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187、お姉さんと

「はい、嬢ちゃん。名前は?」


 俺は別室のベッドに下ろされ頭を撫でられた。中腰になったお姉さんの手は硬くけれど温かかった。

 くすんだ色の金髪に温かな鳶色の瞳。まなじりの感じからちょっと荒くれ感があるが、優しそうな瞳をしている。

 やはりいいところに投げ込まれたのだろう。やはり運が良すぎないか?


「シロです!」


 神様的にどういうのを望んでいるだろうか? わざわざ苦境に投げ込む理由がない?

 成長をさせたいとかで苦境にたたき込むのは割かしよくある展開。それを望んでいない?

 ……。いや、俺を生物として安定させるのが狙いの可能性が高いのか。


「いい返事だね、君のご両親は?」


 記憶がないふりをした方が無難な気がする。

 どの道この体に親はない。分からないと言うのは間違いないだろう。

 この体の親はリク君って事になるのかな?


「えっーと……?」


 いないと即答するのは間違いだろう。それはこの子供としてのキャラクターに沿わない。

 ……。いや、仮面を被ると生物になれない? つまりそれは魔力の産生が出来ずに死ぬということになるのか?

 外部から魔力を補給すれば生きられるかもしれないが、当面の供給元はないのだ。


 辺境の街には魔力が少ない人しかいないから浮遊魔力の量やそもそも街中に存在する魔力の総量などには期待出来ない。

 魔物から吸収する事が出来ればいいのだけれど、神様に森にいるんじゃねぇと言われた以上、それも出来やしない。

 王都に行ったところでどうやって生きればいいんだ? 隔離されて飢える可能性が高いし、暴れたら破壊の危機だろう?


 ……。地下水路? あそこには怪しい生物群がいた。あそこなら自由に生きられる?

 ぬめぬめに塗れ、暗闇の中で一生過ごせというのか? それで生きているとは言えない。

 俺が望んでいるのは人に迷惑をかけず、自分の能力に見合った世界を見る事なんだ。


「なぁ、思い出したくないなら言わなくていいから」


 いつの間にか抱きしめられていた。温かさに何故か泣きたくなっていた。

 何故? どうして? わからない。仮面に対応を押しつけられなくなったから?

 どうやって対応したらいいかわからないからか?


 未来や仮定ばかりに頭がいってしまう。現実を見る事が出来ない。

 想定はしても、対応方法を考えても、結局俺が低能過ぎて実行出来てやしない。

 絶望的な想定ばかりだ。逃げ道をいつだって探しているのも悪い。


 逃げるのは簡単だろう。やる事が決まりやすい。

 逃げ道はいつだってどこかしらにある。

 でも逃げ続けていったいどこに行けるのだろう?


「シロちゃん。しばらくここで過ごさない?」


 上を見ているつもりがいつも逃げている。

 俺は迷惑をかけたくないという言葉を免罪符にして逃げている。

 逃げないためにはどうすればいいんだろうか?


 状況に流されて最悪を引かない事を意識しすぎている。

 状況を見過ぎている? 状況という概念に俺は左右されている?

 状況に応えるのは簡単だ。だって状況に流されていればいいんだから。


 俺はどうしたいんだろうか? 自由に平穏に生きていたい?

 それを営んでいる人に憧れを抱いているからじゃないか?

 その人達は自分の目的に向かって進んでいる。だからその生活が得られているんじゃないだろうか?


「シロちゃん」


 思考が暴走している。


 答えないと。


 なんて答えよう?


「シロちゃん。シロちゃんは答えなくていいよ」


 優しい。


 あれ? この世界で優しくない人はいたのだろうか?


 一方的な被害妄想で全て歪めているのは俺か。


「シロちゃん。ウチで過ごそうか」


 全部全部。可能性ばかりを思い浮かべて怖がっている。

 杞憂。中国古代、杞の人が空が落ちてこないかと不安に思った。

 俺はその杞の人と変わらない。


 何故全てが自分を壊す可能性へと繋げてしまうのか。人なんて俺なんかよりもっと簡単に死ぬ。

 それしか考える事がないからではないだろうか? 俺の能力は客観的に見ても本当は低いのでは?

 それ以外なりたい、なりたくない事がないからだろう。


 でもどうやってやりたいことを見つければいいだろうか?

 いや、やりたいというか、なりたいモノはあるんだ。それにはどうやって向かえばいいかを考えるべきだったんだ。

 でもどんな仕事をすればいいのだろう? 今の俺に何が出来るのだろう?


 分からない。


 ここで過ごせるならここでの仕事を熟していけばいいだろうか?

 仕事に参加出来るだろうか? 身の回りの事を手伝っていけばいいだろうか?

 本業に手を出すのは厳しいだろうな。何にしてもまずは出来る事をやっていこう。


「ありがとうございます」


 絞り出せた言葉はこれだけだった。

 

 頭が足りていない。

 彼女に対して意識が向いてなかった。何を話せばいいのだろうか?

