147、ここは図書館です。静かにしましょう。
「君はゴーレムになってどうするの?」
ゴーレムになってしたい事か?
そんなモノは特にないさ。俺は自由になりたいんだ。
何かに頼る必要もない自由な身になればどれ程気が楽になる事だろうか。
今の状態ではいつ殺されるかわかったもんじゃない。
殺されない保証はどこにもない。今の状態はこの世界ではイレギュラーなのだから。
隠さなければいけない俺をなくしたいんだ。
あと3歳児の身体ではとっさの行動が難しい。
ゴーレムになれば身体能力は上がり、簡単には死ななくなるだろう。
ゴーレムになれば隠す必要もないんだ。
「ゴーレムになったら現状の庇護はなくなっちゃうよ?」
確かに政府関係者やミラ先生達との関係は0になるだろう。
庇護していた理由が両親にあるとしたらなおさらだ。
転生者が存在してはいけない者だとしたらゴーレムになったらなったで狙われる可能性が高い。
だがそれがどうしたというのだろう。そんな事は覚悟している。
むしろ自分の力で生きられるようになれば今よりも安心して生きていく事が出来る。
誰も信じられない? そんなのは今更の話だからな。
例え世界に狙われる存在になったとしても何も問題なんてない。
それはそれで対処の仕方がある。俺にとってそれは足を止める理由にならない。
それに現状は俺の精神衛生上良くない。
「君は頑固だね」
引けないところがあるだけだ。他人のモノを使うとかしたくないな。
俺は自分の認められる自分になる事以外の欲求がほとんどない。
それすらも失ったら俺は俺ではなくなる。
「見栄っ張り」
見栄があるから楽しいんだろ。
泥水をすすっても発見や成功があるから満足感がある。
泥水を怖がり家畜の如く怠惰を貪って何が楽しいんだ?
家畜は脂肪を蓄えていつか収穫される運命だ。
生かさず殺さず、ただその身から脂を絞り取られる。
そんな姿は前世でよく見ていた。前世の俺がそうだっただろう。
そのままでも確かに生きてはいるだろう。
けれど自由もない家畜だ。ただ生きるために働き、そしていつか死ぬ。
俺は嫌だ。そんな姿になどなりたくない。
「前世は前世でしょ?」
その通り。前世は前世だ。今世では関係ないだろう。
だが積んだ経験は俺のモノだ。あんな家畜にはなりたくない。
合わない職場だったからというのもあるかもしれないが、あそこでは俺は家畜だった。
どんなに生きても未来が見えない、いつ死ぬかも定かじゃない家畜だ。
俺はもう後悔したくない。
自由のない家畜にはなりたくない。
未来の閉ざされた家畜にはなりたくない。
上を目指せるなら可能性の追求がしたい。
俺が行けるところへ。俺の裁量で物事を動かせる世界へ。
力は何であれ持っていて損はない。それを活かすも殺すも自分次第だ。
それを活かせる場所に行くのも、連れて行ってもらうのも結局は自分次第だ。
「それはこの身体が必要なんじゃないの? 人間の世界で生きるなら」
それは1つの道だった。けれど今の俺はそちらの道を選ぶつもりはない。
そちらの道は君の道だ。俺は君の道を奪うつもりはない。
ゴーレムになればゴーレムとしての道が見えるだろう。
魔力を奪って生きていくかもしれない。
だとしたら魔物と戦うのが1番回収率が高そうだ。
ケンカを売ってくるヤツをぶん殴るのには躊躇しない。
あぁ、でも辺境に突っ込んでいくのは遠慮した方がいいか。
あれって人の家に突っ込んでいって殴られた! みたいなバカな話じゃないか。
どこに行くのが上手く魔力を回収できるだろうか?
「君って魔物にも気を遣うんだ」
当たり前だろ。殴りかかってくるのはどっちだ?
どっちがどっちを怖がっているんだよ。
話が通じない同士、互いが互いを脅威に思っているだけだろう。
殴りかかってきたヤツだけぶん殴ればいい。
どんだけおぞましい生態を持っていたとしても関わらない分には無害なんだよ。
人間が家畜を飼うのだって他種族目線からしたら奴隷産業と何が違うんだ?
