが、諦めはしないだろうな。

 一旦置いておいて記憶から抜け落ちるのは……諦めとは言わないと思いたい。それはやり忘れだ。


 ……とりあえず素っ裸で鏡をジッと見つめている場合じゃない。

 早くお風呂に入らないといけないな。早くしないと来てしまう可能性がある。

 体洗えないの? って言われて入ってこられたら困るのは間違いない。


 それにしてもこんなに汚れているとお風呂場がすごい事になってしまいそうだ。

 軽くここでゴミを落としてから行くべきだろうか? 濡れてから落とすと酷い事になりそうだもんな。

 都合良くゴミ箱もあるし、この中に落としてやれば大分処理が簡単になるだろう。

 抜け落ちた髪の毛の束とかも入っているし、これはゴミ箱で間違いない。


 肌の上を軽く指を走らせるとほんときれいに落ちていく。

 泥パックとかが乾いたらこんな風に剥がれ落ちるんじゃないだろうか?

 これナメクジの粘液とかが混じっていると思うが、ゴミとか何か溶解したりする心配はないだろうか?


 着ていたポンチョは溶けている様には見えないけれど、そういう可能性があると思うと怖い。

 ……もし地下道歩いている時に服が溶けていたら狩人兄弟達に裸を見られていた可能性があるのか。

 ゴーレムボディは溶けないとしても服は溶けてもおかしくなかったのがほんと危うかった。


 色々な意味で危険な旅路だったんだな。

 食べられた時もそうだけれど、このポンチョ地味に強くないか?

 倫理的忖度ガードだろうか? アニメかな? あれ都合良すぎるだろう。


 用意された時間的に間に合わせの品だと思うのに戦闘服並の耐久力を発揮している。

 表面上は汚れているが、実際のところ大した傷も出来ていない。材質が気になるところだ。

 ちょっとした紋様が描かれていたりするから生地だけはほんと特別仕様なのかもしれない。


 ポンポンと体を叩いても白い土埃の様なゴミはもう落ちない。

 もしあの粘液が妙な溶解能力を持っていたとしたら水道に流した場合配管をボロボロにしていた可能性がある。

 どうして配管がボロボロになったのか、そういったモノを調べられて困るのは俺だっただろう。


 そんな溶解力があるモノを体にまとわりつかせて平然としているヤツはおかしいし、ツッコミまれる。

 それにお世話になろうとしているところを壊してしまう可能性がある。それってダメだろ。

 立つ鳥跡を濁さず。実際の鳥は鳥糞を落としている事が多いから汚しているけれど、こうやって考えて使う以上使う前よりも綺麗にしておきたい。


「あ、タオル忘れてた!」


 ……。


 股間見られている。


 ……。


 まじまじ見られている。


 ……。


「……あー。見なかった事にしておくよ」


 ……。


 見なかった事にされた。







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― 新着の感想 ―
[一言] パッと見ただの短しょゴホン何もない( ˘ω˘ )
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