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149、あだ名

「リク君。お前は何がしたいんだい?」


 マル先輩の口元は笑っているけれど、その紫色の瞳は真剣な色を帯びていた。

 この言葉の含意は何だろうか? わからない。不透明だ。

 依存対象を変えるための言葉に思えてしまう。


「僕は今のままがいいです」


 それは拒否する。断固拒否する。


「ダメだな。その回答はよくない」


 マル先輩の紫の瞳が笑った。

 苦笑の色合いが多分に含まれている笑みだ。

 小さい子の悪戯を寛容に受け入れる大人の笑みと言えばいいだろうか?


「それでお前の友達は良くないって言っているんだろ? その状態をムリに続けたらどちらかが壊れてしまうぜ?」


 リク君の顔が剥れていくのを感じる。やはりリク君は俺ではありえない程に真っ当な子供なんだな。

 昔の俺は無感情に機械的だったはずだ。気味の悪い子供と捉えるか、頭がいい子供と捉えるかは微妙な判定だろう。

 近くにいる程気味が悪いと感じたはずだ。そして傍目から見ると頭がいい子供と捉えられる。こんな欠けている奴が頭がいいわけないのに。


「やだ……壊れちゃヤダ」


 リク君だけなら問題なく過ごせる世界でも、俺という異常がいたら日常は狂う。

 日常にしようと俺が考えるほどに世界は崩れていく。考えない事は俺にはできないのだ。

 だから日常にするためには俺という異常を追い出すか壊すかしないといけない。


「リク君、俺はお前の友達やお前のためにも解放した方がいいと思う」


 俺が関わらずに生きていればお前はもっと普通に、そして幸せに過ごせた事だろう。

 普通の子供であれば頭がいいお前の事だ。友達もたくさん出来ていた事だろう。

 両親の伝手もあり、体術や魔法の技術に関しても一流としてエリート街道を走れたはずだ。


「俺は今の状態は良くないと思うな」


 過去形にするのはまだ早いな。まだ3歳の子供なんだ。

 前世の俺の様に道が閉ざされていない。

 今なら前に進める。エリート街道を歩き、自分の能力の限界を試せる。


「……やだよ、つらいよ」


 それは依存だ。破滅につながる依存なんだ。


「リク君。お前の友達の名前って何って言うんだ?」

「え」


 ボロが出ても困るし、前世でも証明書に書くくらいにしか名前なんて使ってなかったな。


「リク君? もしかして友達に名前はないのか?」


 名のない化け物って物語では定番だな。


「リク君? 大丈夫か?」


 俺に名前なんて必要はないだろう?


「……僕は知らないです」


 子供って名前を知らなくても友達になれるって聞くし、別に問題ないな。


「まぁ、いいんじゃないか?」


 怪訝な顔を一気に笑顔に変えて、マル先輩はリク君の頭を撫でた。

 不安に顔を歪めていたリク君は少し泣きそうになりながらその手に撫でられていた。

 俺の名前を知らなかっただけでそんなに不安になるのか。


「名前がないなら名前を付けたらどうだ? 他に名前があったとしてもあだ名ならつけても問題ないだろ?」


 名前なんて別にいらない。

 名前なんてあると思い出しやすくなるだろ。

 俺には必要がないんだ。


「シロ」


 は?


「ふーん?」


 何がだよ。もしかしてそれがあだ名のつもりか?


「シロは絶対シロっていうのを嫌がるから」


 嫌がらせか!


「リク君、意外と黒いんだな」


 マル先輩も何を笑っているんだ!


「シロって自分は人じゃないとか、悪魔だとか黒だと言い続けているけど、どうみても白なんだ。自分は正しくないと言い続けて、自分を否定して自虐的に振舞って、血反吐を吐きながら前に進もうとする面倒な人なんだ」


 いや、実際俺は間違っているだろう?

 間違っていなければこんな状況に陥っていないはずだ。

 頭が悪いから、要領が悪いから、配分を間違えて人付き合いも上手く出来ないんだろう。


「シロは絶対自分を否定する。シロは自分が劣っていると認識しているから」


 実際に劣っているんだ。

 でなければ俺はもっといい人生を送っているはずだ。

 俺はそもそも特技としていえる程のモノを持っていない。


「僕はそんなシロを見ているのが好きなんだ」


 コイツ、いい性格していやがる。


「シロは誰にも頼ろうとはしない。だから僕がシロに手を伸ばすと避ける様に行動してしまう。自分の事を否定しているから僕を信じられない。シロが近寄った瞬間に手を伸ばさないと捕まえられないの」


 それはネコの間違えじゃないか? どう考えても人ではないな。


「それで?」


 マル先輩はこの不思議な話を聞いて何考えているんだ!


