186、着弾
空を自由に飛びたいな。はい。人間ロケット。
やばい、頭がボケてる。すごい知能指数が下がっていた気がする。脈絡もなくバカになってる。
手足を伸ばしたり余計な身動きをして飛距離が足りなくなるだろうな。予想外の方向に飛ぶかもしれない。
だから余計な動きをしてはいけないと思っていたのだが、思考が暇し過ぎて遊び始めてしまった。
大分木の天辺までが近くなってきた気がする。木の高さを考慮すると地上50mくらいの高さにいそうだな。
投げられた放物線はこの星と同じくらいの曲がり具合の線なのか? とか飛んでいる最中思ってしまった。
この低空で衛星の如く周回しだしたとしたらどんな速度なんだ。光速かな? さすがに光速はないな。
問題は今回どうやって着地するかだよなぁ。
やはり着弾か? 着弾になるよな? どうしたところで着弾だよなぁ?
そもそも空中で方向転換どうやってする? そういえばサンダルが吹き飛んじゃった。
ちゃんと持ってたつもりだったけど、いつ落としたんだろう?
なんかあの人? と話していた時置いてしまった気がする。
落としたモノはしょうがない。返ってこないだろうし。
着弾するとしてこれは頭からか? 頭からだよなぁ。痛いのかな? 多分大丈夫だと思いたい。
卵の様に割れたら怖いけれど、さすがに壊れないだろう。きっとこの体は壊れない。
壊れたら……あの人恨もう。ショートカットさせようとしたら死んじゃいましたなんて笑えない。
しかしそれをしないさせない必要があの人? にあるのだろうか?
俺が存在する事に何かしらのメリットがあるのだろうか?
今すぐには思いつきそうにない。とりあえず何等かの理由で森にはいて欲しくなかったのは確かだろう。
殺せなかった可能性? こんな勢いで投げ飛ばせる物理性能があるんだ。あり得ないだろう。
ぶっちゃけあの人? にしてみたら部屋の中に入った虫も同然だったかもしれない。
むしろその可能性は大分大きいんじゃないか?
虫が自室に入ってきたら特に自分に害が出るわけでもないけれど嫌だろう。
数寄者は捕まえてちょっと観察してから外に追い出すだろうか? さっきのあの人? みたいにね。
本質的にはどうでもいいし、殺すのは可哀想だから外へと逃がすとかそんな感じにすら感じる。
人にとっては軽くつまんだだけでも虫にとってはそれは逆らえないモノだろう。
実際問題、人と虫並みの差があるかもしれない。力も能力も色々なモノが。
ほんとどうでもいいと思われてもおかしくないくらいの差があってもいいんじゃないか。
あの人? が軽く投げてこれが出来ると考えるとあの人? にとって普通の人間は羽虫みたいなものじゃないだろうか?
潰さない様にする方が大変なレベルになっていそうだ。想像の範囲だとね。
魔力というのがどういう存在なのか、本当に悩ましい。
人間か人間じゃないかでいえばきっと人間ではない。
だが元人間みたいな気もする。人間から吸血鬼に変わったみたいな感じに。
だがそれは俺が人の形に生まれてきたからそう思うだけなのかもしれない。
人間は人間を中心にモノを考える。人間からしてみたら世界の中心は人間なのだろう。
動物に対しても人間の言葉を話したらどうだろうなとか、気安く考える程度に。
いや、もっと正確に言えば自分中心だ。自分ならこうする、こう考えるが基本なのだ。
きっとこう考える事だろう。そうやって考えるといかにも相手の気持ちになって考えている様に思える。
だが実際その思考の基準は自分の考えた誰かの行動方針を基準にしている。
だからいくら考えても相手の思考ではないんだ。相手の思考にはなり得ないんだ。
俺の思考を俺の行動から推測してみろ。出来るか? 出来るわけがない。俺自身だって出来る気がしない。
同じ事だ。動物がどんな行動をしていようと、そこから考えを導き出すのは出来ない。
動物の思考はその動物自身のモノだ。あの人? の様に直接読まない限り誰にも分からない。
あの人? を人間だと思った理由はなんだ?
