150、魔力充填中
「リク君。リク君にとってシロ君はどんな存在?」
カナさんはニーナのお腹の毛に埋もれているリク君の隣に座って声をかけた。
やはり1人に話せばあっという間に広がるモノだな。
いや、話さないで魔法の使用ができる場所の確保が出来なかったのだろう。
「大切な存在だよ」
どういう意味かがわからない。観察対象として面白いからか?
あー、こういうと否定が来るよな。言っている事は変わらないというのに。
大丈夫、大丈夫、わかっているよ。お互い理解からほど遠いという事は。
「どうして大切なの?」
見ているだけでわかる変なヤツだからだろう?
こんな変なヤツ見ているだけで退屈な日常から解放されるってか。
卑屈が過ぎるか? あーね。だから? 見たくないだろ?
「誰よりも優しいから」
優しい? 違うだろ。俺はただの利己心で行動する自己中野郎だ。
誰かのために行動する事はない。俺にとってそうした方が都合よく回るから行動しているだけだ。
そもそも俺は一般的な意味で人に興味を抱けない。
「シロ君は優しいの?」
物語の主人公の様に正義感で行動するわけじゃない。
物語の主人公の様に自分の価値観を世界に適用させるために行動するわけじゃない。
俺はただ俺にとって都合のいい自由な世界に行きたいだけだ。
「うん!」
好感度の高さに疑問を隠せない俺がいるんだが。
いや、そもそもこれは好感度なのだろうか?
子供の無垢な残酷さが出ているの間違いじゃないだろうか?
「そっかー」
カナさんはリク君の頭を撫でながら曖昧にほほ笑んだ。
その微笑みにはどんな感情が隠されているのだろうか?
こういうのを考える理由が自衛だと思うとやはり人でなしだと思う。
「でもねー、考えてる事がすごいめんどくさいのー」
おい。めんどくさいめんどくさいっていうよく言うな!
俺が自分で言う分には気にしないが、俺以外が言うとすごくムッとするわ!
まぁいい。めんどくさいんだからすんなり解放してくれよ。
「めんどくさいの?」
もしかしてリクの奴。シロはめんどくさい奴という刷り込みを周囲にする事で、自分が世話を焼く優しい人アピールを企んでいるのでは?
実際俺はめんどくさいヤツだ。それを否定はしない。だから俺がゴーレム化した後の布石を打っているのかもしれない。
初めに優しいっていうクッションを入れる事で、めんどくさいの部分で落としても悪意を感じないようにしている可能性もある。
「うん! 今も自分が傷つかないための予防線を引いているくらいに!」
……こいつ。
色々情報を前もって伝えておく事で、先入観を与えて逃げにくくしている可能性が高いな。
優しい自分をアピールする事でリク君を置いてどこかに行くと、自然と俺が悪者にされる流れが出来る可能性がある。
だがただのよくわからない厄介者から優しいけどめんどくさいヤツにイメージを変えると、この場所での生存ルートが出来るのか。
「ちなみにどういう感じなの?」
だがそう上手くいくのか? いや、こういう情報操作はむしろ子供の方が得意ではないだろうか?
違う。集団が小さい程内輪のノリが効きやすいんだろう。だからイジメが解決しにくい。
1番厄介なのは20人から30人くらいの集団だろうな。少人数の外部集団では介入しにくいから。
「んーと。僕がめんどくさいヤツだとシロの事を言うのは布石なんじゃないか? とか!」
おい、それは言葉にするとドン引き案件だぞ!
いや、まさかそれも布石? 陰謀論者並みにうさんくさいヤツだとアピールするのか?
お隣さんが包丁を研いでいるのは俺を殺すためとか、そんな根も葉もない事を吹聴する虚言妄想癖に見えるじゃないか!
「そ、そっかー」
ほら見ろ。カナさんの表情が固まっちゃったじゃないか!
