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180、森を抜けよう

 くまと別れた後もそのまま肌足で歩いた。

 足跡は残ってしまうが、追われる速度よりも速く進めばきっと問題ない……と思う事にした。

 問題としてまず街道を目指すのが最善だと思うが闇雲に東に向かったところでぶつからない可能性がある。


 放射線状に広がる街道に平行して進んでしまった場合、ぶつかる可能性はないからな。

 街道にぶつかるためには北か南に進めばいいのか? ここが東の地域だとするならそのはずだよな。

 街道に入るのは足跡を消せるから以外の意味はない。その意味が消息を断つのに便利なのだけれど。


 太陽はどちらが登る方か降る方かよくわからない。

 ここが北半球だとしたら棒を立てた時影ができる方向が北ということになるのか?

 登っている時なら真北よりも西寄りに、下る時なら東寄りにでるはずだ。


 夕方に近い今の時間帯なら影の伸びている方に進めばいいのだろう。木に登らないとどちらに影が伸びるか分からないけれど。そうすれば北東寄りに進むことができるはずだ。

 北東方向に進めばここが東側の地域だとすると辺境方向に行けるはずだ。

 まぁ、とりあえずどこまでもまっすぐ進めばいつか森は抜けられるだろう。話はそれからだな。


 そういえばの話だが、普通きれいな円形で街が作られる事はまずない。

 生命線となる水がなければ都市機能を維持することができないからだ。だから疎らになる。

 黄河、チグリス・ユーフラテス、ナイル。大きな文明はいつも大河の側から始まった。水がなければダメなんだ。


 いくら魔法で水が用意できるからといって、誰でも出来るわけではないし、水脈のない場所に街を作るのは大変だ。

 中郭で見た地図ではキレイな円形になる様に都市が作られていた。思えばそこがまずおかしい。

 誰かがそうやって意図した様に配置したとしか思えない。何を意図したのだろう?


 本来であれば川を探し、その川の流れに沿って進めばいつか街が見つかる。

 けれどこの世界ではそんな事が言えない。まずそこがおかしい。

 水がなければ始動はどうしたというんだ。狩猟小屋が集まって出来たとでも言うのか?


 木々は太く、間隔が広い。まぁ、あのクマが生活できるくらいだからな。

 この辺りは白神山地みたいな成熟した森林になっている気がする。大きくなった陰樹が日差しを遮った結果新しい木々は育たず、低木が少なくなり地衣類が中心になった森だ。

 ここはけっこう森の深い場所なのかもしれない。クマと出会った場所は森の外縁部だったのだろうか?


 農地がなければ食料の安定はなし得ない。

 いくら魔法があるからといって誰もがスーパーマンになれるわけじゃないだろう?

 個人個人によって魔力量に多寡があるんだ。


 この世界には魔物がいる以上、土地の維持は現実よりも難しいはずだ。

 天災、人災、病害、物資の不足。困難は多いはずだ。前世でも難しかったんだから。

 保管していた物資がネズミに食われたとか、縄張りを荒らされたクマが怒ったとかあるだろうな。


 意図的に区分されたというとサイコロ状に国境ができているアフリカを思い出す。

 あそこは大航海時代に植民地にされ、諸々の事情で今は緯度経度で分割されて国になっている。

 普通の国は川や山脈など地形的なモノで国境を決めているというのにだ。


 こういう木々ってけっこう水を蓄えているんだったか。

 耳をそばだてれば幹の中を通る水の音が聞こえるのだろうか?

 表面を灰色になったコケが覆っているからあまり触りたくはない。


 都市設計にいつかの為政者の歪さが見え隠れしている。偏執的なまでに秩序を作りたいみたいなな。

 都市の位置にまで反映されているレベルだ。都市が作られる早期の段階でいたはずだ。

 でなければこんな歪なまでの秩序だった都市の形状はありえない。


 この歪な都市群はいったいいつ頃出来たのだろう?

 中心で基準点となる王都が1番初めに出来たのは間違いないだろう。

 けれど建物の経年劣化の形跡は分からなかった。


 魔物に破壊されるから古い建物が残らないのかもしれない。

 都市ってどれだけの確率で魔物が侵入するのだろう?

 防衛の観点から行くと壊れやすい部分を作っておいてそこからの侵入を撃退した方が圧倒的に楽だ。


 急ぎ足で森の中を進む。植生をゆっくり見ている余裕が今はない。頭が暴走している気がする。

 ただ影の伸びていた方向に真っ直ぐに進めばいい。この身を傷つけられるモノなどない。

 どこか慢心している気がする。油断は大敵だ。油断していなければこんな考察していない。


 真っ直ぐ進んでいるつもりであっても進めない時がある。

 目を瞑って白線の上を歩くと思ったよりも真っ直ぐ進めない様なものだ。人は視覚で歩いている方向を調整しがちだ。

 森の中、真っ直ぐ進んでいるつもりであっても、木々を避けたりして、歩いている方向を調整してしまい、気づけば近場をぐるぐると回っている可能性がある。そして気づけば魔力切れか?


