171、疑い
明けましておめでとうございます。
本年もまたよろしくお願いします。
歩く。つもりだったんだけど小脇に抱えられてしまった。
成人男性の歩幅と少女の歩幅、合わせるのがめんどくさいという事だろう。
歩いていたら途中でふらっとどこかに紛れ込んで消えられたのにな。
しかしこの姿下手したら誘拐に見えるな。
ふむ。人影が見えたら声を上げて対応を求める?
それをするメリットがあるだろうか? ないな。
一瞬の混乱を招けるかもしれないが、逃げ出せるかも怪しい。
穏便に逃げる場合、見た目通りの力しか出せない。
何らかの理由で緊急回避をしなければいけない時ではない限り印象深くなる事は避けたい。
「よっと。お嬢さんや。こんなのいかが?」
目の前に出されたのは青い花だった。
花弁が糸の様に細い。糸状花びらというんだったか。
ネムノキの花に似ている。葉っぱは……マメ科のそれとは違う。
扇状の葉だと? 天狗のウチワに似ている葉って事はヤツデの仲間か?
いや、そもそも糸状花びらは他にもキク科などの花にもあるにはある。
別にこの世界ではそういう進化の仕方をしたと思えばいいか。
マメ科の小さな葉の集まりとか見ていて面白いが、ここではどういった理屈で育っているのだろう。
ここは木漏れ日が作られないくらいに鬱蒼とした森。日照時間が短くてもいい陰樹なのは間違いがない。
葉っぱの形状や色合いからしても降水量が多めで日照時間短めが至適だろう。
「……お嬢さん、もしかして転生者か?」
……。花を見て植生を確認するのは子供じゃないな。
言葉を話せない理由を転生者である事に持っていかれるとやばい。
実際そうだけど、それを理由にして王都送りにされたら隔離ルートだ。
「違うよ?」
はい。コミュ障。
あぁー。ていうか今まで話さなかった理由づけがすごいめんどくさい。
探られるのが嫌だとか言えばいいか? 送り返される可能性があるし、イヤだからとでも言えばいいだろうか?
話せないフリをした方がいいと思っていた理由や話した理由づけがすごい予測されるだろうな。
小脇に抱えられているから顔が見えないし、この人は何を考えているのだろう?
腕の感じ、緊張の硬直とかはしていない。というかこの人たちが何者なのかよくわからない。
狩人にしては荷物が少ない気がする。魔法があるから道具が少なくてもいいとかあるだろうし、一概にそれを基準に予測が出来ない。
「おいおい、お嬢さんや、喋れるんかい」
めんどくさい。探られるのが苦手だ。隠し事が多いし、話せない事も多い。
転生者である事が1番バレたらめんどくさい。
話せないフリをしていると転生者である事を疑われる可能性があると思うとすごいめんどくさい。
文化の侵略者である転生者を放置できないのはわかる。
知識を搾り取れればお得。放置して在野で革命を推進されるのは面倒。
こんな世界があるんだよと語るだけでも為政者にとっては害悪なんだ。
その世界を知る事で成り立ちとかも理解せず、都合がいいところだけ見てそこだけを目指そうとするとすぐに潰れる市民政府が出来上がる。
全員が全員思慮深い人であるわけじゃない。流れが見えたら旨い汁を吸おうと煽るヤツもいる。
全てが理想のままになるのであればどれ程簡単なのだろう。
「あんまり話したくない」
夜、外を出歩いても強盗に出会わない。
裏道を通っても身ぐるみ剥がされて郊外に捨てられる事もない。
夜に小腹を満たすためにコンビニが使える。
これらは日本であれば当たり前に出来る行動だ。
電車を使えば1食分のお金で百キロ近く移動できる。
着の身着のままでいてもお金が多少あれば何日か過ごすのは楽だ。
日本では少しお金があれば出来る事。それを当たり前と捉えていたらダメなんだ。
宗教関係も日本ルールは通じない。彼らには身近な存在だったりするだろう。
魔法という目に見える証明があるのだ。
「ふーん……まぁ、いいけど」
抱えている長男? の雰囲気が豹の親玉っぽい。
猫科で群れを作るのライオンくらいしか頭に思い浮かんでいないし、豹に群れを作る習性はなかったと思うが。
なんというか狼というには猫のような茶目っ気を感じる。家猫とは違って飼われる様な性格でもなさそうだし、山猫というには優雅さがある気がする。
