158、少年
周囲の建物の壁はいつもの謎の樹脂製。
樹脂を固める段階で色をつけているのだろうか?
素材からして色が着いている様に見える。
日差しで退色しないだろうか?
あそこの建物とか赤みが少しくすんでいないか? そういう色合いなのか?
素材から色落ちしてしまうと後々困らないだろうか?
ただ退色しただけだと劣化だが、それ以上の能力があったりしないだろうか?
魔力を吸収して徐々に耐久性が上がるとか。
もしそうだとしたら年代物の建物はとても強くなりそうだな。
前世基準で考えると樹脂製は柔らかく、砂状のもので簡単に表面が傷つき汚れる。
こういう風に野外に露出していたら相応に傷がついていそうなんだが、見たところそんな跡はない。
塗装はされていないと思うが、素材自体に工夫がある可能性も想定できる。
ただこうやって樹脂で出来た建物を見ていると玩具の街に迷い込んだ気分になる。
この空もガラスの模様で、神様と呼ばれる人は上から覗き込んでいるとか?
だとしたら面白いな。小学生のアリの巣の観察と同じだな。
舗装された路面は緩やかな凸面と側溝があり、側溝には蓋がされていた。
前世の日本の道路を彷彿とするが、文明の進歩の結果と言われても信じられる。
疑えば疑う程、前世の文化に侵略されている気がして気持ちが悪い。
髪の色が違う。瞳の色が違う。顔の風貌が違う。基本的な文化が違う。
けれども前世の日本に非常に似ている部分がある。そこかしこに見えている。
人だけを取り換えた様に、細部を組み替えられた世界に見えて気味が悪い。
その世界に合わないんだ。歪さを感じるんだ。
江戸時代に電気自動車が走る様に、そこにあると違和感があるんだ。
異国を感じるために外国に来て、日本人にしか会えない様なもんだ。なんか違うな。
アメリカとか土地が十分にあるところの様に1件1件きちんと庭があるが、この都市の構造的に何故そこまで土地を確保ができるのだろう?
都市を壁で囲う以上都市の広さには限りがあるだろう。土地に余裕があるわけがない。
だが現実に庭がしっかりとあるのだ。何か理由があるかもしれない。
死んだ時に爆発するとか? 魔石の存在を考えるとこの説は怪しいと思ったがどうなんだろう?
死んだ時に限定せずとも魔法による被害の軽減を考えた場合、魔力2等級は最低でもこのくらいの緩衝域がないといけないとかそういう住居規定があるかもしれない。
魔力量で住む町の選別が行われているというのは聞いているが、もしかして生まれる人数も決まっていたりするのだろうか? だから固定の住居数があれば問題が起きないとか?
1等級が10年に3人しか生まれないというのは決まっている。
2等級は年に何人生まれるのか決まっている可能性があってもおかしくないのでは?
こう考えるとアリの様だ。この世界全体が1つの社会となり、一定以上は増えない様に遺伝子段階からプログラミングされている様に感じる。
この世界は作られ過ぎていて気持ちが悪い。
人間という種族が何かしらの意図を持って作られているような気がする。
この世界は神々の水槽なのだろうか。
「おーい」
そこにある草。庭に生えている芝生。
なぜこれが単子葉植物、イネとかと同じ構造の植物なのか。
踏んでも壊れにくいからか。これは誰が選んでもそうなるか?
いや、別にフキみたいな植物でも庭として美しく作る事ができるだろう。
秋明菊みたいな植物でも庭の奥まったところに植えてみたり、陽のよく当たる部分にはミントやカモミールなどを植えたりしても面白い。
ユキノシタとかそういう植物も面白い。ユキノシタは凍傷や火傷、炎症に効くんだったか。
庭を薬草で埋めていくのは楽しいだろうな。
薬草って見た目が面白かったり、匂いが面白いモノが多い。
家庭菜園で自分の食料を賄うのはどれだけの広さが必要かわからないが、薬目的ならそこまで量は必要ないだろう。
「なー! お前! そんなところで何しているんだ?」
どこかで聞いた事がある声の聞こえた方にある窓を見るとどこかで見た少年がいた。
緑色の髪に緑色の瞳。木属性1等級の少年だ。王都に入る時に出会った事がある。
名前はキルだっただろうか。
ここが彼の家なのだろうか?
