174、室内
外装が木製だったので中も木製かと思っていたが、例の謎プラスチックでコーティングされていた。
外装は周囲の木々を利用したカモフラージュなのだろうか?
木の匂い。匂いか。外装に利用すればプラスチックの匂いを漏らさずに対応出来るとか。
プラスチックの匂い。ゴーレムになった俺の鼻にもあまり感じられないが、嗅覚の鋭いモンスターは露出を激しくしている場合、嗅ぎつける可能性があるだろう。
視覚に重点を置いている場合、木の外装にごまかされやすい?
最低でも二重構造のこの家は防音性能などにも優れている可能性が高い。
室温の調整も大分楽だろう。
部屋の真ん中には大きな机があり、壁には様々な道具が入った棚がある。
大きなノコギリが壁にかけられているのは普通の家庭では見られないだろう。
持ち物から職業をどれだけ予測出来るだろう。
刃物はどれも新品であるかのように輝き、けれども柄が手の形に窪み黒ずんでいる。
魔法で状態の保存でもしているのだろうか? わからない。
どういった魔法が手入れに役立つのだろう。洗浄と思えば水属性だろうか?
水でコーティングをしていれば肉を切ってもあまり脂がこびりつかないんじゃないだろうか?
水を液体の操作と捉えた場合、対象の血液を一気に抜いたりも出来そうだな。
水で肉の断面を洗ったら栄養の類が抜け落ちそうだし、何かしらの方法でやっていると思うが。
水を使う事で栄養が抜けるのは浸透圧の関係だろう。
濃い食塩水や砂糖水を洗浄に使っている場合、ぶった切った肉、正確には細胞の断面から肉汁が出なくなるだろうか?
そういえば砂糖水で下漬けして煮込んだ鶏肉って安い鶏肉だったのにパサパサにならなくて美味しく食べられたな。
血脂も液体と一括りに操作出来るのであれば包丁に肉がこびりついたりしないで済みそうだし、解体とかにすごく便利にできそうだ。
実際の使い勝手がわからないから、もし俺がやるならもっと考えないといけないだろう。
刃物を入れた感触とかも実際やらないとわからないだろう。処理された生肉とは感触なども違うだろうしな。
「お嬢ちゃん刃物ばっか見ているな。大きい刃物がそんなに気になったか?」
保護した家出少女が無表情で刃物を見ていたら大分怖いな。
普通の家出少女からしたら刃物がかかっている壁とか怖いだろうな。
俺? 変だからしょうがないだろう。使用用途とか考えるわ。
普通の家出少女はこういうモノを怖がるのだろうか?
いや、今想像されているだろう家出少女の場合、自殺願望とか殺意とかあってもおかしくないか。
人に裏切られて川に投げ込まれているんだからそれくらい考えていてもおかしくない。
考えている事が殺意とか自殺願望とかからかなり離れているのが俺クオリティ。
そもそもこの体、あそこの刃物で切れるのだろうか? 切れなさそうだな。
あそこの刃物で切れるくらい柔らかかったらあの生物に食い殺されているわ。
「面白いモノはないだろ? とりあえず部屋はそうだな。あそこがいいか」
抱え上げられながら階段を上がり、指し示されたのカルと扉に名札がかけられた2階の奥の部屋。
2階には4部屋あり、それぞれの扉に名札がかけてある。それぞれ個人の個室になっている様だ。
階段の近くにある部屋は物置と札がかけられていた。
「あそこは僕の部屋だよ!」
次兄哀れなり。なまじ出来る兄がいると辛いよな。
周囲には兄と比較され、出来ることの傾向が似ていると否が応でもぶつかる。
俺の2番目の兄も1番上の兄とぶつかってコンプレックス抱えまくっていたな。
まぁ、でもそれでも俺とは違ってちゃんとした人生を歩んでいた。
結局俺は頑張りきれていなかったのだろう。変えようと思った方法もずれていたな。
好きに勉強したいなら好きに勉強出来る場所自体を探せたはずだ。家を出る前でも。
あの時の俺は最終的にただ家を出たいになっていた。家を出ればもう自由になれると思った。
やり方を認めてもらえれば楽だが、認めてもらえないからストライキを起こすのは馬鹿だった。
ストライキで一瞬折れたところで、相手は思考を変えるわけじゃないから結局問題は再燃する。
「カル。今日のところはルルと一緒に寝てくれよ。それとも俺と寝るか?」
結局あの時の俺は認めて欲しかったのだろう。
前世の学生時代の俺は人と話をしないし、関わる人も向こうからぶつかってくるのは母親だけだ。
だからぶつかってくるだけだとしても話す以上認めて欲しかったのだと思う。
ずっとぶつけられていた否定。
ぶっちゃけ俺は本当は人なんてどうでもよかったはずだ。
俺の世界には俺以外の人なんていないのだから。
ぶつけられた否定に反発して今の思考が芽生えたとすら思う。
幼稚園や小学生辺りの頃は人なんてどうでもよかったのだから。
人と馴れ合わないと生きていけない程俺は弱くないのだ。
「兄さんデカいからベッドに空きがないじゃん」
ここが2階だからって俺が逃げられないわけがない。
窓があればそこから降りる事は問題ないだろう。
音を立てずに降りられるかが最大の問題になるだろうか。
カーテンがあればそれを綱代わりにして降りられるだろうか?
