148、マル先輩との話し合い
「え、えっと」
俺の存在を明かせばなし崩しに処刑かもな。
この世界で転生者は悪の可能性は高いのだから。
現地の言葉を覚えてしまった転生者なんて隔離か処刑以外の道なんてないぞ。
「なんだ? 落ち着いて話していいぞ? お漏らしでもしちまったか?」
「違うよーっ!」
恥ずかしさを感じるジョークをかます事でどもる状態を解消させるテクか。
実際この年齢の子供ならお漏らしをしてもおかしくない。
そして精神年齢が高めなリク君はそういうのをするのが恥ずかしいと考えているだろうからなおさら効くだろう。
「大丈夫、大丈夫。3歳ならそういうのは何もおかしくないからな」
リクの頭をポンポンと叩き、マル先輩はリクに笑いかけた。
わざと分かってないと思わせるテクだろうか?
リク君の頬はぷくーっと膨れているのが感じられる。
「だから僕は漏らしてないよ!」
リク君。ビークール。冷静になれ。
それは思考を濁らして真相を漏らさせる罠だ。
そうだ。リラちゃんの話でもしたらどうだ?
「うんうん、そっかそっか。でどこだ?」
「だから違うってば! 僕のズボンは濡れてないでしょ!」
おーい。リク君聞こえているかー?
そういう時は「ぼ……僕はリラちゃんの事が気になってて……」とか言うといいぞー。
俺はしたことないけど。
「素人は黙っとれ」
「えっ?」
「あ……あはは! 何でもないですよっ! マル先輩!」
まさかそのネタを使ってくるとは……。恐ろしい子!
「そっか? それで実際何で唸ってたんだ? 誰かと話していた気もするな」
「……マル先輩は見えない友達って知っていますか?」
おい。それはやばいだろ。それは近すぎるはずだ。
転生者をすごい疑うワードだろ。危険だ。
触れるな。不味いぞ。
「小さい子の中には見える子がいるっていうヤツか。もしかしてか?」
マル先輩も知っているのか。イマジナリーフレンド。
具体名を出してないからセーフなのか?
セーフ? いやアウト? 難しいラインだ。
「はい。僕の中にはその人がいます」
アウトだ! アウトだ!
それを話してどうするんだ?
何も解決などしない!
「ほぅ。そうか」
マル先輩のこの表情、すんなり受け入れ過ぎて怖いな。
これは否定しない事で相手の信用度を上げるテクか?
それとも本当なら本当でいいし、嘘なら嘘で容赦をしなくてもいいという覚悟なのか?
「僕の友達はとても不安症で怖がりで、それでいてとてもめんどくさいです」
お? 言ったな? めんどくさいって言ったな?
OK。分かっているとも。俺は非常にめんどくさいヤツだ。
だからさっさと外に出なければいけないんだ。
「その不安症の友達と話していたのか?」
マル先輩の物分かりが良過ぎて怖い。
何? この人年齢間違えてない? 8歳だよね?
年不相応の精神年齢だと思うんだけど? 何者? あ、特別クラスか。
「僕ってゴーレムを作れるでしょ? あれで体を作れって彼は言うんだ」
リク……。お前もしかして転生者ではないよとさせるために?
いや、イマジナリーフレンドが転生者ではないという話はない。
それにもしかすると精神年齢の高さからして、転生者の魂が下敷きになってこの世界の人は出来ている可能性だってある。
「なるほど。別に作ってもいいんじゃないか?」
マル先輩! 貴方は俺の救世主だ!
そうだぞ! 俺はゴーレムになって世界を旅するんだ!
俺は自由に過ごしたいだけなんだ!
「僕は嫌なんです。彼はきっとふらふらとどこかに行ってしまうから」
別にそれでいいんじゃないか。
なんだ? 寂しいのか? 俺がいないと寂しいって?
それはきっと俺の願望だろ? 誰かに必要とされたいっていうさ。
そんなものに縛られなくていいから。
「リク君、お前な。そんなの別に誰でも同じだろ?」
そうだぞ! 誰しもが孤独に生まれるんだ!
リク君が感じているのは、それはただの依存だ!
