184、対話
いや、まぁ。確かにニーナってそんなに動いている気がしなかったし、そもそも魔力の補給足りないんじゃないか? なんて思っていた。
だがだからといってニーナが魔力を自己生産出来る様になっているだと?
構造上は確かに内臓含めて動物そのものにしたのは間違いない。
「構造が同じなら何で生産出来ないと思ったの?」
ゴーレムは血潮で動いている生き物なのか?
あれは魔力をエネルギーに動くと定義したつもりだった。
であればタマゴと同じで、エネルギーが切れれば動かなくなる機械と同じだろう。
「ニーナちゃんはご飯も食べるし、生物のする事は何でもするよね」
……。あれ? 糞便の類いはしてたっけ?
「君の知らないところでしてたよー」
……。なんだと……。え、どのくらいの量をするんだろう?
体積的に考えると多そうだが、魔力もエネルギー源に出来ると考えた場合すごい少なそう。
何が消化出来なかったとか、構成はどうなっているんだろ? タンパク質などの代謝はあったんだろうか? あるよな? きっと。
「……。君の思考がそんな感じだからニーナちゃんは隠れてしていたんだね」
……。何も言えないな。思考を知っている以上じっくり見られていると思えて怖いだろう。
ちょっと見ればどういう色、どういう質感、どのくらいの量かをある程度把握してしまう。
実際に触ったりしたら重さの比率とかも考えるだろうし、経過観察も兼ねて毎回見てしまうかもしれない。
「……。ごめん。君は僕の想像以上だった」
あ。あー。ドン引きする思考回路だな。
いや、でもこれは愛犬家なら誰しもがする思考ではないだろうか?
体調とかがよく現れるところなんだ。
「君にはニーナちゃんが犬と同じなんだね……」
いや、そういう区別はおいておいてだ。糞便というのは非常に情報を含んでいるんだ。
道ばたに落ちている糞を見れば、それが草食動物か肉食動物か雑食性か、体のサイズはどれくらいか、現在の体調はどんなモノなのか、普段何を主食としているかとかすら分かる。
あれはけっこうな情報の宝庫なんだぞ。
「そんなこと語らないでいいから。そういうの日々を共にしていた相手に考えるっておかしくない?」
性的に見ているのではなく、生物学的なところが気になっているんだよ。
生態の分からないモノは何にしても気になるじゃないか。
ニーナは俺が創造した唯一無二の存在なんだぞ。生態なんて分からないじゃないか。
「君にとっては周囲のモノが全てモルモットか何かかな」
そんなわけないだろう。俺がそんな危険な思考をしているわけがない。
俺がどんなマッドサイエンティストだと思っているんだよ。
そんなやばい奴ではないはずだ。
「いや十分やばいから。気がついて?」
……。なんかやばい気がしてきたな。客観的に見たらマッドで間違いないか?
だが思えば糞便について隠しているという表現がおかしいんじゃないか? リク君はまだ小さい子だ。
衛生関係やニーナの精神面での都合を考えても、わざわざトイレ関係の話をするとは思えない。
「君って口にしない思考がおかしいから、ほんと考えて口にしていて良かったね」
俺みたいな異物がおかしいのは当たり前じゃないか。
「そこだ。君は自分で自分の事を異物だと思っているよね」
俺は異物なのは間違いないだろう? 俺はどこにいても異物なのだ。
「君はそうやって自分を世界から剥がす。転生者でも世界の一員になっているというのにね」
世界の一員? それは歯車という意味なのか?
「君みたいなはぐれモノが面倒なんだ。他の人はなんだかんだ周囲に合流してくれるのに、君はしてくれないしさ。引っかき回してくれるという意味では思わぬ発展へと繋がってくれるんだけど、君はこんな辺境に来ちゃった。それじゃ困るんだ」
何を望んでいるんだ。混乱か? 発展か? それとも迎合か?