人間であればまだ少し理解が出来るとでも思ったのか?
何とおこがましい。そもそも人間が理解できなく恐いと思っているのが俺だろ。
理解できないというよりも、一事が万事、全ての出来事に繋がっていく可能性があるからか。
どこで誰とつながっているのか分からないし、その関係性を全て追う事は不可能に近い。
だから隔離でもしていない限り変化は予想がつかないし、だから理解が出来ないのか?
考えたところで答えはでないか。考えても行動できなければ意味なんてないのだから。
それに知って何になる? 胸糞に気づいて幸せな生活を送っている人がいるのに世界を壊すのか?
この世界の神様となり恒久平和で目指すのか? 仮初だろうと神様にすら難しい調整をやるとか、へそで茶を沸かすわ。
しかし前方を確認してもいつまでも緑一色だな。
……いや、なんか先の方に茶色いのが見えた気がする。
そういえばなんかけっこう高度が下がってきている気がする!
着地、着地、着地ってどうするんだっけ?
っておい。空中で姿勢を変える方法が思いつかないんだが。
つま先タッチしても体の向きは変わらないし、やっぱ頭から着弾コース?
あ、森を抜けた! 地面まで何メートルだ? 分からん!
前方に街を発見! このままだと外壁の上を越える! 不法侵入だ! いえい! 壁を越えるぞ!
あの人? のナイシュ! ホールインワン!
あ。あの塔にぶつかりそう。え? ぶつかるよね? 壊れない? 大丈夫?
この勢いでぶつかったら破壊確定じゃん。瓦礫の山からこんにちは? お尋ね者コース?
あの塔がぶっ壊れたらあの塔に住んでいる人や近くの人がお陀仏しちゃうんじゃないか?
これはオワタ。カナダの首都はオタワ。ハワイの島はオワフじゃなくてオアフ。
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。南無妙法蓮華経。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前。
雷様にはへそ隠せ。くわばらくわばら。桑原は京都、道真公の雷の落ちなかったところ。
混乱が激しい。いや、どうしたし。お前どうしたし。
厄払いでもしたかったか? そうだな。厄塗れにしか感じないもんな。
トラブルに継ぐトラブルだものな。絶対厄がついている。
あぁ、もうぶつかるわ。せめて腕で頭を保護しよう。
さようなら、未だ見ぬ安定した人生。また会ったね、逃亡生活。
俺と災厄はいつだって仲良しさ。
……錯乱してるな……。
それにしてもいつまで経っても衝撃が来ない。
むしろなんかむにむにしているところにいる気がする。
「親方、窓から女の子が飛んできました」
わっつぁっぷ?
なんか女の人の声がしたような……。
「何言ってやがるっておい。どこから連れ込んだ?」
薄っすら目を開けてみると腕が柔らかい何かに包まれている。
何かは若干油で黒く汚れた布に覆われていた。
顔を上げてみると肌色が見えた。
「あぁー、おい。嬢ちゃん、話せるか?」
ガテン系姉御……! ガテン系姉御だ! メカニック系姉御だ! これが伝説の……!
混乱が激しい。要素に興奮しているのか? あほか。要素はあくまでも要素なんだ。それはその人の性格の中で大した割合を占めてはいない。
要素に興奮していいのはモノだけだ。人間を前にして要素に拘るのはきもいぞ。
「へ、あ、はい!」
やばい、謎の幼児語みたいな間抜けな声が出てしまった。
浮浪者ポジで孤児院に転がり込むかとか、なんとなく考えていたプランが一気に破綻した。
俺が着弾したのは姉御の胸の中だったと。ナイスか、神様! 着弾時の衝撃をゼロにするおまけ付きだと?!
もしやここから俺はメカニックとして生きていく事になるのか?
確かにこの体は筋力が高いし、魔法は使いにくいし、機械をいじる方が向いているかもしれない。
アフターサービスが良過ぎないか? 何か俺は見落としていないか? こんな運がいい事があっていいのか?!






