172、転生者である事を誤魔化せ
「転生者って気持ち悪いんでしょ? お店の人が言ってた。私はそれじゃないよ」
中郭のお店の人が実際そう言っていたのを聞いてはいる。
事実を交える事で嘘を見えづらくする。嘘をつくのが苦手だから積極的にはしたくない。
バレる嘘をつくのは馬鹿らしい。隠しているのを知られるだけなのだから。
デコイを用意して話の流れをそちらに向かせないのがいい。
気づきを失くせば、気づく暇を失くせば隠しているモノが探られない。
忙しくするのが一番楽な隠し方なのだろう。
あれ? ということはトラブルメーカーが1番隠し事が上手い?
自分がトラブルメーカーになるよりも、トラブルメーカーの側でトラブルを処理する方になりたい。
トラブルを処理する側は大変だなと思われても大して詮索はされないし、トラブルを作る側はうざがられても処理側はいつも大変ねぇって労られて親しくしてもらいやすい。
「転生者が気持ち悪いか」
しんみりした落ち着いた声で長男が言う。藍色の瞳はどこか面白そうに笑っている。
何を考えているのだろう? 俺が何を思っているのか予想しようとしているのだろうか?
俺は相手にどういう風に見えている事だろう。わからないな。
表情筋がちゃんと動いているのであれば苦い表情が隠せていないだろう。
不味い状況なのは間違いない。どういう風に不味いと思っているかは隠せているだろうか?
嫌悪感が強めの表情になっていたら助かる。そうしたらきっと上手い具合に誤解を誘導出来るかもしれない。
希望的観測が過ぎる。常に最悪を想定するべきだ。
転生者だろうと考えている。その疑いは晴れていないはずだ。
一度思考に過ぎったモノはなかなか消えない。
「『子供の姿をしていても実際の年齢が30歳だとか、私たちよりも年上だったとかわかってみてください。怖いではすみませんよ?』そうお店のおじさんが言ってた」
実際その通りなんだ。
子供が性的な目線で親を見ていたらそれだけでも怖い。
その可能性があるというだけでも親からしたら怖いだろう。
それ以外でも知らないはずの事を知っているのだ。不気味ですらある。
転生者の親であるという事はそういった負担がある。
それ以外にも文明的な違いだとか、価値観の相違により発生する異常などリスクは多い。
転生者は害悪である。発見次第隔離するのが無難なのだ。
「あー。いやでもな。俺達にとってけっこう役立つ事を教えてくれているんだからそんなに怖くないだろう?」
よしよしと頭を撫でられた。俺の体に対して大きく見える手のひらは分厚く温かった。
威嚇をする子猫を撫でる不良系お兄さんが頭に思い浮かぶ。なんかそういうお兄さんの視線だ。
これに絆されるチョロさは俺にない。というか頭の上に手があるのが怖い。いやそこまで怖くないか。
この人自身には俺をどうにか出来るだけの能力はないと思う。
封印指定の報知機になられるのが怖いだけなんだ。
で。俺は本当はどの程度怖がっているのだろうか。
思考は最悪を想定し続けるが、そこまでは起きないだろうと楽観視していないだろうか?
今も長男さんに殺せないと高を括っている。そういう甘い部分があるな。
自分が法律で縛れない存在だとか思っているのだろうか? 危険だな。
「それは恩恵だけを受け取れる人の話です」
何故転生者に嫌悪を示すのか、それを表現する程に俺がいてはいけない存在だと思ってしまう。
そこまで殊勝な思いはきっとない。俺は機械的に判断しているだけだ。
いや、人間も機械もある意味同じなのだろうか?
合理性を突き詰めれば思考は複雑化する。複合的に判断出来る様になれば機械も人間も似たような判断をするんじゃないだろうか?
