145、決別へ
俺は本来の持ち主に体を返したいのであって、俺の別の人格に渡したいわけじゃない。
だからどうでもいい理由なんてあるわけがない。
それをどうでもいいにしたら俺はこれ以上に俺を認められなくなる。
俺は人のモノを間借りしている俺が嫌だからこの体を離れる事に決めたのだ。
俺は俺が認められないから出ていくのであって、そこに誰かの意思は介在する事はない。
だから君が俺のサブ人格じゃなくても、出ていくのは確定だ。
「意志が固いのは分かっているよ」
なら気にするな。
俺は誰が何と言おうとここから出ていく。
もう方法の目処も立った。これで終了だ。
あぁ、もう思考がまとまらない。
俺は俺の人格にこの身体を譲り渡したくない。
だが今話している相手がどっちかわからない。
「なら」
だが俺はここから出るのは確定だ。
できれば俺の人格も取り出して完全に現地だけにしたい。
できないのだろうか? きっと出来るだろう。そう、魔法ならね。
「なんで」
魔法は信じるモノだろう?
出来ないと思ったら肉体だって出来ない前提で身体を動かすんだ。
肉体が出来るんだ。魔法が出来ないわけがないじゃないか。
「僕は」
俺はただ頼られるのは嫌いだ。
自分の足で立てないのが嫌いだ。
俺の足は何のためにあるんだ?
歩き先へと向かうためだ。
「そこまで」
もう後悔なんてしたくない。
ただ立ち止まるのは心が痛い。
空を真っ直ぐに見上げられる自信がない現在が嫌だ。
「……」
生物は空を目指す。人はロケットを作り宇宙に手を伸ばした。
生物はきっと星の遺伝子だ。様々な環境で適応できるように進化を続ける。
例え星が滅んでも宇宙に散らばった星の遺伝子がその星の記憶になる。
また混線した。俺はただ上を目指したいんだ。
どこまで行けるのかを知りたいんだ。
何もできない俺が嫌なんだ。1人では出来る事なんて限られている。
「人じゃなきゃ」
だがそれは誰かの自由を奪ってまでする事ではない。
俺の人生が俺のモノであるように、君の人生は君のモノなのだ。
人でなければ出来ないとしても、他人のモノを奪うのは癪に障る。
「癪」
俺は生き方を制限された。飛び出したが何にもなれなかった。
後悔も大きい。だから人にそれを押し付けるのは絶対に嫌だ。
俺は俺と同じように何にもなれない人を作るのは嫌だ。
自分の人生は自分の足で歩け。
意志もなく、ただ誰かの言う事を従って生きるなんて嫌だ。
一々コマンドを入力しなければいけない古い機械か?
人の敷いたレールを進むのは簡単だろう。
だがそれで満足できるのか? 苦労もなく歩いて達成感はあるのか?
俺は嫌だ。つまらない。遊びがない。楽しくない。満足できない。
知らない道を歩き、彷徨い、知らない世界を見る。それはとても楽しい。
物語だってそうだ。知らない世界を知るのは楽しいし、知らない展開を見るのは面白い。
そこに知る喜びがあるのだから。
もちろん知っている道だって歩いてみたくなる時はある。
疲れる時はそんな苦労して進みたくない。楽だってしたいんだから。
テンプレの爽快展開だっていいものだ。
混線が酷い。とにかく俺は前に進みたい。
俺は他人の身体を使うのが嫌だ。それは相手の人生を奪う事だからな。
俺が1番嫌な他人の人生を奪う行為そのものだ。
「ごめんなさい」
なんで君が謝るんだ。俺が悪いだろう。勝手に入ったのは俺なんだから。
存在に気付かなければ俺はこのまま過ごしていたのは間違いない。
酷いのは俺なのだ。悪いのは俺なんだ。それを正すべきなんだ。
俺はゴーレムになりこの身体から出て行く。
そのために今は十分な魔力が必要だ。
すぐに出て行くから気にしないでくれ。
「いやだ」
俺も嫌だ。
「出て行ってほしくない」
何でだ? 俺は根暗だろう? しかも自己中だ。羊の傍に狼はいらない。いられない。