表面の木壁に指をかけて降りられたらいいのだろうけど、ゴーレムの握力で壊れないだろうか?
握力で壊れたら人間業じゃないと言われそうだな。
確か脚のバネをクッションにして降りればそんなに音を立てずに降りられたような。
その場でジャンプした時、着地の瞬間の音を消す奴。あれをやればそんなに音を立てずに降りられるだろうか?
五点接地は方法は知っていても練習したことがない。
「じゃあ、カルはルルと寝るんだな」
まぁ、この体だから衝撃云々には効かないし、音が出なければ問題ないんだ。
近くに木があるなら枝や幹を辿って降りられるだろう。
近くに木はあるだろうか? さっきの見た感じだとなさそうだよな。
窓の近くに木があった場合、モンスターが中に入ってくる可能性が高いだろう。
部屋にモンスターが入った場合の対応ってすごい難しいよな。
魔法を使って倒すにしても室内だから派手な魔法は使えないだろうし。
2階は窓からの侵入さえ防げばいいから1階よりも防衛が楽とかあるかもしれない。
イノシシみたいなパワータイプは2階に直接突っ込んで来れないから安心だろう。
クマとかイノシシ、地上を歩き回る四足獣は力が強いモノが多いよな。
「カル兄さん寝相が悪いし、僕一緒に寝るのならその子がいいよー」
1階は地中からの……そう考えたら2階も空中からがあるか。
モグラタイプやミミズタイプよりも鳥タイプの方が種類多そうだよな。
それでも四足獣が来ないだけ大分マシなのか。
……さすがに1人で寝かせてくれるよな? 寝かせてくれよ?
1人で寝かせてもらえないと脱出の隙がなくなる。
トイレとかお風呂とかのタイミングで抜け出せばいいのだろうか?
今はまだ逃走を危険視されていないよな?
とりあえずいつトイレとか言おうか?
そろそろトイレに行かないと人としておかしく思われないだろうか?
「ルル。この子が嫌がっているから止めような。今はまだ早い」
早いってなんだ。後になればいいと思っているのか。
俺は人に懐く事はないぞ。人と一緒に過ごしても俺は人間になれない。
人に対して警戒心が解ける事は今後もないだろう。
個人に対して解ける事はあるのだろうか?
秘密云々が既にバレている相手ならあるかもしれない。
それがバレていない相手にはどうしたところで猫をかぶるだろう。
秘密云々は1つじゃないから、芋づる式に引っ張り出される可能性があるか。
まぁ、バラすとしても口の軽い人にはバラせない。
そう考えるとほんとリク君って俺が信用できる可能性がある唯一の人だったのか。
「とりあえず今日のところはカルとルルは一緒の部屋で寝てくれ。
一先ず片付けしたら飯食って休もうぜ」
トイレに行く、もとい脱出チャンスが来たか。
片付けで忙しくしているのであれば隙も多いはずだ。
荷物を動かしているのであれば多少の物音も隠せるはず。
「ねぇ、トイレ行きたいんだけど」
話を総括して感想書こうと思うと(あれとこれが反応して……)とかなって感想が長くなってしまうのは簡単に予想がつきます。
なので「このシーンが気になる!」「もしかしてこのシーンってこういう意図があったのかな?」みたいな感想でもOKです!
むしろ作者としてはそういう感想は(読み取ってくれたんだ!)みたいな嬉しさがあるので大歓喜です!
「いつになったら主人公は」も(そうだよ、周囲を観察しているだけじゃ違うんだよ!)と歓喜してました(笑)
皆様ご気軽に感想投稿お待ちしております。