17、道中はトレーニング
車にくくりつけられたのか、揺れはするものの乳母車が倒れるような気配はない。
目の前には高い壁。
足元が毛布で柔らかく中央付近では立つことはできない。
縁につかまっても見えるのは車の木目模様の天井ばかり。
どこまで俺を阻むか……っ!
いや、まぁ、理由は分かる。
2歳児なんて小さい。
バランス感覚も危うい。
小さな物が揺れる空間で動いていたらコロコロ転がって危なくてしょうがない。
盗賊などに出会ったとき足元に転がっていられたら危なくて力が出せないのだろう。
しかし外の情報が限られている……。
例えば車。
この車の動力が何か。
馬なのか? 機械なのか? はたまた人なのか?
それすらわからない。
天井が木だということ考えると馬かな? とか思う。
しかし天井部分だけ木かもしれない。
幌部分を木に変えて弓矢などを防ぐ作りなのかもしれない。
動力の駆動音がせめてわかればいいのだけど、金物か何かが車が揺れる度にぶつかりうるさくてわからない。
物や人を運ぶものを意味しているだろう言葉を指して、車と認識しただけで、それが具体的にどういうものなのかが全く分からないのだ。
柵を作っていたプラスチックみたいな物。
プラスチックって日本語で言えば合成樹脂だ。
合成された樹脂なのだ。
まつやになどの自然界にある樹脂を真似して石油などから合成して高分子で作成したものなのだ。
高分子だから融点が高くて溶けにくいのがプラスチック。
人肌では溶けない程度の高分子の樹脂、この世界の自然に存在しても別におかしくはない。
魔法的な力で融点を高くしたという手だってありえるかもしれない。
どこまで想像しても正解はわからない。
実際に情報を集めなければ確度の高い推論は建てられない。
やはり俺を阻むか、情報の壁め……っ!
早めに言葉を覚えておいたから監禁フラグを回避できた。
情報を入手できないのは困るのだ。
く、せめて体を鍛えてやるっ!
この車の揺れを利用してバランス感覚の鍛錬に努めてやろうじゃないかっ!
何日か経過した。
天井を見つめたり、揺れを利用して乗馬マシンよろしく体軸をトレーニングしたり、体の中の魔力を素早く流動させてみたりしていた。
もう魔力を拡張できるスペースが体の中にはない……。
何度か車が停まり慌ただしく動いていたけれど目の見える範囲では異常を知ることができなかった。
もしかしたら何度か盗賊を倒しに動き回っているのかもしれない。
前世の中世だとかであれば川沿いもしくは泉など補給のために立ち寄る必要があっただろうけれど、ここでは水の補給については魔法でいけるんじゃないだろうか。
それと車が停まったのは動力を休ませる必要があるからじゃないだろうか?
それはさておき行商人の車は無事次の街に到着したようである。