181、森を行く
方角が分からない。沈みゆく太陽が左手側に見えていたから左側が南西寄りか。
このまま真っ直ぐ進めば南東か南南東に向かって進む事になりそうだ。
それでいいか。太陽が沈み切ったら方角を知る手段がないが、仕方ないか。
エネルギー切れまで後どれくらいなのだろう?
あのシャチみたいなのから魔力を最大値まで吸収出来たとして、あの時点から2日か?
タマゴの実験から考えるとゴーレムは最大値から2日までしか動けないんだ。燃費が悪い。
2日以内に次の魔力源を見つけないと起動停止してしまうだろう。
辺境で魔物を食らうのが生き残るのに必要な手段だと思われる。
ニーナ達は……王都に漂う魔力でも吸収しているのだろうか? それで最低限活動に必要な分を確保しているとか……。
その方法を俺もとやろうとしたところで、王都の浮遊魔力の食い合いになって共倒れしそうだな。
少なくとも活動分を稼ぐには厳しいだろう。ニーナは全身に吸収器官があるし大きい。移動範囲も似ている以上食い合いに負けるのは俺の方だろう。
辺境には強い魔物がいるというし、強い魔物は豊富な魔力を持っているはず。
現状は希望的な観測でしかモノを言えない。だがドラゴンが出るのは辺境なのだろう。
それは確実なはずだ。ニキさんは少なくとも道具屋さんに物を渡していた。
ドラゴンと翻訳していた言葉が間違っていた可能性はあれど、少なくとも強力な魔物である事は確かだ。
とにかく魔力の安定的な補給方法を見つけないと困るな。
最悪動物を見つけて食べれば生体から漏れ出る魔力で何とかなりそうだけれど、性に合わない。
加工されたお肉は食べなければ廃棄されるだけだが、今生きている命を不必要に奪うのは醜悪極まる。
植物だろうが、動物だろうが、魔物だろうが、俺を害そうとしているモノ以外傷つける事も嫌だ。
極端だけれど自分自身が1番不要に思える時がある。何を為すためにではなく、ただ生きるためだけに生きる自分が。
命や何かを奪って生きるのに、奪うだけの意義を俺が持っているのか。
いやまぁ1つ答えを持っているといえば持っている。
その理由が何であれ、生きるということは生きられる性質を持っていたという事だ。
恐竜は絶滅した。環境への適応能力が足りなかったからだろうか? 結論は分からない。
だが絶滅してしまった以上、生きられる性質を持っていなかったと言おう。
生きるというのは1つの奇跡だ。
その生物が持つ性質、性格、状況、あらゆるものが加味されて、結果今を生きている。
何かがズレれば生きられなかった。
どの要素が生き残るために必要なのか。それを知るために生物は日々試され続けている。
もし苦に思い自殺するのだとしてもそれは仕方がない事。淘汰される定めだったと言える。
生き残り、子を残し、様々な環境を乗り越え適応する事が星に求められているのだろう。
人間はそういう意味では非常に優秀だろう。
装備を整える事で適応できる環境を増やし、陸海空宇宙どこであっても到達し生存できる。
環境変化であらゆる生き物が死に絶える状況に陥っても、食物を生産する施設などを作り生き残る。
集団生活で精神にかかる負荷、娯楽から始まる思考実験、自分達で様々な状況を想定し、より多くの環境に適応できる様に変えていく様はとても面白い。
だが人類が最優である保証はない。最後に残るのが人類だとは限らない。
恐竜の様に環境の変化に対応出来ずに絶滅する可能性だってあるだろう。
星の磁場のパターンは生物の脳波に似ているとはどこで読んだのだろう。
確かシューマン共振だったか。あんまり詳しくは覚えていない。
植物の様に静かに、様々な環境を作り上げて生物の適応を見守る。
星を生き物とするなら子を残す事も使命になる。そう考えれば生物は遺伝子になるだろうか?
NASAの宇宙船にはシューマン共振発生装置が搭載させているらしい。精神安定作用があるからとかなんとか。
星の周波数がないと落ち着かないとか、そういった形で生まれた星を思い出させて、テラフォーミングという形で他の星を自分に寄せていく。
なんかウィルスみたいだな。分裂が出来ないから増殖するために他の星を使うところが。
そしたら生物は星の遺伝子みたいなモノになるのか。
まぁ、いいや。一先ず生きるという事が星の求めている事につながるのではって思う。
人間は自由だ。社会により生きる以上の事を出来る余裕があるのだから。
普通の動物は生きる事で精一杯だ。生殖活動は命がけだ。余計な事をする余裕がない。
その点人間は社会により食事も医療もサポートされているんだ。ほんと人間は自由だ。
変わらない風景に思考が暴走する。どうせ真っ直ぐ進む以外方策はない。
地平線まで続く森を見ればその広さも計算である程度検討がつく。地平線の彼方というと10キロくらいか?
