152、時は来た
時は来た。始まりを示す声が鼓膜を揺らす。
車から降りた俺の前には以前俺が作り上げたクレーターがあった。
クレーターの底には雨水が溜まり、ガラス状になった底面を鈍く光らせていた。
「シロ。興奮しているね」
興奮するに決まっているだろう!
今日を持って初めて俺は自分の体でこの世界に足を降ろすのだから!
これで感傷的にならないヤツがいたら見てみたい!
「僕は不安だよ」
俺はお前が干渉して変な事にならないかが不安なんだが。
「もう僕には君を止める手立てがないから」
俺にはその言葉が信じられないんだよ。
俺がお前から離れられない様に周囲に話したりとかな。
ゴーレムの種類を移動が困難なモノにされたらなおさら俺はお前から離れられなくなる。
「シロは僕がそんなに性格が悪いと思っているの?」
少なくとも依存気質だからな。幼いからしょうがない。
小さな子供は何をするかわからない。自分の行動の結果を考えるには情報が少ないから。
リク君は俺がいたから多少の知識はあるかもしれない。だがそれはただの知識だ。生きていない。
「シロは僕の事を信じていないんだね」
1度した事があり、妙な変数がなければ、同じ結果を期待するだろう。
だが初めての内容をただ出来ると信じるのは盲目だ。
知識があっても経験ではないから、俺は信じられないな。
「めんどくさいね」
めんどくさいだろう? だから離れるべきなんだ。
「あぁー、はいはい」
スルーを覚えただとっ……! まぁ、リク君も成長するよな。
毎回こんな事で煽られたりしないよな。この調子で成長していけば俺から離れても大丈夫だよな。
いやぁ、助かったわ。
「シロって地味に楽しんでない? この境遇」
さてね。
「ひねくれ者め」
それがどうした。俺は元々そういうやつだ。
もう少し叙情的な奴だったら面白かっただろうと俺は思う。
全く中途半端でどうしようもない奴だな。
「リク殿。内緒話もそこそこにそろそろ準備を」
あー、そうだな。変なフォルムにしないとか、人の姿がいいとかは考えた。
だがそこから先は全然決めていない。どういう人がいいだろうか?
身体能力はゴーレム的なパワーでどうにか出来るだろう。だから出力を上げやすい構造がベストだろう。
「ニーナさん、わかりました!」
巨大化モデルがニーナ。原寸モデルがネネ。
サイズの大小は特に問題がないだろう。
今回俺の体に求めるのは器用さだろうか?
「リク殿、どうなされた?」
基本的に俺は本を読んだり、物を作ったりしたい。
物を作るのが得意かどうかでいえば微妙なラインだが、それは練習をつめばいつかは達成できるはずだ。
絵を描くのと同じだ。どれだけ数を熟し、人の絵を見て考え、技巧を知るかで自身の技巧は変わる。
「シロが今考えているよー」
もちろん最後まで造形に満足は出来ないだろう。
上を見ればきりがない。自分が頂きに立ったと思ったら傲慢だ。
合理性で描けば創造性に欠け、創造性は時が経つにつれて鈍らになりやすい。
「ほぅ。何を?」
とにかくパワーはゴーレム的サムシングに頼ろう。
モデルは人間がいい。器用さは人間が群を抜いているはずだ。
というか外部アタッチメントで出力を補えるだろうか?
「シロはねー、器用さを重視したいみたい?」
外部アタッチメントを支えられるだけの耐久力がゴーレム側に必要だ。
思えば負荷テストを行っていないから限界値を知らない。
構造的には参考にした生物と同じ程度の強度があると思いたい。
「ふむ?」
もしゴーレムが通常の生物よりも高い強度を持っているなら上位互換だな。
通常の生物は発生の過程を想像するに、魔力の存在を無視している可能性が高い。
正確に言えば魔力に頼りすぎない肉体構造だな。
「でも筋力についても気になっているみたい。ゴーレムだからある程度は大丈夫だろうとは考えているみたいだけど!」
ゴーレムの場合、魔力で一から作られるから金属の骨格とかでも問題なく作れるだろう。
通常の生物は自然に分解できる物で作られるだろうから、金属は金属でもカルシウムなどが精々だ。
造血器官とか色々な機能が骨にはあるから動物はそれでいいのだろうけど。
「筋力は魔力次第でどこまでもいけるからなぁ」
あぁ、ゴーレムだと思うと合体機構が欲しくなる。
しかし生物モデルで合体機構は難しくないか?
籠手とか甲冑を着るような感じでいけばイケる?
「あとあと道具を使えば元の体がそこまで大きくする必要はないんじゃないか? とか考えているよ!」
スライムみたいな粘液体を利用して神経接続とか出来たら面白そうだ。
だがそれは神経を剥き出しにするというのと同義だよな。
体毛を神経に見立てて? イヤむりだな。体毛は分泌物と同じだ。痛覚がない様に接続は出来ない。
「シロ殿は何を考えているのだろう……」
いや、ちょっと待て。毛穴なら微細な神経が通っているよな。微細な神経でもまとめて干渉すれば?