 この流れで働かせてくださいはおかしい。


 出来る事を探して手伝っていけば色々教えてもらえるかもしれない。

 「これをやっても大丈夫ですか?」って聞いていけば色々この場所について知る事が出来るだろう。

 子供の姿が影響して親方につまみ出されないかが心配だけれど。


「大丈夫、あたしはシロちゃんに危害を加えたりしない」


 ……。これ、虐待を受けた子への対応だ。好都合ではあるけれど、色々悩ましい。

 先入観がついてしまうと補正がかかってしまうからダメなのに。

 あぁ、でもここから挽回するしかないのか。非常に難しそうだ。


 仮面を被ると生物になれないとしたらその時点でアウトだ。

 今の時点でもうアウトなんだろうな。どうすればいいんだろうか?

 もっと自分らしく生きればいいのだろうか?


 自分らしく生きるってどういう事なんだろうか?

 ある意味で言えば、俺はこれ以上となく俺らしく生きていると思う。

 いや違う。俺らしくはまた別問題なんだ。仮面で接して壁を作るのがダメなんだ。


「ありがとうございます」


 思考が硬い。言葉が思い浮かばない。

 そういえばこのお姉さんの名前すら聞けていない。

 それを聞く事すら思考に浮かんでいなかった。


 いつも自己中心な考えだな。このヒトデナシめ。

 他人に興味はないのか? ないんだろうな。関われないモノと諦めている部分もあるんじゃないか?

 どうせ通り過ぎる人々だ。ちょっと意識に登ったところで、関わらない以上それ以降はどうでもいいと。


 こうなるだろうな。俺には関係ないけれど。

 そんな頭で他人に触れようと思わないから人間になれない。

 見れば分かるからと戯れ言を繰り返す事は出来るけれど、だから人間になれない。

 

「辛かったんだな」


 辛い? わからない。泣いている理由はきっと懐古だろう。

 懐かしく思う過去はない。だが過去に得られなかったモノ、それに似た何かを感じたからだろうか。

 温もりが自分の冷たさを強調する。自分が人間だと思えない存在だと強調する。


 この冷たさは精神的なものだろう。胃の腑が冷たくなる感触と同じだ。

 体温計で計ったところで36.5℃。健康的な体温でしかない。

 自分以外の温もりが染み入るから冷たい自分を錯覚しているだけだ。


 人の物が欲しくなる。周囲と同じになりたくなる。

 それを求めたところで目標が違うから同じになることは出来ない。

 多少上手くやって周囲の人と同じ事が出来る様になっても、周囲の人と同じ環境を得ることは出来ない。だって見ているものが違うから。


「ありがとうございます」


 なら違う部分をまず押し出してみればどうだろうか。

 転生者はおいておいて、自分が人間ではなくゴーレムである事を伝えてみるとか。

 本心を隠した状態で仮面を外せない。


 ……これでいいんだろうか?


 生きるというのはこれで間違いないのだろうか?


 わからない。

 だがゴーレムである事を受け入れてもらえたなら出来る事が広がる。

 受け入れてもらえない場合、化け物だと場所を追われる?


 見た感じの雰囲気としては大丈夫だと思う。だが本人が良くても周囲がダメという可能性がある。

 ここは辺境の街なんだ。魔物の被害で死んだ仲間がいる可能性だってあるだろう。いやない可能性の方が低いんだ。

 結局人柄などが知られているかどうかで、切り捨てるかどうか判断される可能性が高い。


 もう少し。もう少し。今はまだ気が早い。


 けれどそう言っている間に魔力切れで動かなくなる可能性はないだろうか?


 魔力はご飯で多少補給出来るかもしれないが、それで多少延命しても1週間もたないのでは?

 下手したら1日だろうともたない可能性すらある。

 飛行中何時間経過したのかわからないし、充填後何日経っているのか分かったもんじゃない。


 俺は無事に生きられるのだろうか?

ある日窓から少女が飛び込んできた。

思わずキャッチしてしまったが、予想していた衝撃は感じられなかった。

汚れた服は見るからに元は上等なもの。

女は思った。

(これは天使かな?)※おっさんです

物語の始まりを感じ、女は親方に断りを入れて隣室へと少女を連れ込む。

えへへと笑っていた少女に親について聞くと少女は戸惑いの表情を浮かべ、その後悲しそうな表情になるのだった。

(これは何かあったな。親は死んでしまったに違いない。親は最後の力を振り絞ってここに少女を……)※神様にナイスシュートされただけです

女はそう思うと少女の頭を胸へと誘った。

少女の目からこぼれた涙が服へと染みる。

少女の体は脱力していて、女のなすがままに体を動かされていた。

(大変な目にあったのだろう……)

女はそう思いより強く抱きしめるのだった。

「ありがとうございます」

繰り返される少女の悲しげな返事がその身に起きた凄惨な出来事を女に想起させた。

女は思う。

(あたしはこの子を守ろう)


そして作者は思う。


(この後書きは実際の内容と異なる場合があります)







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[一言] そして飼われる( ˘ω˘ )
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