そういえば星の大きさの概算値を調べていなかったか。じゃあ、この数値は当てにならないな。
分かりやすいのは水平線からどのくらいの距離で船が見えなくなるかだったか。
大航海時代だったか、名前は忘れたけれど確かコロンブスが、水平線から船が港から見える際いつも船のマストから見える事から地球は丸いんだと主張したとか何とか。
船の進行速度や出発した時間から逆算して距離を計算し、距離とマストの高さから曲面の角度を算出する。そうすれば星の大きさは測れる。
言うのは簡単だが計測するのがすごく大変だな。概算値で数キロと言うのは出来るかもしれない。
だが実際にやるとしたら船から浮き輪付きのロープを落としながら距離を計算する方が正確で現実的だろう。
その長さのロープを用意するのが非常に大変だが。
昔の人はどうやって計算したのだろうか?
もっと簡易で分かりやすい計測方法があるんじゃないだろうか?
人手があればもっと計測しやすいだろうな。
原っぱにある1本突っ立っている木から歩いて何歩目でその木が完全に見えなくなるか?
その方法でも概算値は計算できるか。海抜何メートルとかわからないからどれだけずれているか分かったもんじゃないが。
どの道森の中では目印にする木も決められないから計算する方法はない。森を出なければいけない。
考えれば考える程に足が急く。走らない様にしようと思っていたのに走っている。
木の根を蹴り、石を越え、視界を森が流れていく。生き物はまるで見当たらない。
どこまでも静かで木々しか見えない。木々はどんどん太く、そして疎らになっていく。
この森を越えた先に道はあるのだろうか?
そもそもどこまで流されたのだろうか? 王都と中郭の間辺りだと何となく思っていたが本当にそうだろうか?
もしここがもう辺境だったとしたらいくら進んだとしてもこの先に道はないだろう。
分からない事だらけだ。このまま進んだらどこに行きつくのだろうか?
突き抜けた先は海だろうか? そもそもここは大陸で間違いなのだろうか?
進化の系図が地球と違う可能性は大いにあるだろう。そもそもここの人類は外来種みたいなモノではないだろうか?
異世界から原種を連れてきて「アダムとイブをしてください」みたいな事をしていない可能性がどれ程あるだろうか?
文化的な部分も色々おかしいし、微生物から始まった世界ではまずなさそうだ。
都市システムも計算に入れたら尚更怪しい。もはや神と名乗る存在が世界に介入して、小学生が蟻の巣のジオラマを作るように、作り上げた世界が如くだ。
ご都合的に土の神様や火の神様とかいるんだ。
外から覗く存在がこの世界を管理している可能性はないだろうか?
あのきれい過ぎる世界はそんな気がしてならない。
今時速何キロなんだろう? 十キロ、二十キロじゃきかないだろうな。
高速道路を走る車よりも速く走っていると思う。のんびりしていたら抜ける前に倒れてしまう。
ゴーレムボディの弱点って触覚はあっても痛覚がない事、空腹などの感覚に欠ける事、エネルギー切れまでが長いようで短いだな。
意図的に省エネする事は出来ると思うが、それは意味があるだろうか? ないな。
やるなら回復出来る当てがなければ意味がない。この周辺に魔物などはいるだろうか? いなさそうだ。
このまま行けば補給が切れて動けなくなるだろう。
木々は太くなる一方だ。これは森の深いところへ進んでいる事の証だろう。
真っ直ぐ行けばいつかは抜けられると思ったが、横断をしようとしている可能性が高そうだ。
魔力ってどうやって補給すればいいんだ? あの異世界生物のお腹にいるのが1番安定して補給出来た疑惑すらある。寄生虫かな?
生物のお腹に居住スペースを作る? 山みたいな大きさの亀の甲羅に住めたらいいな。
亀の甲羅って人間でいう肋骨や背骨が変形したモノだって聞いた事がある。甲羅の裏側を見ると背骨や肋骨が見えるんだったか。
甲羅の内側にある背骨から肩甲骨がぶら下がり、その肩甲骨から腕が出ているとか。
大きな亀はロマンがあるが、そんな大きな亀が都合よくいるわけがない。
……居たし、数キロ? くらい先のところに。ご都合かっ! あの山みたいな大亀、あの大きい木1本食っとるわ!
都合が良すぎて色々疑いしかないんだが。だが行って補給しなければ道半ばで倒れる事になるだろう。
……魔力はどうやって魔法を作成するかを考えると、魔力の親玉の神様が配置した気すらしてくる。
ご都合だが……しょうがない。ご都合を辿れば神様に行きつく可能性があるし、この世界の真相? を知るためにはここに行くのがベストだろうか? あぁ……モヤモヤする。






