151、両親
「リク君?」
そう玄関を開け開口一番言った今世の母さんは不安そうな顔をしていた。
本当にエリさんは被害者だな。息子に俺なんていうイレギュラーが混じってしまったんだから。
リク君だけであればいい子だから幸せになっていたことだろう。
「はいっ! リクです!」
エリさんの青い瞳に映るリク君の顔は満面の笑みだった。
リク君の顔を見るにエリさんに会えた事が本当に嬉しいのだろう。
やはり俺はいてはいけないんだ。申し訳なさがすごいな。
「久しぶり……」
不安そうに歪められたエリさんの顔は色々な感情が入り混じった表情をしていた。
俺が前面に出ていた時期から接していたから違和感を覚えているのだろう。
もしかしたらその頃から今のリク君は半分くらい混じっていたのかもしれない。
「シロの事?」
それ以外ないだろう。それにしてもこの話はどこまで拡散しているのだろう?
関係者全員に伝えられている? いや、もはや日報が作られているレベル?
観察記録がつけられていてもおかしくないか。怪しいヤツだからな。
「うん……」
どこまで突っ込んで聞いていいかわからないだろうし反応にも困るだろう。
そもそもシロとは何者なのか? とか考えたら色々辛くなるだろう。
親だからこそ、自分の子供だと思えなくなっちゃう異常を受け入れにくいだろう。
「シロはシロだよ。僕の大事な一部なんだ」
リク君は光属性、陽キャだよな。俺は陰キャだからそんな事は言えない。
むしろどこかの小説であった「赤子が泣くのは生まれ落ちた事で孤独になったからだ。人は生まれた時から孤独なのだ」という言葉がしっくりくるくらいだ。
自我を確立し、どこにでも行ける存在になるのが至上命題なのだと思う。
「リク君……」
自分と離れたところで成長していく息子を見るのはどんな気分なんだろうか?
異物感が強そうだ。自分の身体から出てきたものとは思えないだろう。
異物感がやがて忌避感に変わり、育児放棄などの虐待に繋がるんじゃないだろうか?
「お母さんは僕の事が怖い?」
怖くない方がおかしい。
それが人間として通常の反応だ。
自分の知らない生物を見ている感覚になって然るべきだ。
「……怖くないわ」
そう口では言うだろう。
自分の中の親としての意識が見捨てるのは違うというだろうから。
でも親だからこそ怖いという感情は間違いないはずだ。
「そっか。お母さんありがと」
エリさんの瞳に映るリク君の顔は何かをこらえたような笑顔だった。
あーね。俺がいたからこんなややこしい状況になったんだよ。
俺がいなければこんな事なんてないんだ。だから俺は必要ないんだよ。
「……ごめんね、こんなつもりじゃなかったのに」
あーあ。泣きそうな表情だよ。だから嫌なんだ。
この顔を見るのが嫌だったんだ。俺が受け入れられるわけがないじゃないか。
俺だって外から俺を見て理解が出来るか? と言われたらムリだと答える。
「大丈夫、分かってたから」
リク君が悟り世代の顔をしてやがる。
俺じゃないんだから諦めるなよ。燃え尽きんなよ。
俺がいなければ親子関係は元に戻るんだから。
「ごめんね、リク君……」
エリさんは小さなリク君の身体をぎゅっと抱き、耳元で涙交じりに言った。
自分に対する不甲斐なさなどで震えているのだろうか。
あぁー、こういうお涙頂戴のシーンでも俺は自分は関係ないと考えているんだな。
「お母さん、僕は大丈夫だよ」
エリさんの後ろにはリク君のお父さん、ケンさんがいた。
リク君はすぐにエリさんの頭を抱きながらぽんぽんとしていたので一瞬しか見えなかったがいた。
何とも言えない顔をして、ケンさんは立っていた。
「ごめんね……」
あぁもう。リク君のご両親に何を言えばいいんだよ。
俺は出て行く。それ以上でも以下でもない。だからもうカオスは終われよ。
俺がいなければこの家族は上手くいくはずなんだ。
「僕は大丈夫だよ」
辛い。あーもう、だから嫌なんだ。俺はこういう空気が一番嫌いなんだ!
起きてしまった事は仕方がないんだ。もう変えられないんだ!
こういう悲劇が起きて欲しくないんだ! 俺が原因で起きるこういう悲劇は大嫌いだ!
