表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/383

168、魚からの脱出

 ぐるんぐるんと回っている感覚がする。魚が身悶えしているのだろう。

 傷口に指を突っ込んで、ぐりぐりと奥へと手を押し込み引き裂く。

 うねる肉、血脂で滑る。筋肉は穴を塞ごうと力が込められる。


 魔力に満ちた血を飲んだからか、内臓の筋肉に力負けする事がなくなった。

 それにしてもこの魚? は何なのだろうか?

 普通の魚がこんなに魔力を持っているのだろうか?


 吸収しても尽きる事がないと思ってしまう。もしこの世界にファンタジー的な進化があったら1つ上の位階に上がりそうなくらいだ。

 胃の大きさからして20mクラスの魚だろうか?

 白鯨モビーディックだとかピノキオの大クジラとかよりは小さいはずだ。


 鵜とかもそうだけど噛み砕かずに体に比較して大きなモノをよく呑み込むよな。

 ちゃんと殺してから食べれば体内で暴れられる心配とかもないのに。

 胃の筋肉の硬さとか、胃液の強さにすごい自信があるんだろう。


 消化しきれなかったモノは吐き戻すんだったっけ?

 タカとかもそうだけど、骨とか毛玉とかそういうものは消化しきれないから、ペリットという形で出すとかなんとか。

 消化できないモノをムリに消化しない、食べるまでの手間をかけない分エネルギーをかけないと考えたら賢いのか。


 あれ? ペリットって鳥類だけだったかな?

 魚類はしていないよな。だとしたら全部消化していると考えた方がいいのか?

 サメやイルカとかで骨を吐き出すとかそういう話は聞いた事がない。


 あー、もー血が美味しいな。畜生。


 体にエネルギーが入る感覚。数日ご飯を抜いた後におかゆとか食べたみたいな感覚がする。


 美味しいという感覚は栄養になりそうとか感じるからなのだろうか?

 だがそもそもこの体は人間を模倣したものなのだろう。

 だとしたら俺に必要な栄養素を吸収したからといって美味しいと感じるわけではなさそうだ。

 むしろ人間と同じ味覚だとしたら不必要なモノも美味しいと思ってしまいそうだ。


 右腕を肩の根本まで突っ込めた。

 この穴に左腕を突っ込めばもっと開くか。

 びしょ濡れ、ぬめぬめ、血みどろか。


 俺って前世に何か悪行を働いたのだろうか?

 前世に悪行を働いたと思えないから前前世? 前前前世? 歌が始まりそうだ。

 俺の前前前世から俺は罪を償ってきたよとか。どんな大罪人だ。


 呼吸が要らないゴーレムだから生きられているけれど、人間だったら死んでたな。

 丸呑みにされた獲物って呼吸出来なくなって死ぬのだろうか? 酸素濃度とか低そうだし。

 ヘビだと丸呑みにする前にバキバキに骨を折っているし、下手したら体の中に入る前に死んでいるよな。


 にしてもどこまで進めば外にでられるのだろう。

 視界が真っ暗でわからないが、魚が傷みに悶えてすごいグネグネしている。

 トラックの荷台で固定されておらずクッションにぶつかりまくる荷物になった気分だ。


 段々と動きが弱っている気がするが、致命的な器官を壊したわけではないし、そう簡単には死なないだろう。

 死んで体内でガスが溜まり浮かぶのを待つのは嫌だ。死臭が体につく。

 さっさと魚から出て外を目指さないと。血の臭いは落ちるかな?


 なんか行動しながらだと思考がトロい。

 外部に対する行動の多くをリク君に任せていたから俺は思考に没頭できたのだろう。

 やはり大分始めの段階から俺はリク君と一緒にいたんだろう。


 一搔き一搔きが重い。肉を抉り、筋肉の抵抗に逆らい、モノを壊す嫌な感覚に逆らい。

 壊すのはやっぱり苦手だ。壊そうと思っているのに思考で抵抗がかかる。

 尖っていない指で無理やり引き裂く、馬鹿力はあるのに指が遅い。


 モノを壊すのに酷い抵抗がある。多分幼い頃の記憶が原因だろう。

 壊すというのは元に戻せなくする事が多々だ。そして戻せなくなったモノは多々ある。

 小学校の頃、手で触っただけで割れた窓ガラスとか。あれ本当に何が原因だったのだろう。偶然共振が起きて崩壊したとかだったら笑う。2度目は起きた事がないけれど。


 これ以上力を入れたら壊れるかもしれないとか、あれ以来すごい気を使っている。

 壊れたら直すとしても劣化しかその時の力では出来ないのだから。今はどうなんだろうか? より優秀なモノが作れるのだろうか?