「シロって色々考えるんだ。たいてい割かしどうでもいい事だけど、前に進みたいっていうのは見えるんだ」


 じゃあ、進ませてくれよ。


「なら解放するのがいいんじゃないか?」


「やだ。僕はシロを見ていたいんだ。ずっと」


 え。なんでサイコパスになっているんだ!

 リク君がサイコパスになっている! まさか子供の無垢な好奇心が残酷な行為を引き起こすというアレか!

 リク君が俺の最後の敵となるのか?


 転生した身体と転生後に作ったゴーレムの身体。

 敵対するは自分自身をよく知る過去の同居人。

 なるほど。物語としては面白いかもしれない。


 だがそれは物語としては面白いかもしれないだけだ。

 俺とリク君、どちらが主人公属性が強いか考えてみろ! リク君に決まっているだろ!

 リク君が勝つに決まっている! たまったもんじゃない!


「はいはい。やっぱしダメだな。あー、シロ君かな? 彼と話は出来るか?」


「出来るぞ」


 存在がばれているなら隠れる必要などない。

 その存在が転生者だと認識されていないのが重要だ。

 多重人格とかイマジナリーフレンドと思われているなら何も問題ない。


「おっと。ビックリ。まさか話が出来るとはね?」


 マル先輩は俺を見て驚いているように見えた。

 本当に驚いているのは定かではない。

 どこか道化の雰囲気を感じる。演技の気がしてならない。


「俺と何か話がしたいのかい?」


 マル先輩の本心はどこにあるのか。

 俺としてはマル先輩はリク君を配下に加えたいと考えているに1票。

 依存先のすり替えは自立した存在を依存させるよりも簡単だからな。


「シロ君。リク君との初対面の時、君じゃなかった?」


 ……どこから俺でどこからリク君だったかが判断着かない場合どう応えたらいいだろうか?


「多分だが俺だと思う。何故そう思った?」


 あの時はまだリク君の存在を疑いもしていなかった。

 もしかしていなかったかもしれない。

 いや、いたか。時折勝手に身体が動いていた気がする。


「表情が全然違うからな。今の顔を鏡で見てみるか? あの時と同じ嘘っぽい笑顔が張り付いてるんだよ」


 あー、確かに。俺は表情を作るのが苦手なんだよな。

 対人経験が少なすぎて、事務的な会話なら笑顔はそんなに必要ないし。

 声を明るくはともかく、笑いましょうとかは今の俺にはムリだな。練習不足だ。


「そっか。なるほど。それで俺と何を話したいんだ?」


 俺が前面に出ているとリク君の存在が見えない。

 俺が一方的に覗かれる関係。これが一番癇に障る。

 何を考えているか全くわからないんだから。


「シロ君。君はその体の外に出たいという事で間違いないか?」


 マル先輩は俺の顔を真剣な表情で見ていた。

 彼はいったいどこまで見えていて考えているのかはわからない。

 だが彼にとって俺がリク君の中にいるのは面倒だろう。


「間違いない」


 二重人格、多重人格は指示を出す側からしたら非常に面倒だ。

 一方に飴を与えたらもう一方が不貞腐れる可能性だとか、動きの想定とかが非常に難しい。

 その体が下手に高性能だとなおさら都合が悪い。俺の様に魔力が多いとかな。


「なら俺が時と場所を提供しよう。多少事情を知っている俺から要請すればシロ君が予定していたよりも早く都合がつけられるはずだ。何日後からがいい?」


 その提案は俺にとって非常に好都合なモノだった。


「1週間欲しい」


 罠かもしれない。予定している魔法を伝えたのだ。

 処置のために人員の配置を整える時間や心構えが出来てしまうのだ。

 リク君の目の前で処理するのは潜在的な敵を作る事になるのでありえないだろう。


 いや、魔力を使い切ったところを処理する可能性がある。


 だとしても。


 だとしても俺は自由に生きたい。







ネネ

0歳(???歳)

役職:リクのゴーレム

属性:無

魔力:容量は1等級、産生能力はなし

モデル:ハチドリ

体高:0.1m


リクの作った生物型ゴーレム。中身の魔力は子供のうちに死んだ。死んだ事に気づかずしばらく泣き崩れる家族の周囲を漂って呼びかけていたが、気づいてもらう事が出来ず泣いて過ごしていた。世界を魔力として飛び回り、リクのゴーレムとしてここに受肉した。1人称がネネになるのは自分はネネなんだと自分に言い聞かせる意味合いが強い。普段胸元にいるのも世界を飛び回っていた時は人の体温を感じる事が出来ず悲しかったから。心音を聞く事で抱っこされていた頃の懐かしい感覚が蘇り落ち着くので静か。心音が速くなったり不規則になったりすると不安になって起きる。

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