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188、お風呂に行こう

「とりあえずお風呂行っとくか」


 わっつはぷん?


 考えてみたらこの体になってからまだ1度もお風呂に入っていない。

 ゴーレムだから汗をかかないにしても、砂埃やナメクジの粘液、魚の胃液、泥水その他諸々にやられているんだ。

 途中地下水路など太陽の見えない場所が多く、時間感覚曖昧で分からなくなっているけれど、王都出てから何日経った? 1日や2日ではないな。


 数日? 5日間くらいかな? その間お風呂に入っていないのだ。

 そりゃお風呂行こうと言われるだろう。見るも無残と思う程に汚れているはずだ。

 1人で入る事は出来るだろうか? どうなんだろうか? 


「大分汚れているし、今日はあたしが手伝ってやるからな」


 あ、オワタしそう。股間周りが特にやばい。

 両性具有というか、男性器も女性器も未熟だがあるんだ。

 色々な意味でめんどくさいな、この体は。


 髪色と瞳の色の組み合わせとかもやばいが、見られているはずなのに気にされていない。

 体から魔力が放出されていないから、違う存在とみなされている可能性が高い。

 似た色はたくさんあるみたいだからな。分かりやすい判断基準は体から出る魔力の多寡か。


 今の俺からは出ていないとして、それはほとんど放出出来ない程に魔力を持っていない存在と認知出来るかもしれない。

 だから特に不審に感じたりもしていない可能性が高い。

 だとしてもだ。股間はダメだろう。女性にしてはでかいし、男性にしては袋がないし。体を洗われたら気づかれるのは確定だ。


「もしかしてお風呂嫌い?」


 いや、お風呂は好きだ。指先がすぐふやけてしまうからそこまで長く入った事はないが。

 限界までふやけきった指って色々とホラーで、これ以上入ると皮が落ちてしまうんじゃないか? って思えて、5分も浸かれず体が温まりきる事はなかったが。

 お風呂の縁に足先を乗せたりして、指がふやけるのを遅らせる悪あがきもしたな。


 中途半端に浸かると体の芯が温まっていない気がしてすごい気持ち悪かった。

 お風呂に浸かると自分の中の冷たいモノが感じられて、消したくて仕方がなかった。

 消える気がしてよく浸かった。その程度では変わらないのだがな。


 いや、そういう話じゃない。そういう話じゃないんだ。

 お姉さんと入るのは大変よろしいのだが、よろしくない事情があるのだ。

 全身くまなく見られると非常に困るのである。


「あぁ、うん。何か事情がありそうだねぇ」


 お姉さんの察しが良すぎて怖いんだが。


 いや、何を察しているのかわからないのが難点か。

 しかし察しが良すぎて、都合が良すぎて、ぶり返しが来そうで怖い。

 ここから一気に裏切られる可能性だってあるだろう。


 この察しの良さからいきなり転生者バレとかも考えられるか?

 ありえそうで怖いな。いきなり手のひら返しで侮蔑とか嫌悪の眼差しを向けられる?

 何それ怖い。生まれてきた事が間違いだみたいな扱いだよな。終わっている。


「今は言わなくていい。そうだな、とりあえず1人でお風呂は入れるか?」


 何を察したかはわからないけれど、すごい好都合な展開になっている。

 お姉さん、ほんといい人だな。トラウマとかの配慮している。

 だからこそこっそりと察する可能性が高くて怖い。


 仮面を外して魔力を産生出来る様にならないといけないっていうのが本当にきつい。

 俺がこの体をアバターとしてしか認識出来ないというのが問題点なんだ。だから生物になれない。

 認識が体に与える影響についてはわかるが、だからといって死ぬレベルで出来ないっていうのがやばい。もはや生きたくないと思い起きない自殺未遂の人と同じかな?


 まぁ、それを乗り越えない事には俺は安心して生きていく事が出来ない。

 でもなぁ、こんなのシリアス調で言ったところで何にもならないんだよなぁ。

 なんか考えているのがやはり他人事になっている気がする。


「あー、うん。ごめんな。辛かったんだな」


 はっ。なんかまたトラウマで話せなかった補正がかかっている気がする。

 トラウマ補正の面倒なところは触れられたくない部位を予想させるところにある。

 触らない様にするという事はその分野を意識し続けるということだ。非常にめんどくさい。


 だがしかしお風呂に付いてこないでいてくれるのはすごい好都合なのだ。

 状況が非常にめんどくさい。達成すべき目標が多すぎる。

 1番緊急を有するのは仮面を外すことだ。そのためにはどうすればいいのだろう?