同族だけを特別視すんなよ。他人は他人。生活様式は同じ人間ですら多種多様だ。
他種になったからってそれが人間の道徳で動くわけじゃないんだ。
自分の常識を振りかざして人を批判するなよ。
「君って甘いのか冷たいのかわからないよ」
冷たいんじゃないか? ただ俺の認識としてこの身体は君のモノだ。
俺は君のモノを間借りしている。これは非常に気分が悪い。
俺は俺以外の誰のモノでもない身体が欲しい。
「君はやっぱり善人だよ」
あのな。俺は自分に影響がなければ何が起きても気にしないヤツだ。
例え目の前で人が殺されたところで俺に影響がないなら何も思わないだろう。
周囲の人の目や伝聞を気にして出来る事をするが、それで動揺なんかしない。
いや、俺は自分が傷つけられたところでめんどくさいとしか思わないと思う。
痛みに怯む事があってもそれ以上もそれ以下もない。起きてしまった事はしょうがないから。
動揺したところで何も改善はしない。起こる前は動揺するかもしれないけど終われば大して深く思わないに違いない。
生きているからキレイに生きたいが、それ以上のモノではない。
ゲームのような感覚なのかもしれない。アチーブメントを獲得するのが目当てか。
ゲームのアバターが倒れたところで終わってしまったな、で終わる感覚に似ているだろう。
「やけっぱち。またやけっぱちになっている」
実際に俺はそういう感覚だ。
「そうだね。今の君はそういう気分だろう」
お前はいったい何が望みなんだ? 何で俺を引き留める?
こんなめんどくさいヤツを引き留めても疲れるだけだ。
お前は俺に何をさせたい?
「うーん、特にはないよ?」
俺の精神衛生のため出て行かせてもらう。
「僕は君の話を聞きたいな」
それはゴーレムになってからでも出来るだろう。
「絶対君はどっかに旅に出ちゃう」
なんだ? 寂しいのか?
話し相手に俺がいて欲しいって?
バカ言うな。クソの役にも立たないぞ。
こんな何もやり遂げた事がないクズの言葉なんて。
「出来なかったの間違いでしょ?」
あれこれ考えるのはいいが、結局成し遂げてないからな。
やろうと思っただけじゃ意味がないんだ。やり遂げなければ口だけなんだ。
だから俺が出来なかったのは間違いない。
「ほんとにやり遂げられていないの?」
短期的なモノはともかく、長期的なモノは全然だな。
短期目標を立てて終わらせるまではいいが、何かがあってやり切れていない。
やり切る努力が足りていないのだろう。終わらせようと思えば手段を選らばなければ終わらせられたはずだ。
「じゃあ、やり切ればいいんじゃないの?」
そうだな。やり切ろう。ゴーレム化を。
「むぅーっ!」
「? リク? そんなところで唸ってどうしたんだ?」
リク君の目を使って前を見ればマル先輩がいた。紫の瞳が訝しげにリク君を見ていた。
3歳児と比較すれば8歳くらいの男の子は十分に大きい。
上から覗き込むように見ていたマル先輩は腰を落とし、リク君と目線を合わせた。
「こんにちわ! マル先輩!」
「声が大きいぞ? 図書館では静かにな」
リク君の髪の毛をマル先輩の小さな手がわしゃわしゃとかき回した。
チャーミングな微笑みを浮かべてリク君の緊張を解こうとしていた。
マル先輩は話術を使った取り込みが好きなのかもしれない。
「はーい」
「そういうところは子供らしいんだな」
年端も行かない声で囁かれ、リク君は少し固まった。
リク君ってどう考えても子供らしい幼気さに欠けているもんな。
俺と話過ぎなんだよ。もっと同い年と過ごせ。
「それで何があったんだ? 誰と話していたんだ?」
騒ぎ過ぎたんだな。あぁ、俺の失策だ。
いくら1人になったからといって周囲に人が来る可能性のある場所で話過ぎた。
俺も意地になって言い返したり、煽ってしまったのが悪い。
久しぶりに裏表なく話せたからむき出しになってしまったんだな。
マル
8歳
役職:学園少等部学生
属性:木
魔力:2等級
髪色:緑
虹彩:紫
サラ王女の配下。将来的にはきっとナンパな軍師さんになりそうな少年。堅物なカクをからかって遊ぶのが好き。サラ王女やカクとよく一緒に過ごしているためか、女受けのいい立ち居振る舞いがこの年齢にして既に慣れてきている。下の子をまとめ上げるためにアニキ的な振る舞いを良くしている。上下の主張を丸くまとめたり、小さいな子の相談にもよく乗る。






