表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/383

178、くまさんは通してくれない

 頭が温かい。頑張って力を入れている様だが痛くも痒くもない。

 さすが無敵のゴーレムボディ。グフグフと唸って力を込めても無効だな。

 いつまでもここにいるわけにはいかないし、名残惜しいが行くところがあるのだ。


 下顎を両腕で押し下げて、背中で上顎を押し上げた。

 喉の奥で縮こまる可愛らしい舌が見える。きれいなサーモンピンク。柔らかくて美味しそう。噛んでしまいたい。

 ……ダメだ。頭が獣に陥っている。思考が危険だ。暴走している。獣不足か。


 人間に対して同族意識が持てない分、獣へと染め上げられているのだろうか?

 獣は今の俺と比べて姿形も全く違うというのに。それでも獣に惹かれるのか。

 獣の方が俺に近く分かりやすいと感じているのかもしれない。


 歯の形状は犬歯が伸びているものの、植物の繊維をすり潰す臼歯がしっかり発達している。

 割合として植物を動物よりも多く食べているのか、口臭はあまり強くない。

 歯も白く、口の中に黄ばみなどが見えない。このクマ……歯磨きしている気がする。


 そもそもこのクマは普通のクマだろうか?


 毛並みが綺麗すぎる。歯も白く綺麗だ。どこかで飼育されている個体?

 それとも高い知能により、そういった事が健康に繋がると知った個体?

 社会性すら持っていそうだ。なんか怖くなってきた。


 集団っていうだけならノーダメージでやり過ごせる。

 だが社会性。もし言語を理解できるなら、人間と協調して追い込みにかかる可能性……は薄いか?

 一応俺は人型だ。それを襲うというなら人間との協調は考えられない?


 もし獣独特の感覚で人間でないと判断されていたら仕方ないか?

 頭を噛んでも血1つ流さないのだ。これを人間と呼べるか! とクマは言いたいだろう。

 だとしたら人間と共存関係があっても、俺を攻撃するのはおかしくないかもしれない。


 そもそもこのクマは本当にクマなのだろうか?

 実はこう見えて獣人で、今は獣そのものの姿をしているとかそういう事はないだろうか?

 もしそうだとしたら怖いな。


 子供とはいえ上半身がすぽっと入るくらいの大きさのクマって大分大きいよな。

 大きいと頭も大きくなるし、思考力が高くてもおかしくない。

 危険を冒す意味もないし、さっさと行こう。


 歯の付け根辺りに息をふっと掛けるとむず痒いのか身を捩りながらクマは俺を吐き出した。

 ぜぇぜぇ息を切らし、俺を見つめるクマの顔はどこか怯えて見えた。

 というか普通に怖いか。こういう行動をとる子供サイズの人間なんて普通いないし、怖いよな。


 もふもふに気を取られて先に進む事を忘れかけていた。

 早く進まないと狩人達に追い付かれてしまうかもしれない。

 痕跡を辿ってくるのだろうか?


 追いかける時は踏み折られた小枝などから推測するんだったか。追手を撒く簡単な方法は川に入る事だっただろうか?

 創作の描写ではよく見かけるが、水の中でも動くの下手な場合川底の石をひっくり返してしまうだろう。簡単に追えると思うのだけどどうだろうか?

 そもそも水に濡れてしまえば上がる場所がバレやすいだろうし、衣服が水に濡れたら逃走において重要な体温の保持がしににくなるだろう。これは俺には関係ないか。


 ちょっと足を動かす度にクマさんの体がビクンビクンとしている。

 視線をちょっと奥へと向ければ全身の毛も逆立て、少しでも体を大きく見せようとする。

 そんなに怖いならさっさとどこかに行っちゃえばいいのに。


 木の枝や土に残った足跡からどの程度の重さのモノが上を通ったか推測できる。

 四足獣は体重が体重が4分割される。だが人間みたいな二足歩行は1歩にかかる重さが大きいので跡が派手に残る。

 何かに乗って移動したとしても、俺が乗った分その乗り物の重量が増えてバレる。


 リスみたいに木から木へ飛び移ったとしても、リスみたいに俺は軽くない。

 木の葉などが落ちる可能性が高い。木についている芋虫の類が本来いる場所じゃない地上にいるのは十分な証拠足り得るだろう。

 やはり街道に入るのが一番簡単な痕跡隠しだ。間違いない。街道を目指さないとダメだ。


 街道に入れば誰の足跡だとかそんなものはわからなくなる。

 目立つ特徴さえ隠せれば人に注目されて記憶されることもなくなる。

 身長が低い細身の小さな子が荷物持たずに歩いているのはどうしたところで目立つか。


 街道近くで身を低くして草間に隠れながら走れば大丈夫だろうか?