それにだ。俺は考えるだけだ。口には出さない。
考えている事をお前に筒抜けなのが問題なのだ。
「だから僕が意図していなくても、こういう意味が見えるって言っちゃうの!」
欠陥のある俺が考えられるくらいだ。このくらいの内容は誰でも考えられるはずだ。
分別がある人は口にはしないだろうが、考えるのが当然だとすら言える。
欠陥があるから見えているのかもしれないが、だとしてもこれくらいは考えてもおかしくない。
「そうなんだね……」
カナさんドン引きし過ぎて、相槌しか打ってないって。
一方的な物言いは会話じゃないんだ。
相手を理解する事にはつながらない。
「シロはそれでも優しいんだ。自由が好きなんだ」
俺は自由が好きだぞ。だからこそ俺を縛るな。
っておい。なんでカナさんに抱きかかえられているんだ。
人って温かいな……。緊張状態の筋肉が解れていく気がする……。
「自由ですか?」
自由は自由だ。自分で自分の事をやる事が出来る自由。
俺が1番欲している自由は先に進む道を選べる自由だ。
どこまで先に進めるのかを知りたい。
「自分で未来を選べる権利が欲しいみたい感じかも?」
にしてもリクの奴。変な事ばかり言っている気がするな。
どっちにもいい顔をしようとしてぶれたな。
全くどう方向調整したらいいもんなんだか。
「神子様。神子様の中で神獣様をお創りになられたのはどちらの神子様ですか?」
心配そうな声を聞いて見上げればおっぱい。
下から見るとやはりおっぱいしか見えない。
ユエさんだ。このおっぱいはユエさんだ。
「どちらが私の仕えるべき神子様なのでしょう?」
そもそも論としてどこまで俺なのか、どこからリク君なのかが判別つかないんだ。
極論、リク君は俺の人格の1つだとしてもおかしくない。
だとしたら全てが俺だと言えてしまう。
「ニーナ達を創ったのはシロだよ」
ゴールデンレトリバーとかはこの世界でまだ見たことがない。
イメージに関しては俺が考えたのは間違いがないが、それを創り上げたのはリク君かもしれない。
疑いが止まらない。
「それではシロ様に仕えればいいのでしょうか?」
ユエさんは腰を落とし、リク君に目線を合わせていた。
その表情は困惑に彩られ、茶色の瞳はひどく不安そうに揺れていた。
寄りかかられるニーナの迷惑そうな表情がユエさんの背後に見えるが無視しよう。
「僕はユエさんが何に仕えているのかを知らない」
あー。確かに。魔力の多寡で判断しているのだとしたら、体に仕えれば間違いないだろう。
つまり体の持ち主のリク君に仕えれば問題がない。
魔力を増やしたのは誰かと言われたら、俺かもしれない。
「土の神様です。そして1等級を超えた遥か高みにいらっしゃる神子様にも仕えたく存じます」
教会は魔力量がものを言う世界なのかもしれない。
その人格よりも魔力で判断するのだとしたら魔力の持ち主に仕えるのが筋だろう。
という事でリク君。君が神子だ! 俺は関係ない!
「……。魔力量で判断するのならリクに仕えるのが筋だろうってシロが言ってた」
なんかすごい不機嫌そうな口調じゃないか。
押し付けられたのが気に食わないっていう雰囲気だな。
だがしかし実際この体はお前のモノだ。
「神子様、シロ様は今後どうなさるんですか?」
ゴーレム化したらまずは諸般の手続きとか必要になるだろうし、まずそれを終えたい。
それが終わって後腐れがなくなったらどこか旅でもしてみたいな。
世界を見るだけでも楽しそうだ。ゴーレムになればそう簡単に死なないだろうしな。
「色々終わったら旅がしたいんだって」
色々っていうとすごい含みを感じるのは俺だけか?
なんか復讐に燃えるヤツが言いそうだ。
ちゃんと騒ぎにならないための手続きをしてから出ていくって言ってくれよ。
「ここから離れるんですか?!」
人の温もりは気持ちがいいけれど、警戒心が治まらないから一緒にいるのは厳しい。
見ている分にはいいけれど、近くにいると不安になる。
物語は他人事だから楽しめる。我が身に降りかかれば心労が堪えないっていうもんだ。
「決意は固そうです……」
ユエ
26歳
役職:土の教会、支部長(謹慎中)
属性:土
魔力:2等級
髪色:黒
虹彩:茶
盲信系お姉様。土の属性で長らく最も魔力が高かった。教会の箱入り娘。権力高め。戦闘力高め。胸部戦闘力も高め。魔法と戦闘力の訓練ばかりしていて、他人とのコミュニケーションを、特に対等の関係の相手とのコミュニケーションが足りていない。土属性の英雄に仕える事を前提に教会では育てられていた。カナさんからリク君よりも手がかかる子供と思われている。謹慎中とはいえ、カナさんにとって本来は所属の雲の上の上司だから物言いがしづらいのが難点。