離れたくないっていうのは結局ずっと持っていた玩具から離れられないっていうのと同じなんだ!
「マル先輩も彼のゴーレム化に賛成なんですね……」
依存は良くない! バランスが崩れるから!
それに頼らなくては歩けないっていうのは弱点になるんだ!
いつだって代替品を用意できるようにするのがベストだ!
「いつまでも彼にしがみつくつもりかい?」
マル先輩は俺の存在に気づいてないよな?
もしかして俺の声は様々なところに流れている?
いや、まさか! だとしたらもっと事態は大事になっているだろうな。
「先輩……」
いや、イマジナリーフレンドに関してある程度知識があるのか?
特別クラスの学生だもんな。しかもたいてい図書館にこもっている。
周囲の子供を統括すると考えたら、イマジナリーフレンドを持っているような子供とも接している可能性が高いだろう。
「リク君。君は俺の友達だろ?」
うわ。嫌らしい。これってつまりあれだろ?
俺は友達アピールで、依存対象をすり替える行為じゃないか。
マル先輩を通して友達付き合いを増やす様になったらもうお終いじゃないか。
「マル先輩……。僕はその言葉の真意が分かりません」
あ、外野は気にせずそのままお話続けてどーぞ。
このまま話が進んでくれたら俺は自由になれそうなんで。
あー、思考駄々洩れ厳しいわー。
「そのまんまだろ。俺はリク君の事を友達だと思っているんだ」
友達って何なんだろうねー。
あぁ、こういう考えをすると友達いなくなるから注意ね。
こんなややこしい事考えているヤツめんどくさいもん。
「僕はまだマル先輩の事が分かりません」
そんなもん分からなくていいんだけどね。
友達って一から十まで全部知らなくちゃいけないの?
そんなん夫婦でもなかなか出来ないのに。
「俺だってリク君の事全然わかんないさ。でもこれから知ればいいだろ?」
なんかすごい恋愛ゲームを見ているみたいなんだけど、俺どう反応したらいい?
この調子でいくとリク君が美味しく頂かれそうだわ。
なんだ? 俺の頭沸騰しているのか?
「マル先輩、なんかおかしな雰囲気になってます」
外野は無視してそのまま続けてくださーい。
あぁ、ダメだわ。頭がやけっぱちになっているわ。
はいはい。俺。落ち着け。モチつけ。ぺったんぺったん。
「……。ふ。お前ってそういう顔をするんだな」
顔をくしゃくしゃにしたマル先輩の瞳には、どこかむすっとしたリク君の表情が映っていた。
あー。見事に膨れているなー。俺もからかい過ぎたわ。
とりあえず機嫌を直してヒヤシンス。
「むぅーっ!」
あー、楽しい。好き勝手に弄って、反応を見るのすごい楽しい。
まぁ、もうするつもりはないけど。
こういうのってやけっぱちにでもなんないとやる気が起きないし。
「あー、はいはい。怒るなって」
リク君は腕組んでプンプンとそっぽを向いた。
こういうのをしているのを見るというか感じると、俺じゃないなって感覚になる。
こういう行動をあざといとか思って批判的になってしまうから。
「ま、とりあえず彼に関してはゴーレム化してもいいだろ」
援護射撃ありがとうございます!
今の状態だと意固地になってなんかしでかすと思うから怖い。
依存だと認識できない段階でダメだ。
「やだっ! 僕は絶対認めないんだから!」
あ。追い詰め過ぎた。
サク
21歳
役職:技術部、研究員
属性:土
魔力:3等級
髪色:白
虹彩:赤
ミラ先生の旦那さん。おっとりした細身のお兄さん。けっこう天然の入ったドジ。濡れた床を気づかず歩くとたいてい転ぶ。ドジな事を自覚しているから普段注意している。重い荷物を抱えていたり、バランスに気をつかうものを運んでいる時とか、周囲に気が払いきれず足元が疎かになりがち。ミラ先生と知り合った理由も廊下の角でぶつかり資料を落としてしまったから。気が付くとミラ先生にとって要注意人物になり、ドジをしなければ優秀な研究員なので好かれた。告白はミラ先生から。プロポーズはサクさんから。