 魔力を出さずとも身体強化並の速度で走れるのだから、かえってばれないかもしれない。

 時折どこかの商隊の集団の合間を歩けば誰かの子供とかそんな勘違いを誘発できるかもしれない。


 くまん。くまーん。そんな怯えるなよ。

 そんな自分を大きく見せたり、唸り声を上げているとかえって弱く見えるぞ。

 体を強張らせるな。楽に構えろ。どうにもならない相手に気張るのはエネルギーを無駄に使うだけだ。


 それにしても問題はどっちが王都で中郭都市なのかだな。

 太陽が登る方向に街道を行けばいいとは思う。

 気候的に東側に出ているはずなのだから。まずは森を出るのが最優先か。


 できるだけ跡にならない様に、柔らかく木の幹を斜めに蹴ればいいだろうか?

 地面に蹴った時のエネルギーを吸収させればあまり木を揺らすことなく進めるだろうか?

 三角跳びみたいにしていけばいいのだろうか? 昔に見たアスレチックを超えていく現代忍者? 番組の飛び石みたいに、斜めにトントンと進めば行けるか?


 あれは跳びやすい様に飛び石が斜めになっていた。

 斜めになっていたら前に向かって跳ぶのはある程度楽だが、ここはそんな木になっていない。

 そもそも履いているのがサンダルっぽい何かだ。若干ボロになりかけているそれでそんな行動をしたら一瞬でボロになる。


 そういえばあの異世界生物の胃液でよく溶けなかったな。服もサンダルも。

 直前にナメクジの海を通り抜けたからコーティングされていた?

 胃液に触れたとしてもすぐに途中から血に洗い流されていただろう。


 くま。力負けはしないが俺が軽すぎるから無視するに無視出来ないんだよな。

 このまま睨み合っても何も変わらない。スピードでササッと脇を抜ける? 出来るかな?

 恐怖による超絶スピード体験は出来たが、あれを素で出せるだろうか?


 出すしかないか。出せる様になるまで頑張ればいい。

 あの速度は出来る様になればすごく便利だ。

 普段からあの速度が出せれば……エネルギーの消費が多そうだな。


 このボディに後どれだけの魔力があるだろうか?

 異世界生物で満タンに出来た? そう思いたい。

 だが現状は消費しかできない。消費は控えるべきだ。


 呼吸が荒くなっているクマ。黒に近い茶色の毛はブワッと膨らんでいる。あそこに飛び込んだら気持ち良さそうだ。すぐ叩かれたり、噛まれるだろうけど。

 高い位置にある顔はよく見えないが、目線はずっと俺の動向を窺っている。

 ああいう風にエンジンを暖め続けているとエネルギーの消費量が大きそうだ。


 任意でスイッチを入れて、任意で切れる様にした方がいいだろう。

 クロックアップとクロックダウン。それがイメージしやすそうだ。

 クロックアップも大事だけれど、クロックダウンも大事だな。省エネができるだろうし。


 クロックダウンを極めたら千年も一瞬、クロックアップを極めたら1秒が千年になりそうだ。

 科学の進歩はドッグイヤーからマウスイヤー。IT革命が科学の進歩を劇的に早めたというのを意味している。動物の一生から考えた場合、年月の感覚は犬は7倍、ネズミは18倍だとかなんとか。

 寿命がないと思われるゴーレムにとって、ゴーレムの1年は人間の何年分に相当するのだろうか。


 今は魔力も豊富にあるし思考や運動に支障はないが、足りなくなれば省エネも考えなければいけない。

 この機会にクロックアップもクロックダウンもできる様にしないといけない。

 相手はビビっているくまさん。認識速度が上昇している可能性が濃厚。特訓相手として不足なし。


クマ「目付きが怖くて身の危険を覚えています。目を離したら何をされるか分かりません。お巡りさん! ヘルプミー! えっ? 今からでも入れる保険があるんですか?!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
gqch13hqlzlvkxt3dbrmimughnj_au0_64_2s_15


gto0a09ii2kxlx2mfgt92loqfeoa_t53_64_2s_d
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