表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/383

176、外の世界へ

 手洗いを済ませ辺りを見回した。周囲では3兄弟が荷物を整理している。

 俺は1階を一通り見まわった後2階へと上がった。1階は肉や木を加工すると思われる鋭い刃を持つ工具が多い。

 金属や鉱物などを加工するだろう工具はあまり見当たらない。鶴嘴とかハンマーは1本ずつある程度だった。


 ドアに気を払っても2階から逃げるとはきっと思わない。

 足音を消しながら1階の中を巡ったんだ。そこにいたと思わせられたはず。

 誰かがそこにいたと思っていると気づきにくくなる。警戒が途切れるはずだから。


 工具の類から狩人の様な生活を送っていると思われる。

 兄弟達の手元には様々な食糧があり、カバンから取り出したモノの処理で忙しそうだった。

 キノコの類などもいつの間にか拾っていたんだろうか? 移動の合間か。


 花を見つけられるくらいだ。周囲へ気を払って移動しているのだろう。

 俺じゃないんだから危険な生物や魔物に出会ったら大変だろう。

 そういう事への警戒も含めたら周囲に気を払わないなんて事ありえない。


 この移動も気づかれている可能性が高いか。

 できるだけ痕跡が残らない様に動きたいな。

 さっさと抜け出さないといけない。とりあえず奥の部屋を見るか。

 

 カルと書かれた表札の部屋に入ると男の汗臭かった。

 無造作に刃物が床に転がっていて、これでよく生活出来るなとか思う。

 窓には格子が嵌っていたが俺なら何とか抜け出せる程度の隙間があった。


 窓を開け頭を出してみると森の清々しい空気が部屋の中を通り抜けた。

 下を見ればそこそこの高さがあったが、今の体ならきっと大丈夫だろう。

 壁にはつかめそうな凸凹などなかった。あったら大きいサル系の魔物が入り込む危険があるし仕方がないだろうな。


 ここから降りれば……落ちればか? 問題なく脱走は出来そうだ。

 このままここにいては王都に戻ってしまう。それは避けたい。人里から離れほとぼり冷めるまでどっかに行きたい。

 現状俺は俺自身についてよく分からない。きっとこうだろうはあっても確証が持てない。


 身体的には異世界生物に飲み込まれても胃酸で溶かされたりしないし、食い破る事もできるし、呼吸も必要ない事はわかる。

 カニの甲羅にぶつかっても傷1つなく、甲羅を割る事も容易にできる。

 頭おかしいな。ゴーレム物理最強だな。流石魔力を使いまくっただけの事はある。


 魔物特攻とでもいうべき魔力吸収能力。

 カニの時に発揮した脚力。あれは魔力による身体能力強化だったのだろうか?

 そういった能力は現状確認している。


 少なくともここから落ちた程度では死にはしない。……とりあえずさっさと落ちるか。

 格子に手をかけながら窓から身を乗り出してにゅるりと窓の外に身を出す。

 窓の縁で背中がゴリゴリ擦れる。痛くはないけれど普通の髪なら痛みそう。


 窓の縁に腰掛ける様にして格子の外に身体を出す。

 格子に手をかけ昇る様に体を起こし、全身を外に出し、窓の縁に足をかけた。

 格子に体重をかけないように、窓の横の縁に指を引っ掛けかがみ、足を窓の縁から外した。


 ゆっくりと音を立てない様に、慎重に手を窓の縁に置き、窓枠の下の縁のところで懸垂する様な形で身体をゆっくりと下に落としていく。

 窓が開きっぱなしだと逃走経路がばれそうだし、小型の魔物が窓から室内に入るかもしれないので閉める。

 さすがに窓にカギをかけられないが、そこは容赦してほしい。流石に窓のカギが開いていたからってそこから逃げ出したとかは思わないだろう。


 何だろう。こう川の流れに乗ってここよりも高いところから先日落ちたのに、なぜ俺はまだこの手を離せないのだろう。

 いや、離しても死ぬことはないし、何なら痛くもないはずだ。ここまで来て何をビビっているんだ。

 昔の感覚に振り回されている気がする。摩耗するのも良くないが踏み切れないのは更に悪い。


 手を離したところで死にはしない。

 飛び降り台からプールに飛び込む様なものだ。

 初めては怖いがこんな高さ大したことないのだ。

 

 大丈夫、大丈夫。ただつま先から落ちて、つま先が着いたらゆっくり足を撓めていけばいいんだ。

 跳ねて着地するのと同じだ。カニの時を考えたら前も落ちた事がある高さだ。問題ない。

 せーので落ちよう。せーので指を枠から離すんだ。せーので指から力を抜けばいい。


 せーのっ!