口調的にそこまで踏み込む気はないけれど、害になるなら排除したいという気配も感じる。
排除したいという部分は隠して、興味が薄いよと誤魔化しているけど。
本当に興味がないなら危険度判定みたいな質問はしないんだ。
あー。さっさとどこかに放置してくれたらすごい楽なのに。
怖いのだろう? 見ていて分からない存在なのだから。
そこにいるのがおかしい存在でもあるからね。
普通川底からこんな子供が特に疲労とか感じさせずに出てくるわけがない。
髪色や目の色の組み合わせと感じられる魔力量が釣り合わない。
そもそも魔力を感じられない。ゴーレムだし。
「唇が尖っているけどどうした?」
肉体的にはタンパク質みたいな質感や重量なのは間違いない。
こうして小脇に抱えられて運ばれるくらいだし、そう重くないだろう。
一般的な子供と同じくらいの体重なのだろう。
しょうがない。異常箇所は考えただけでここまで思い当たるんだ。
何を思われてもしょうがないし、普通に出会えなかったのが最大の問題だ。
このくらいの年齢の子供が出会うとしてどうすれば1人でいて不自然じゃないか悩むが。
いや無理だろう。どう考えてもこの年齢の子供が1人ぶらついていたらおかしい。
こっそり子供の遊びに混ざって、いつの間にかいるのが当然の人になれたらいいだろうか?
なんか神社の境内で遊んでいたらいつの間にか増えている謎の子供みたいだな。怪談だな。
実際その方法で混ざったとして、成長……。成長しないよな、ゴーレムだし。
その方法では人に紛れ込めない。いや、紛れ込んで神様枠に収まれないだろうか?
神様になったとしてもいい事なんて特にないか。
「すごい不機嫌そうだねー。お兄ちゃん、何かしたの?」
あー。この歳の子供である事がすごいデメリットだ。
1人旅をしているのもおかしいし、保護者をしてくれる人がいたとして何を対価に要求される事だろう。
リク君はもしかして自分しか頼れなくする事を狙ったとかないだろうか?
この容姿である事が最大のデメリットだ。
いるだけでおかしいっていうのが最悪だ。
1人で旅して何とかなるとか、自由になれるとか夢幻か。
全て全てめんどくさい。
普通に生きたかっただけなのに。
普通になりたかった。
普通に子供として育ち。
普通に周りの人と変わらぬ生き方をして。
共感をし、その人生を全力で生きたかった。
どこで間違えたのだろう。
どうすれば普通に生きられたのだろう。
俺はただ人と競い合いながら上を目指したかった。
勝ち負けどころか競う土俵に立てなかった。
なんでただ生きられないのだろう。
ただ生きるだけなんだ。それがどうして出来ないのだろう。
「転生者かな? って聞いただけだな」
俺は見て最悪にはならない様にしていただけのはずなんだ。
魔力に関して少しやり過ぎたのかもしれない。それが最大の間違えだったのだろうか。
だけれどそれだけでなんでここまで事態がおかしくなるのだろう。
自分の能力の限界を見てみたい。全力を出すからこそ勝負は面白いって思う。
全力を出したらどうして土俵からはみ出しているのだろう。普通ならはみ出すわけがないのに。
むしろどうやったら土俵からはみ出せるのかがわからない。
俺は低能だ。普通に生きられないのだから。
低能だから出来る事があっても何も手に入れられない。
理想ばかりを口にして、現実は届かない。
行動すればするだけ人から外れていく。
人間になりたくてもなれない。
リク君と一緒にいたら人間でいられたのだろうか?
「そこまで気にするくらいなら転生者なんじゃない?」
あー、もう。なんでこうなるかな。
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神の目線、親目線、同僚目線、シロ目線、リク目線、一般モブ目線、人間って面白い的な死神目線、人間って大変だなー(他人事)みたいな観葉植物目線、……けっこう色々な視点から読む事は出来ると思います。
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