「……リク。気づけなくてごめんな。お前は辛かったんだろう」
あーもう、さらにややこしくなっている気がする!
多重人格はストレスが原因説はこの世界でもあるのだろうか?
そうだな! ストレスフルだな! あっち行ったりこっち行ったり!
「お父さん……」
この世界にもあるのだろうか?
難病にかかった時中途半端に聞きかじった知識で判断してしまうヤツ。
該当するモノがいくつか思い当ったらそれだと信じてしまうヤツ!
「俺がもっと傍に居てあげられたら」
あー、はいはい! そういうのはいいから!
俺というイレギュラーがいたから起きたんだよ! この事態は!
誰が悪いって? 俺が悪いんだ! だから俺が居なくなれば丸く治まる! 閉廷! 閉廷!
「僕は大丈夫だよっ!」
あ、リク君がきれた。まぁ、うん、そうだな。
目の前の2人にプラスして俺までイラついてたもんな。
すまん。俺が悪かった。
「リク君?」
2人してぽかんとしちゃってらっしゃる。
そうだよな。いい子ちゃんが吠えたんだから。
少しは正気に戻るかな? 正気に戻ってほしいな。
「僕は大丈夫なの! シロは病気じゃないの! 1人の人間なの!」
あ、俺は自分が人間だとは思ってないんで。こんな欠けたヤツが人間なわけないだろ。
利己心でモノを考える人でなしで、本質的には人間という存在に興味がないんだから。
こんないかれたヤツが人間であるわけないだろ?
「シロはね! 悪い理由は全て自分にあるっていうんだ!」
そう言われると自己犠牲の塊か偽悪的なバカに見えるな。俺は出来るだけ冷静に物事を積み重ねたはずだ。
何だかこうもリク君の一部である事が外れるのは逃げる事だと暗に言われるとちょっと反骨心が刺激される。
しかしだからといってゴーレム化を止めるのはしないが。
「シロはこんな風にお母さん達を悲しめたくないから出ていくっていうんだ」
その言葉は合っていると言えば合っている。
だがそれが全てじゃないんだ。
だからもやっとする。
「だから泣かないでよ……僕は大丈夫なんだ……」
これを計算してやる事ができる場合、扇動家の資質が高いだろう。
リク君はどっちだろうか? 計算しているのだろうか?
どこまで計算しているのだろう? わからないな。
「リク君……」
そういえばリク君は俺の言葉をどう受け取っているのだろう?
やはりめんどくさく感じているだろうか? そうやって受け取ればいい。
鬱陶しいだろう? 俺も俺みたいなヤツいたら被害が来ない場所で見るだけにするのは間違いない。
「僕は大丈夫」
なぁ、それ以外言って無くないか? いやまぁ、精神不安定になっている人には確かにそれが効果的だ。
長文をぐだぐだ言ったところで理解するわけがないからな。
むしろ重要な部分を、短く繰り返すべきなのだろう。
「うん……」
ただ大丈夫しか言ってないから何も解決していないけどな。
いや、正確には顔を見て、その状況を見る事で用件のほとんどが解決しているのか。
リク君はほとんど精神的に一人立ちしているって感じに。
「ねぇ、お母さん。久しぶりに会ったんだからもっと明るい話をしよう?
僕はね、学園の特別クラスに入れたんだよ!」
エリ
25歳
役職:主婦(少尉)、万魔の魔女、リクの母親
属性:土
魔力:3等級
髪色:金
虹彩:青
普通の子が生まれたら不器用なりにいい母親として過ごせただろう。だが残念ながらリク君、いやシロの母親となったのが不運である。なまじいい人だから本当に可哀想。拗らせまくっているシロのせいでどれだけ悩んだ事だろうか。本当に不憫。学生時代は軍の下位機関、都市学生治安部隊で隊長をしていた。当時同じ部隊の隊員のケンと一緒に都市内における魔物災害や犯罪者の発見に尽力していた。正義感で暴走しがちなケンの抑えとして立ち回る事が多く姉弟みたいと言われる事もあった。私生活では逆転するみたいだけれど。
ちなみに更新した今日って作者の誕生日だったりするんですよね(唐突)
見える反応がアクセス数と目次下の評価が九割九分で悲しい(本音)
感想ください(率直) 思いつかなかったらとりあえず私の誕生日でも祝ってください(おい)
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