16、過去持ち
「2歳というと夜泣きとか……しなさそうですね」
ニキさんは俺の顔を見るとそう言った。
「えぇ、必要な時には傍まで来て呼んでくれますし、手の空いてないときとかも判断してくれるので助かりますよ」
「……本当に2歳児なんですか?」
「すごい賢い子なんですよ」
「そこまで物を考えられる年じゃないと思うのだけど……過去をもつこと……かな?」
過去を持つこと? ……名詞の形だから過去持ちと訳せばいいのかな?
「過去持ちは基本的に言葉を覚えるのが遅いですよ?
別の言葉で物を考えるものだから私たちの言葉がなかなか理解できないらしいですね」
別の言語で物を考える? ……母国語が別だということかな?
だとしたら転生者だろうか?
「……そっか、過去持ちにしては言葉を覚えるのが早すぎますね」
「リク君は過去持ちじゃなくて普通に頭がいいんですよ!」
「だといいんですけどね。……私は過去持ちは子供にはしたくないですね」
「何を知っているか、知るために政府に集められるのでしたか?」
「それもあるけど……知らない人を子供にしてるなんて気味悪いですよ?」
「あぁ、確かに……」
「子供の姿をしていても実際の年齢が30歳だとか、私たちよりも年上だったとかわかってみてください。
怖いではすみませんよ?」
すみません、前世の実年齢30歳です。
「確かに! 何を思われているのか、想像できないし嫌ですね!」
「たぶんその辺りもあって政府に子供を渡してしまうことに抵抗がないんじゃないですか?」
「なるほど……」
「噂だと監禁状態になるらしいですね」
「過去持ちだけを集めて情報を制限することで過去の記憶を使わないといけなくするらしいですね」
「ニキさんもその話を知っているんですね」
「過去持ちの子供の行方なんてみんな気になるんですよ。
自然とその手の話は世間話の際に集まってくるんですよね」
「王都とか政府のお膝元だから噂話はさらに多くなりそうですね」
「ですね、言葉を話せない子供が理解できない音を言葉みたいに使うらしいですよ」
「なるほど。リク君はそんな事なかったのでやっぱり過去持ちではないですよ」
「リク君はすごい頭がいい子なんですね」
ニキさんは俺の頭を一撫ですると外に降りていった。
前世のことは明かしたら危険だ。
監禁フラグじゃないですか。
言葉を早めに覚えてよかった……。
俺はそんな籠の鳥では居たくはない。
「ケンさん、ケンさん、奇遇ですね」
後ろの方で若い男の声がした。
乳母車の幌が邪魔で見えない。
「こんにちは。スイ君は今日は王都まで?」
「そうです、今回の報酬で王都で少し遊んできます!」
「王都はよく知ってる?」
「そこまでじゃないですね、住民権もないので滞在したら1か月もいられないですから」
「住民権か……」
「辺境の辺りは開拓民としてすぐ籍がもらえるんですけど、王都の付近になると条件が厳しいですから」
「頑張っていこうぜ」
「そういえばケンさんは王都に行くんですか?」
「そうだな」
「奥さんや子供まで連れて……引っ越しですか!?」
「そうだ」
父さんがポーチの中から1枚の紙を取り出した。
「……わぁ……どうやって住民権の獲得審査の資格をもらったんですか?」
「大海嘯の時にパーティーを組んだ仲間が王都のお偉いさん」
「大海嘯ですか……あれは僕は右往左往してるだけで精一杯でした」
「護衛をしているならモンスター退治もだいぶ慣れているんじゃないか?」
「あまりですね……。モンスターが襲ってくるよりも盗賊が襲いに来る方がよほど多いです」
「あぁ、盗賊か……」
「10人超えた大きい集団は騎士団案件なので基本的に出会わないので大丈夫ですよ」
「5人、6人とか来るのか?」
「そうですね、その辺りが多いですね。
食い潰した流民の1部が盗賊になるパターンが多いですよ。
普通の動物の狩猟しかしたことのない人ばかりなので落ち着いて対応すれば簡単ですね」
「そうなんだ、なら大丈夫かな?」
「車は大きいですから、集団で襲う動物の類は怖気づきますし、街から街に行く行商では食料じゃなく生産できない道具を運ぶので、大型のモンスターが襲ってくることは少ないです」
「だとすると盗賊にだけ気を付ければ道中問題はないのかな?」
「そうです。やばいのは流民に混じって冒険者崩れがいる時ですね」