それくらいなら初めから背骨付近からアタッチメントと接合できる器具をつけた方が合理的だろう。
アタッチメントを剥き出しにしたら乗っ取られる可能性があるからセキュリティをしっかりするべきだがな。
「神経接続とか?」
そもそも合体のメリットは本体のエネルギーが切れても分体からエネルギーを補給できる事だ。
パーツの入れ替えで欠損に対応できるのも評価が高い。生物は一度不具になったら元に戻れない可能性が高い。
それを気にする必要ないのは十分すぎるメリットだろう。
「ちょっと待て本当に何を考えているんだ!」
そういえばタマゴーレムには意識が宿っていたのだろうか?
発声器官がないから分からないが、もし宿っていたとしたら可哀そうな事をした。
だがもしないとしたら生物の形から離れた場合、意識が宿らない可能性がある。
「生物の形から離れたら意識って宿せないの?」
1回しか出来ない物で無用な危険を冒す必要はないな。
出来るかどうかはゴーレムになった後で考えよう。
チップを埋め込んだり、やり様は色々あるだろう。
「生物の形から離れたら宿せないな」
となれば無理をする必要がない。
余程筋力が必要な事態になったらパワードスーツか何かを作り上げればいい。
ロボットに乗り込むとかも面白いだろう。
「あ、普通の人にするみたい」
体積はどうしようか? 稼働できる時間はタマゴーレムの実験を参考にするとサイズは関係がない。
あ、細かな挙動など複雑な動き方をした場合の稼働時間の確認はしていないな。
まぁ、いい。とりあえずサイズは小さい方が燃費がいいだろう。
「よかった……」
しかしだ。小さい方が便利だが、印象的な問題で対人的には中肉中背が無難に行動できると思うんだ。
西洋的な世界だとしたら大人の平均身長が180センチくらいありそうだ。
今まで見たのが子供ばかりだから身長の平均がわからないのが問題。
「小さい方が燃費が良さそうとか言っているよ」
交渉事をする時、普通の大人サイズが無難。
身体的な安定性も大人の男性がいいだろう。
ただその稼働させるための魔力の確保が問題だろう。
「燃費を考えるなら確かに小さい方がいい。ゴーレムならどんなに小さくても保有量は大きいから魔法も今と同じかそれ以上のモノが使えるだろう」
食料などを燃料にエネルギー確保? ネネは出来ていそうな気配がする。
ニーナも実はしている? ニーナのエネルギー源はどこにあるのだろう?
俺から補給している分は多少あれど、それで足りているのだろうか?
「ニーナさんのエネルギーについて考えているけど、ニーナさんはどうしているの?」
リク君がニーナに話しちゃうからすごい困る!
俺はまず考えたいの! 考えなければ聞きたい内容が分からないから!
聞かずとも見れば分かる内容を聞いてどうするのさ!
「リク殿や他の人の近くにいればおのずと多少は補給できるな。まぁ、何かしら魔法の余波で補給しておるよ」
自然に漏れ出す魔力で補給している感じか。都市部であればほとんど永久機関なのか?
それはやばい。強い。毛の量が吸収率に直結しているのだろうか?
だとしたら髪は長い方が継戦能力が高そうだ。
「髪が長いと魔力の吸収の効率はいいの?」
というか俺に交渉事ができるのだろうか?
こういう独り言はともかく、人に向けた言葉をどこまで瞬時に考えられるだろうか?
こういう独り言は飛躍的でも問題はないが、人に向ける場合それが出来ない。
文書にまとめればいいか。文書での交渉に体格関係ないな。
「表面積が大きければそれだけ効率がいいからそうだな」
要人との交渉時に「これでご主人様の言葉です」と文書を渡すちびっこ。
そのちびっこが実は本人だけれど、誰もがその文書の相手に別の相手、大人の男を想起するとか?
なんかそういうの面白そうだな。
「髪の長い小さな子にするみたい?」
効率重視だとそうなるな。本体は話す必要がないのが楽だ。
書いている間に思考をまとめられるし、言葉で誘導するというのは惹かれる。
貼り付けた笑顔での対応ってすごい楽だよな。
「シロ、そろそろいい?」
あぁ、イメージは整った。魔力の準備も整った。
ロマンは置いておいて俺は成人男性の姿になろう。
どこにでも歩いて行けるのは成人男性だから。
「こちらの準備もいいぞ」
ニーナの準備も整っているのか。
幼女になったらどこにでも行けないとまでは言わないが、移動に際し何かと制止が加わりそうでめんどくさい。
リク君の下に留まらなければ面倒が見切れないと拘留される可能性だってある。
「それでは魔法を使おう。俺は自由になる! 『クリエイトファミリア』!」
レン
21歳
役職:魔道具研究開発課ミザ研究室研究員
属性:金
魔力:3等級
髪色:オレンジ
虹彩:藍色
不思議が好き。純粋が好き。神秘が好き。ふんわりやわらか夢見がちな研究員。不思議属性モリモリのチサ先生はすごいタイプ。でもチサ先生はレンさんには興味がない。なんとか機会を作って話しかけてみるけれど、眼中にないのでこの恋路はとても難しそう。悲しいね。可愛い系の顔をしているから中等部や高等部の女学生からはモテモテだけど、同い年には子ども扱いされがち。見た目からしても陽キャ。中身も陽キャ。まだ、今はまだ負の世界に足を踏み入れていない。まだね。まだ今のところは。
あ、HJ文庫1次通過しました! やったー!






