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156、外に行こう

「お召し物はこちらでよろしいでしょうか?」


 ユエさんは少し部屋から出ると衣服と靴を手に戻ってきた。その間、わずか1分足らず。

 どこかに用意されていたのだろうか? いや、俺がこの姿になってから1日経っているのだ。

 元々外に出るつもりとは言っていた。だから用意していた可能性がある。


 渡された服は茶色いポンチョといったところだろうか。カントリー風?

 ぱっと見色合いが地味だが、ところどころに金と黒の装飾が施されていて高級感がある。

 ポンチョだからサイズ調整なども簡単ですぐに用意出来たとか? わからない。


 靴はまたあの謎の樹脂っぽい素材で出来たサンダルだ。ク○ックスみたいな黒いサンダルだ。

 裸足で履いても、多少サイズにずれがあっても靴擦れを起こしにくいだろう。

 踵の所にバンドがあり、脱げにくくなっているのはとてもいい。耐久力はどの程度あるのだろうか?


「ありがとうございます。髪や顔を隠せるところなどとても助かります」


 ポンチョの触り心地はポリエステル製の服に似て、ツルツルとしている。

 これもあの謎樹脂を整形して作られているのかもしれない。

 利便性が高すぎて驚くが、化学製品を思い浮かべれば想像がつく分まだマシな部類なのかもしれない。


 放浪するとなれば雨に打たれる時もあるだろう。

 樹脂製だから防水性能も高い。こういう点はとても助かる。

 薄手だが触ってみた感じすごい丈夫だ。


 こういうのは転生者の知恵が使われている感じがする。

 ……初めに原油から繊維を作り出した人の頭がわからないな。

 元の状態だと臭くて黒い粘つく液体だろう? しかも固まらない。


「お役に立てて何よりです。神様、私めが僭越ながら王都の案内をいたしてもよろしいでしょうか?」


 ユエさんは胸元で合掌しながら俺に言った。

 御傍につけてください、っていう事だろうか?

 必要ないな。街の観察をするだけなのだから。


 1人だからこそ思索に耽りながら街を歩けるというものだ。

 ゴーレムボディである以上、身の危険は普通の子供よりも低い。

 暴漢などゴーレムパンチで返り討ちにしてくれよう。


 魔法の類は無効化できる。神経毒の類はゴーレムである以上ほとんど効かないだろう。

 酸やアルカリで溶かそうとしたら多少は有効だろう。溶かせる程強いモノがあれば効くかもしれない程度だろうが。

 俺が想像するゴーレムであるならばそうであるはず。


「大丈夫です。私は1人で行きたいのです。この姿であればこそ感じられるモノを知りたいので」


 実際はどの程度のスペックを持っているのかが分からない。

 試さないといけない。頭の中で想像した通りのスペックだといいな。

 だが想定よりもスペックが低かったらどうしようか?


 この細腕が出せる力が細腕に見合ったモノだった。

 この体が耐えられる衝撃はこの体に見合ったモノだった。

 そんな事があったら、この成長しないだろう体でそんな事になっていたら新しい道を探すのが困難になってしまう。


 毒に対してもそうだ。魔力の吸収率においてもだ。

 想定を下回ったら自由に放浪する事などできやしないだろう。

 どこかに捕らえられるか、壊されるか。


「私は知らないといけないのです」


 俺は知らないといけない。

 行動しなければ全ては机上の空論。

 机でカリカリしていても家が建つ事はない。


 実践から知る事はとても多い。

 料理で言えば切る時の感触からどこが硬くどこが柔らかいのか。

 断面を見れば肉眼でもある程度は。さらに細かく見ていけばもっと詳しくわかる。


 俺は俺よりも強い奴に会いに行く。

 ……げふん。まぁ、限界を知りたいっていうのはそう言う事だろう。

 俺はそこまで強さにはこだわってはいないが、死にたくないからある程度の強さは欲しい。


「わかりました。神様、何か御用がありましたらすぐにお呼びください。すぐに駆け付けますので」


 茶色の瞳は琥珀の様に温かそうな色を帯びているが硬質だった。

 気づいたら後ろでストーカーしているところまで簡単に想像できる。

 もし小声で「ユエさん、お願いします」とか言ったら「はっ!」って出てきそうだ。


 バンジージャンプの紐と捉えるか、ペットのリードと捉えるか。ペットのリードだな。

 とりあえず今回必要なのは俺のスペック確認が第一で、次にこの世界の文化の確認だ。

 ストーカーは気にしないでいい。


 スペックが低ければ撒けないだろうが、そんな低いスペックでうろつくのは怖い。

 スペックが高ければ撒けるだろうから、ストーカーは気にする必要がない。

 どっちみちスペックが問題になるだろう。


 衣服は上から着れば問題はなさそうだ。

 ポンチョの下にワンピースはひらひらが2つでおかしくないだろうか?