 馬鹿だな。どうせ傷つけられやしないと高をくくるとは。

 傷つけられないなら封じ込めればいい。流砂の中にでも突き落とせば簡単には這い上がれない。

 流砂や底なし沼は確か動けば動くほど柔らかくなり自重で沈んでしまう。


 流砂や底なし沼などを脱出するためには片足ずつバタバタさせてゆっくり這い上がるんだったか。

 ゆっくりやらないとどんどん辺りが柔らかくなって登る事が出来なくなるから、時間と体力を浪費させるにはピッタリの罠だな。

 俺もやられてしまった場合、魔力が切れて機能停止状態に追い込まれかねない。


 森の中だろうと底なし沼は出来る場所には出来る。

 木の枝とか木の根とかある分砂漠のそれよりも脱出はしやすいと思いたい。

 この辺りは川も流れていたんだ。底なし沼が出来る条件はある程度揃っている可能性がある。


 タヌキやイタチ、ハクビシンなど一部の動物は糞を一箇所に溜める習性がある。

 前世の場合そこまでたくさん溜めるイメージはないが、実際どこまでため糞をしているかを前世の場合でも知らない。

 この世界でため糞する動物がいた場合それがどの程度の量をためているかなどわかったもんではない。ため糞の底なし沼とか最悪極まりない。


 タヌキに住み着いている事が多いヒゼンダニが人間の皮膚で繁殖してしまった場合、疥癬と呼ばれる肌が爛れたような状態になる皮膚病になる。

 もしそういったため糞に引っかかってしまった場合、そういった症状に冒される危険性がある。

 もちろんゴーレムボディだからならない可能性が高い。だがゴーレムボディだとしてもダメになる可能性はあるだろう。


 この体が何製なのか皆目検討がつかないが、鉱物を分解する細菌なども世の中にはいるくらいだ。ゴーレムの体を分解するものがいてもおかしくない。

 そこにエネルギーが取得可能な反応がある限り、生物として成り立つ事が出来るかもしれないからな。

 例えば田舎の排水溝の水溜まりに浮かぶ油みたいなのが、鉄イオンを酸化鉄に変えるバクテリアだと知った時は驚いたものだ。


 木に登って太陽の方向を調べて進んだ方が無難だろうか。

 不安ならそうするべきなんだろうな。

 足に力をこめて跳ね上がれば木の上に出られるだろうか? 手の届く場所に枝はないし、幹は太くて腕も回らない。


 昔は例え安全だとわかっていても、素手で触ることに抵抗があったものが多い。桜の木の幹とか。

 もしかしたら確認不足でイラガの幼虫がいるかもしれないとか思ってたな。

 幹のひび割れ部分に確認し損ねて変なモノがいたらどうしようとかもあったな。


 簡単には傷つかない体になってそこら辺の警戒心が薄れている気がする。

 昔だったらこうやって森の中を裸足で歩く事はしなかっただろう。

 破傷風菌などが怖いし、ヤスデやムカデなどの虫が這いずり回っているのだ。


 ちょっとした傷が出来ればそこから病気にかかるリスクがある。

 森の中には腐って折れた木や石だって転がっているだろう。

 尖ったモノはけっこう転がっているし傷口が出来る可能性はゴロゴロしている。


 跳ね上がれば木の枝にぶつかるだろうな。

 木も大きく揺れるだろうし、俺の痕跡がすごい残ってしまう。

 けれどここで迷い続けていたら魔力切れで終わるだろう。やるしかないか。


 足に力を込める。踵を浮かせて膝を曲げ、カエルの様に跳び上がる。

 腕を上に構えてぶつかる枝を払い、数十メートル上まで上がる。

 横の大木は20メートルはあるんじゃないだろうか?


 ファンタジーな世界であれば森の中で寝転がって楽しむとか考えるが、現実的ではない。

 もふもふに囲まれ、ミガダーヤのブッダみたいに動物に向かって語って過ごしてみたい。

 宗教を起こしたいとは思わないが、動物に好かれる空気を漂わせてみたい。


 過ぎ去る木々の幹を見ていると育つのにかかっただろう時代を感じる。

 クマとであったところの木々は小さかったな。普段はこちらの森にいるのだろうか?

 この森地衣類ばかりでご飯は少なそうだし、足下は根っこが多くて硬い。


 実際のもふもふがどれ程ダニなどを持っているかを考えたら触れなくなる。

 今の体なら大丈夫といえば大丈夫なのかもしれない。

 でも確実に大丈夫だというには根拠がない。


 だがないない騒いでも意味がない。ない事を証明するのはとても難しいから。

 ない事を証明するのは悪魔の証明と呼ぶ。元は古代ローマの土地の係争問題からだったか。

 由来はともかく悪魔の証明というのは上手いと思う。悪魔が実在するかどうかどうやって証明するんだ。現在の観測方法では見つからないだけと言われたらお手上げするしかない。


 ない事を証明するのは難しい。だがある事を証明するのは多少困難であれ方策次第では出来る。

 俺が野生のもふもふと戯れても大丈夫かどうかなら、もふもふに存在するだろう微小存在を1種ずつ調べていけばいいのだ。

 まぁ、それをするのは余程暇な時が限度だろう。


 今の状態で跳び上がる事が出来るのはだいたい50メートルくらいなのだろうか?

 眼下に広がる緑の木々は絨毯の如く地平線まで広がっていた。

 太陽はもはや沈みかけ。月や北極星の様な目印もわからない。というかキレイに光る星があり過ぎてもはやビーズケースを見ている気分だ。赤色でと考えても百じゃきかない数がある。下手したら千か?


 特徴的な星を結んで暫定的な星座を作る事も出来ない。どれを基準にすれば方角決定出来るというのだ。

 まだ太陽が沈みきっていない、そこそこ明るい状況でこれなのだ。

 沈んだ後は更に多くの星が空を飾り、瞬間的に方角の検討をつけるのが難しくなる事だろう。


 感覚が二重になっている。

 知識欲のまま暴走する思考と周囲を見る感動したりする思考。

 遊びの右脳と仕事の左脳か? 手作業しながら雑談する様な並列思考か? まぁ、とりあえず歩けとしか言えないか。



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