 思い出の品はそのままの姿だからいい。壊れたら何も残らない。最適だった姿を壊してしまうのだ。


 思考が乱れている。過去に思いを馳せだしたら大分病んでいる証拠だ。過去は過去に過ぎないんだ。

 過去を知れば未来に起こるだろう事態を予測できるが、過去を追いすがっても何も手に入らない。

 未来を想い、過去を知り、現在を行動する。そうあるべきなんだ。


 あー、考えるから動きに雑味が混じるっていうのもあるかも。

 無心で掘るんだ。考えるな。血が美味しい。考えるな。

 思考にかかりきりになれば手が遅くなる。



 一掻きした時に白い光が見えた。久しぶりの光だ。


 光? 光という事は水道を抜けていた? 外?

 ぐるんぐるんとしていた揺れも途中で途絶えた。揺れがなくなってしばらくして体に感じていた脈動も止まった。

 つまりこの生き物は途中で死んで、川を流されて海へと流れていたのだろう。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 暗闇に慣れ過ぎた反動で光のある方を見ると真っ白にしか見えない。

 なんか若い男の悲鳴が聞こえたが、この状況ではいたしかない。

 魚の腹から人が這いずり出てきたら俺でも悲鳴を堪えきれ……無反応かもしれない。

 内心動揺しているかもしれないが、たぶん無反応だな。


 とりあえず体洗わないと。川を泳ぐのが1番楽かもしれない。

 でもこれなんだ? 何ていう生き物なんだ? 鰭が多すぎないか?

 原生生物だから不思議な形をしているのか? モンスターに対応するためにかな?


 これがきっと原生生物なのは間違いない。

 魔力に依存して生きている存在なら体液に触れた段階で死んでいるのだから。

 この原生生物に近いのはきっとシャチ。鰭が多すぎるけれど。

 淡水で生きている段階で色々と常識外れだと思うし鰭が多すぎるが、きっとシャチだろう。


 歯の形状が肉食のそれだ。尖っている。ゾウの様に植物をすり潰す臼歯ではなく、髭クジラみたいにプランクトンと海水を選り分けるための網みたいな歯でもない。

 サイズが20mを超えている段階でシャチとしては大分化け物だ。

 確かシャチって体長10mもなかったと思う。この原生生物、鰭が多すぎるシャチは何を餌に生きているんだろうか。あのナメクジか? あそこにいた理由も考えればその可能性は高そうだ。


 たまに流れてくるそれを食べるのか、死骸が流れてくるのか、はたまた自分から襲いに行くのか。

 ナメクジだけをエサに選ぶ必要はない。あの暗闇に何が隠れているのか俺は見ていないのだから。

 暗闇ってほんと情報が限られて不便だ。水音も酷く、嗅覚も使えない。触覚以外に信じる情報がない。


 あー、目が慣れてきた。ようやく外が見える。


 ここはどこだ?


 さっきの男性が近くにいたことから人里からそこまで離れた場所ではなさそうだ。

 川幅はけっこう広く、この体だと川底に足がつかない。シャチの体に指を引っかけて川を漂っているがこの行為はけっこう危険かもしれない。

 今のところ隣に大きなご飯があるから狙われていないが、俺が開けた穴付近には魚が群がっている。


 このシャチはどれだけの期間ここに残るだろうか?

 人間もまたこの大きな獲物を解体するだろう。既に先ほどの男性に見つかっているのだから。

 下手したら2、3日でなくなるかもしれない。


 かぷっ。


 口って便利。歯が尖っているからこうやって魚を捕まえる事が出来る。手づかみの方が難しいな。野生化が著しい。

 この辺りの魚は自分が狙われる事に慣れていないのだろうか?

 見た感じこの魚よりも大きな魚は見当たらない。食物連鎖の頂点か。


 岩に擦れたのかシャチは体中に大きな傷をたくさん創っていた。とても指がかけやすい。

 シャチの上を見ればハシボソガラスみたいな鳥が突きまくっている。傷口が多いから食べやすいのかもしれない。

 この調子だと近くの森からクマの様な大型肉食動物が狙いに来るかもしれない。


「兄さん! あそこに化け物が!」


 ややこしい御一行が現れる気配。困ったな。逃げられるかな?





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
gqch13hqlzlvkxt3dbrmimughnj_au0_64_2s_15


gto0a09ii2kxlx2mfgt92loqfeoa_t53_64_2s_d
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