 そもそもポンチョって衣服というより上着と言った方が正確じゃないだろうか?


「……お困りでしたらお着換えをお手伝いしてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。自分で出来ますので」


 外に出てもおかしくない服というニュアンスで選んだという事だろうか?

 放浪する予定だとは前段階で言っていた。だからこの服が選ばれた可能性がある?

 この服を選ぶ段階である程度サイズを知っていなければいけない以上、これはゴーレム化した後で選ばれたはずだ。


 この容姿が土の神様のモノなのは間違いがない。

 だとすればユエさん達、土の教会は引き留めるのが自然なのではないだろうか?

 いや、神様を捕えるというのは禁忌になるだろうか?


 嫌われるくらいなら援助を行い、好感度を稼ぎ、疲れた時などに居ついてもらう方が利益がある?

 これは誰の判断で選ばれた衣服の選択なのだろうか? わからない。

 ユエさんの判断だとは思えない。カナさんとかならわかる。裏に誰かが居そうだな。


 それにしても言葉を出す程に無感情な俺が見えてしまう。

 欲求の言い方がストレートになっている。

 リク君が補正をかけていたのがよくわかる。


 人への思いやりが足りていない言葉に感じる。

 実際自分中心の言葉だから仕方がないのだけれども。

 やはり俺が俺である事が1番の問題じゃないだろうか?


 服も着た。靴も履いた。問題はない。

 いや、よく考えてみたらこの靴は走りにくい。ストーカーを撒くために走るのは難しいだろう。

 顔を隠すような服は一般的ではないだろうから、色が地味でも記憶に残りやすいだろう。

 髪と瞳を隠さないといけないからしょうがないとはいえ、追跡が容易いモノだ。


 ……今回は散歩と割り切ろう。

 空き地があったら少し走ってみてどれくらいまで力が出せそうかなど確認しよう。

 この世界の一般的な空気を味わう。それが最低限の目標だ。


「シロ、僕も一緒に行きたい」


 ……どうする? リク君がすごい泣きそうな瞳で服の裾を掴んでいる。

 振り払って行きたいのは山々だ。そしたら絶対泣くだろう。

 その結果はろくな事にならない気がする。


 ユエさんはまだいい。カナさんやニーナ、ネネの反応がきつくなるだろう。

 現状、飛び出せる身体能力なのかもわからない。

 早まった行動はしない方がいいだろう。


 だがリク君がついてくるとなると一緒に大人が付いてくるのは間違いない。

 見た目少女の俺が3歳児を連れて歩くというのは怪し過ぎるから。

 すごい困る。観察重視でいきたいから同行者は好ましくない。


「神子様、わがままはダメですよ。神様にもご都合があるんですよ」


 リク君の肩を包み込むようにユエさんはリク君の背後で中腰になった。

 リク君の手は俺の服から離れない。むしろ強くぎゅっと握られていた。

 リク君の顔からは寂しさ、悲しさ、心細さなどが入り混じった感情が見えた。


 ……やはりリク君とは離れた方がいい。リク君は俺がいる事に慣れ過ぎている。

 依存だ。自立を考えるには早いだろうが、俺という毒に染まっていいことはない。

 俺が普通だなんて誤解をしていたら将来悲しい事になるだろう。


 リク君のためにも本来の親に育てられるべきだ。カナさんからは急に出てきた子供としてしか認識されていないはず。

 大多数の人からしてみてもリク君は認知していても、ぽっと出の俺は大したイメージがないはず。

 俺がどっかに行ったとしても深く関心は持たれないはずだ。


「私は1人で行きたいんだ、ごめんね」


 俺はリク君の手を振りほどき、玄関から外へと足を踏み出した。


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