変なところで足を止めてしまったな。
声をかけられてしまった以上応えを返さないと失礼だ。
だがなんて返したらいいだろう?
見た目的には同年齢だ。けれど髪色や瞳の色を見られたら面倒だ。
いるはずのない人なのだから素性が探られてしまう。
素通りが正解だったか。今からしてももう遅いか? だが何も言えない。
リク君が俺の中にいた時はすごい楽だったな。
リク君が答えてくれたから。俺に合わせてくれたからだ。
「おいっ! 聞こえてないのかっ! ちょっと待ってろ!」
少年は窓辺から奥へと消えた。
こちらに来られると面倒だ。
どこかに行こう。どこに行こう?
とりあえず歩くか。いや走ろう。道行く人にぶつからない様にしなければ。
道行く人にぶつかったら相手が爆散したとか起きないよね?
怖いな。肉体情報を知らないから走れずにこけるとかも起きそうだ。
人ごみに紛れ込むように歩いていこう。
周囲の人に溶け込むには呼吸を合わせる事が肝要である。
なお俺が一番苦手な事である。
リク君はきっとこういうの得意だろうな。
俺にすら合わせられるのだから大抵の人と呼吸を合わせられるだろう。
いや、俺に合わせられるとかえって普通の人と合わせにくい?
「あいつどこ行った!?」
ま、まぁ。俺よりも適応性能は高いのは間違いない。
俺にあるのは精神的な耐久性能くらいだろう。
屈しない精神だけであれば、反骨精神だけならば保証できる。
順応というには我が強すぎる。
そこに適応しているには角が立っている気がする。
周囲が俺に慣れただけというのがほとんどだろう。
一応角が立たない様に立ち回っているつもりだ。
けれどどうしたところで思考が空転し続ける。
無意識の我が周りのテンポを狂わせる。
「あ、いたっ!」
この道はどこに続いているのだろう。
王都の外に行く出る道はどこにあるのだろうか?
いつもは車に乗って移動しているから道が覚えられていない。
車の窓は高くて空ばかり見えるんだ。
変に力をかけて扉が開き道に転がったらその衝撃でリク君が死ぬだろうし、覗き込もうなんて考えなかった。
カーブとかの感覚はあるのだけれど、地理を覚えるにはあまりに情報量がなかった。
いや、そもそも前世でも車に乗って地理を覚えられた試しがないな。
歩けば道の感じとかで覚えられるのだけれども、方角とかも曖昧になってしまって難しい。
方向関係は元から怪しかったな。地図を見ながらじゃないと場所がわからない
「なぁ、お前。何者だ?」
前回は車の中でろくに顔を見ていなかったが、将来イケメンになるだろう顔だな。
クール系俺様博士みたいなメガネが似合いそうな声とか思ったが、メガネを着けていたのか。
この姿では接近するのも初めてだから、彼には俺が何者かなど見当がつかないだろう。
これがそこら辺のそこまで英雄とかに興味がなく、そういった情報に疎い人であれば知らない1等級の子が歩いていたという認識で終わったはずだ。
そういう人がいるのか俺は知らないが。そういった直接は関係しない事に面倒くさいと思う一般人だと話がすごい楽だった。
なんでよりによってこの子に見つかったんだ。間が悪いな。
そして1度逃げた俺に何を語れと!
リク君! 君ならこの子になんて応えるんだ!
何者と言われて簡単に答えられる身の上ではない!
この質問の意義はきっと自分の敵かどうかを知るためのものだろう。
だがここで「敵じゃない」と言えば敵対する可能性があるものの可能性を匂わせる事になって余計に面倒くさい!
端的に「ゴーレムだ」と言ってもゴーレムとは何ぞ? ってなって色々と面倒くさい!
身体的特徴からスルーが出来ない存在というのもさらに面倒くさい!
ここで相手の名前を知っている事がばれたらなお面倒くさい!
何よりフードをめくられて周囲に俺がいる事を知られると面倒くさい!
「黙ってないで何か言えよ!」
だぁーっ! 足りない頭を振り絞って考えているんだから急かすなよ!
コミュニケーションが上手く取れる様になったという幻想から覚めたばかりなんだ!
全部リク君がお膳立てしてくれていました!
リク君は俺じゃないっていう事がよくわかる!
考えた結果思いつかなくて慌てるのが俺だからな!
このコミュ障の極致め! 無難な事を言え!