「その中なら何でもいいよ。それがまだ見ぬ世界に繋がってくれるからね。出来たら迎合してくれると助かるなー。政治組織の腐敗とかは今のところ少ないし、色々凝り固まっているところも少ない。だから混乱も特に必要はないかな」
神様ってやっぱり上から目線なんだな。
「君も似た様なもんじゃないか?」
俺は管理しようなど傲慢な事を考えたりしない。
「君は自分の意思がないモノなら道具として扱えるからいいとか」
俺の事をどんだけ見ているんだよ。そんなに見ていて楽しいか?
「破滅主義者とも、空想家とも、理想家とも違う不思議な思考をしているからねぇ」
人間なんて大なり小なり似た様な思考をしていると思うが?
ただ俺は言語化したくらいだな。きっと。
俺はただめんどくさい拗らせ方をしただけだろう。
「おや、それじゃなんで君は自分を異質だと思っているんだい?」
めんどくさい考え方をしてしまうからだ。
人と言われながら育てられた犬じゃないか、みたいな違和感がつきまとうからだ。
人間が同族だとはどうにも思えないんだよ。
「ふむ。だが君は人間として生まれ、人間の意識を持ち、人間の思考をしているだろう? つまり人間じゃないか」
そう簡単に割り切れたらいいんだけどな。
世の中には自分が動物だとしか思えない人がいるらしいとか聞いた事がある。
そういう人と同じなのかもしれない。だが違うかもしれない。
「じゃあ、人間の姿になんかならず、動物の姿に変われば良かったんじゃないか?」
それじゃ本を読めないだろう? 現状読めないが、人間の姿をしていればページをめくるのも自由自在だ。器用な手があるし、本と目の間隔などもちょうどいいのだから。
「君はほんとこじれているなぁ。人間じゃないと君自身は思うが、人間の姿は都合がいいと?」
そうだな。ファンタジーなら精霊などの存在が合っていそうだ。
だがこんな精霊がいたらめんどくさそうだ。書庫に籠もって、実験をするしかしなさそうだ。
自分の興味にしか動かないし、自分の都合の良い様に周囲を整えるだろうし、きっと非協力的だろう。
「それは物語のキーパーソンになりそうだね。世界を壊す魔王とかがいたら仕方がないから自身の知識を提供し、さっさと退去を願う類いの偏屈な精霊さんじゃないか」
……。そうだな。下手に動かない王様とかよりも余程重要なキャラクターになるな。
現状が性別なしの魔法無効化、物理ほぼ無効化の幼い容姿の精霊そのものだ。
その線で役が作れるか? 役ってなんだよ。物語か。
「はいはい。じゃあ、偏屈な精霊さんや。ここには本などないし、街に行きな」
やばいすごい煽られている気しかしない。
「ボーナスタイムはここまでだ。君はこの世界でちゃんと生きなさい。さもないと終わらせるよ?」
先程まで瞳の中にほんのりあった人間味が一気に薄れていく。
冗談を口にしていた姿とは纏っている空気が違う。
きっと本当に今までのはボーナスタイムだったのだろう。
「方角はあちら。辺境の街に向かって進んでくれよ。補給は十分出来たはずだ。真っ直ぐ走れば2日もしないうちに君は到達出来る。それじゃ、君に良き日が訪れる事を祈るよ」
頭のどこかにあった焦燥がいつの間にか消えていた。
もしかしたら魔力が不足し出していた事により、危機感を覚えていたのかもしれない。
補給は確かに出来たのだろう。ありがたい事である。
彼が指していた方向に目を向けるが、この小高いカメの上から見ても木しか見えない。
どうしようもなく広い森林だな。ここは。ここを2日で抜けられるのだろうか?
不安になってきた。
「はいはい。不安に駆られない。じゃあ、とっておきサービスっ!」
そう言われ首ねっこを捕まれると俺は彼に投げ飛ばされた。
どうも急に予想外の事が起きるとかえって冷静に思考ができるらしい。
だが思う。これはひどい。間違いなくひどい。
「これですっきり。騒がしかったよね、ごめんねぇ」