 危機に陥れて他人事にする余裕をなくす?

 散々危機に陥っている気がするんだが、それでもまだ足りないとでもいうのか。

 いや、押してダメなら引いてみろかな? 押した後に引けば外に出てきやすいとかあるかもしれない。


「とりあえずお風呂場まで案内するよ」


 目の前に白い手が差し出される。細く筋肉質な腕はところどころに黒い油の痕がついていた。

 少し険のある眼差しがにっと細められ、とても優しい顔をしていた。

 やはりこの人はいい人だろうなって思う。笑い方がきれいだ。


 はっ……! まさかこれが押してダメなら引いてみろなのか?

 ムチを与えまくった後のアメちゃんか? これは?

 このアメ自体は害はないけれど、裏で糸を引く手があると。


 教師か何かのつもりかな? その手は。

 どこの誰がそんな凝った真似をしでかしているのだろう?

 あの神様が一個人に対してそこまでするだろうか? そこまでの興味はなさそうだと思う。


 手を引かれて歩く。裸足で石の床を歩いているけれどあまり冷たくない。

 1階とかで鍛冶をしていたりするのだろうか? だとしたらもっと熱いかな?

 外気温はそこまで高くなかったと思うし、何故温かいんだろう?


「んー……。何か好きなモノある?」


 どういう意味だろうか? 唐突過ぎてよく分からないんだが。

 あ、会話の題材として使おうということかな? 身元を考えさせる内容が地雷と考えての言葉かもしれない。

 それとも他に何か意図はあるだろうか? わからない。


 好きなモノ? 何だろう? 草木や動物は何でも好きだな。

 ただ知っているモノが前世のモノがほとんどだから好きと言って話せる代物ではないだろう。

 道中に見たあのネムノキみたいな花は生えている場所が特殊過ぎて知っているのがおかしい。


 一体何を話せばいいのだろう。いい答えが思いつかない。

 メカニックだからって安直に機械が好きとかいうのは今の時点ではアウトだろう。

 媚びている様にも見えるから。機械自体は元々好きだけど。歯車とかがガチャガチャしている雰囲気は好きだ。


「あー、難しかったか?」


 カラカラと小気味よく笑い、繋いでいた手でお姉さんは俺の頭を軽く撫でた。

 頭皮をマッサージするかの様なグリグリ感? ゴシゴシ感? が気持ちいい。

 気持ちいいと感じるという事はある程度気が許せているのだろうか。


 気が許せているということは仮面を外せるかもしれないということだろう。

 それは大きい。しかし仮面を外した時、俺は何が下から出てくるのだろうか?

 そもそも下に何がいるのだろうか? 実のところ何もいない気がする。


 仮面がモノを考えて。立場が思考を作り上げ。人の形を成しただけのお人形。

 考えているフリをした人形は人間になれず、人が持っているものを、自身に足りないと求めてしまう。

 求めるのは仮面が欲しがっているから? だとしたら仮面の下には欲求がないのか?


「おーい、お風呂場着いたぞー」


 は。物思いに耽りすぎた。しかし物思いに耽るというのはこれは仮面の下なのでは?

 そもそも仮面に下がないなら、それすなわち素顔ということでいいのではないだろうか? わからん。

 もしやこれって神様が適当に決めた謎かけで、思考で時間浪費をさせるためのそれなのでは?


 暴れさせると被害が大きいから思考の海に溺れさせて?

 暴れる時間もなく、さっさと機能停止に追いやる事は容易に出来そうだよな。あの神様。

 そう考えると無駄な仮定に思えてくる。実力行使で止めた方が思考労力もかからないだろうしな。


 となると俺が解釈を誤っている可能性が高いのか?

 そもそも正しい解釈があるのだろうか? 言葉をそのまま受け取れていないのが問題なのか?

 もう思考がゴチャゴチャしてうるさいな。どうするのがいいんだろうか?


「よし、じゃあバンザイしようか」

「それはイヤです。1人で入ります」

「ちっ」


 危うい。

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[一言] チッ(読者からも舌打ちされる主人公)
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