 ずんって足に来たけど、思ったよりも音が鳴ってない!

 足元がけっこうふかふかしていてクッション性が高かったみたいだ!

 ちょうど裏手側だからか1階部分に窓もないし、大丈夫だ。問題ない。


 ほら大丈夫。何も怖い事は起きない。この程度の高さはなんて事もない。

 人間の時だったら致命傷かもしれないが、こんなのなんて事ないのだ。

 地上に落ちた音に気づかれる前にさっさと森へずらかるぞ。


 裏手側だから踏み固められていないというのも大きそうだ。

 木立は遠くだが、周囲は柔らかな下草が生えている。

 観察するのは後でも出来る。まずはここから離れよう。


 木立をガサガサといわせてはいけない。

 履いているのがサンダルだから森歩きを考えると最低なんだが、それは仕方がない。

 この身体でほんと良かった。ダニとかそういった虫害に悩まされる事はないというのが大きい。


 生身で森の中を歩くなら縁を縛れる長靴とか長ズボンとか長袖の服とか用意して挑みたい。

 首元からダニやヒルが入るとか怖い。つつがなく過ごせてのつつがなくは、ツツガムシというダニの一種によるツツガムシ病という致死性の高い病気にかかる事なく生きられてという意味だったか。

 小さいからといって油断はならないし、多少食われた程度と舐めた事は言えない。


 薬で克服出来た病気、清潔を心がける事で掛かりづらくなった病気。これらは本当に多い。

 まだ克服出来ていない病気や掛かれば後遺症が残る病気はあれど、医学の進歩でどれ程の病気が対応できるものになったことだろう。

 衛生関係の意識が過去に比べよくなった事で、特に子供の生存率が上がったのは間違いない。


 木々を分け入り、下生えを砕かない様に気を付けながら進む。下生えの住人が肌の上を這いずる感覚に不安感を覚える。


 病原菌を知る事で予防が出来る。例えばその膜構造を無力化する事でだ。

 具体的に言えばエンベロープを持っているインフルエンザなどはアルコールで消毒できる。エンベロープを持っていないノロウイルスなどは次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒できる。

 ノロウィルスを対策しようと思った場合、アルコール消毒では対応できない。


 けれど思えば簡単に病気だとか言っているが、これらも生物の自然な生命活動の果てだ。

 自分達に都合が悪いから排除したいだけだ。俺も病気にはなりたくないから対策はするけれど、これも自然である。

 ウィルスは生物学的に生命じゃないという人も多いがね。自己複製プログラムみたいなモノだからな。


 細胞を持たず、細胞小器官をもたず、他の生物の細胞を材料に自己を複製し続けるだけのプログラム。

 傍迷惑極まりないがいるのだからしょうがない。構造が簡単なため変異もしやすい。

 DNAもしくはRNAを持つ以上、生物であるという人もいる。生物学的存在とも言うんだったか。


 時折下生えの住人が噛もうとしてくるがこのゴーレムボディに刺さるわけがないのだ。


 ウィルスや病原菌といった彼らの存在は試練である。

 彼ら自身もどういう存在なら生き残れるかを挑戦し続けている。

 そして俺らも生存競争をしている。最後に生き残ったモノが勝者。


 DNAには種の記憶が詰まっているという。

 俺らには思い出す事が出来なくても、身体は覚えているというやつだ。

 様々な経験をし、様々な状況を乗り越えた存在。それを世界は求めているのだと思う。


 そう考えるとこのゴーレムボディがどれ程自然の原則から外れた存在なのかと思う。

 従来の病気を克服し、身体能力を大幅に超えているのだ。おかしいだろう。

 次世代を作る能力がない、1代限りの存在、経年使用による負荷。様々な問題点はあるか。


 はい、そこクマさんどいてくださる?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
gqch13hqlzlvkxt3dbrmimughnj_au0_64_2s_15


gto0a09ii2kxlx2mfgt92loqfeoa_t53_64_2s_d
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