どこに優先順位をつけるかが機械と人間の違いになる? わからないな。
というか思考が逸れている。今そんな思索している時間はない。
今回は出来れば嫌悪感を強めに感じてもらえばいい。
一緒にしないでくれみたいなニュアンスがあればなおいい。
転生者にイタズラされて不快だったみたいなエピソードがあればいいがそれは行き過ぎか。
「身近に転生者でもいたのか?」
あー、嫌悪感強めで恩恵を受け取れる人だけですよっていたらそう読み取るよな。
そう読み取ってくれたら助かるとは思ったけれど、これは都合が良すぎる。
ここで話に乗ってしまうと後々面倒になる可能性が高い。
誰が転生者だったのかみたいな犯人捜しが起きて、リク君とかが槍玉に挙げられるかもしれない。
中途半端に? いやけっこうガッツリと俺と同調していた以上、転生者としての知識もあるだろう。
リク君は罪を引っ被ってしまいそうだ。いい子だからそういう目に合わせたくない。
そういう流れはすごい面倒だな。誰が転生者なのかとか疑われても非常に迷惑だ。
縁者に迷惑がかかるのが嫌だ。俺が嫌いな迷惑をかける行為だ。
ぶっちゃけ今も存在が迷惑をかけている気がする。存在が負担とか最悪だ。
「転生者が存在しちゃいけない理由ってたくさんあるし、考えたらその迷惑さも分かるもの。私は見た事ないけど」
自分だから見れたものではないしな。
いや、鏡で多少は見たか。本人だから他人を見たわけじゃない。
そこはきっと嘘じゃないだろう。
自分の中に意識が潜る。
相手に意識をあまり持って行かない。
ここら辺がダメだよな。
だがだからといって相手を見過ぎると俺は探ってしまう。
俺自身は探られる事が嫌だ。自分の嫌がる事を人にしてしまうのはダメだろう。
そう思うと結局自由に思考が出来るのは自分自身だけだろう。
「あー、なるほどねぇ。そっかそっか」
なんかまた撫でてきた。何を理解したのだろう。声が笑っている。
どういう風に判断したのか分からない。
ただ声の感じからそこまで悪い印象を覚えない。
おぅふ。また腰の辺りを抱え上げられた。なんか子猫が親猫に運ばれる気分。
大した事が出来ないと高を括っているから頭が油断している気がする。
臨戦態勢にすると化けの皮が剥がれる可能性が高いけれど、普通なら死ぬ状況に陥った場合も化けの皮が剥がれるな。
でこれからどうするよ。この人達と暮らすとかはまずないだろう。
どういう状況が好ましいかといえば難しい。身長的に成人だと言い張るのは難しいし。
ゴーレムである以上年齢の変化は特にないだろう。あるとしたら劣化が精々か。
「なぁ、お嬢ちゃんや。名前は?」
名前を明かす必要はない。俺は長い事一緒にいるつもりがないし。
彼が求めているのは俺がどこから来た子なのかを調べるためのモノだろう。
俺の容姿は土の神様と同じなのだ。こんな子を探していますって言っても幻を見たんだろうで済ませられるはず。
魔力1等級で俺の外見年齢と同じ10歳くらいの子に土属性がいない。
だから本来いるはずのない子供だ。実際ゴーレムだしイレギュラーだから。
名前を知らない俺を追いかけるには目撃情報が重要になるが、あり得ない存在である以上幻と言われるだろう。
教えた場合に何かメリットがあるだろうか?
そこに俺がいるという足跡が残ってしまう。
追跡があった場合見つかる可能性が上がってしまう。
やはり言う理由がない。
「そかそか」
何を納得したのだろう? 何か俺を理解できるモノがあったのだろうか?
とりあえずいつどうやってはぐれよう? 森の中に隠れられれば魔力の流出がほとんどない俺は見つけにくいはずだ。
モノを傷つけずに跡を残さず歩けるだろうか? 体重的にはバレにくいはず。
機会だ。機会を探さないとダメだ。
この人達から普通の女の子と同じくらいの身体能力ではぐれないといけない。
森の道なき道は落ち葉に足跡が残る。獣道でもいいからある程度踏み固められたところを行きたい。
感想はお気軽にどうぞとサラッと言ってみるけれど、感想をそんなに簡単に書けるならここまで感想が来ないはずもない( ˘ω˘)