狂った人格はいるだけ迷惑だ。影響されれば君も狂うぞ。そして人と過ごせなくなる。
俺を見てみろ。人といるだけでこんなにもズレていく。君が危険なんだ。
「狂っていないよ」
少なくとも今の俺は誰かを信じる事ができない。
俺に慣れすぎると人を信じられなくなるぞ。
もし俺に共感を覚えているなら止めておけ。
それは対人経験が少ないから起きている錯覚に過ぎない。
俺の拭え切れない不信感は異常だ。異常なんだ。
君の年で俺と同じ不信感を抱き続けたら友達なんてできない。
俺はおかしいから少しでも正常に近づこうとした。
ただだからといって俺の本質は変わらず異常なんだ。
君は人間でいてくれ。頼むから異常に落ちないでくれ。
「正常だよ」
異常だ。君は俺の思考ばかり見ていたからそう思うんだ。
俺だって自分が正常でありたいと思っている。
だから自分に対して出来るだけ筋が真っ直ぐになるように思考させているんだ。
それを正常だと思うな。異常者が考えている正常な考えなんて何かしらズレているんだ。
いや、もっと言えば人は育った環境で培われた常識でモノを見ているんだ。
偏見がないという人は須らく嘘だ。誰かの思考だけでモノを考えてはいけないんだ。
もう混線が激しい。とにかく俺と一緒にいてはいけない。
俺は君が人間であってほしいんだ。人の道を歩んでほしい。
俺はとにかく君の身体から出て行く。
「僕は嫌だ!」
そうか。だがそれは俺が嫌だ。
君のためにならないし、俺のためにもならない。
そこまで嫌がるのには何か理由があるのか?
「僕はあなたがいなくちゃ」
ダメだ。それは依存だ。誰も得をしない。
君は外を見るべきだ。ルイ君とかリラちゃんとかいい友達になるはずだ。
少なくとも俺と一緒にいるよりも人間らしく生きられる。
「でも」
依存は危険だ。それにばかり頼りきりになって、イレギュラーへの対応能力が鈍くなる。
何でもそれで解決するようになってしまうと選択肢で1番目にそれがきてしまう。
君のその感情は俺への依存だ。よくない。
「なんで」
君が悪い方向へと流れようとするからだ。
俺は悪いしおかしい危険なヤツなんだ。
俺は善人ではないんだ。
「善人だよ」
打算的に悪事をしでかさないだけだ。
悪事をしてまでしたい事がないとも言えるな。
人の情というのに俺は欠けているだろう。
「もう」
俺は人を見てこういう関係にあるんじゃないか? と予想しているだろう。
あれにしたところで人に興味を持つフリになるんじゃないか? という打算に満ちている。
根本的に人への興味が俺には足りない。
「だから」
俺は自分を人間だと思えた事がない。
「じゃあ、なんで僕にここまで」
俺は自分の認められない事をしたくないんだ。
これ以上俺は自分を否定したくない。
俺は俺という存在をどこかで認めたいんだ。
自己肯定感は重要だ。それは自信につながる。
行動に躊躇いをなくす事が出来る。
後悔をしないように出来る。
俺は自分のために全部行動しているんだ。
こんな自己中を引き留めるんじゃない。時間の無駄だぞ。
俺がいなくなるだけの話だ。気にするんじゃない。
「やだよ……やだよ!」
ここまで言葉は尽くしたんだ。
後は自分で考えな。今は感情の納まりがつかないだけだ。
冷静になれ。こんな自己中野郎はいらないはずだ。
「寂しいよ……」
そっか。普通の人は自分の内側に自分以外の人なんていないんだ。
君は俺に依存しているだけだ。イマジナリーフレンドだと思え。
本当は存在していないんだとな。
俺の別人格だとしたらこんな寂しがり屋になるとは思えないな。
もしかしたら君は現地リク君かもしれない。
そうだとしたら嬉しい。俺は本来の持ち主に身体を返す事が出来るんだから。
俺はゴーレムになるんだ。
リラ
3歳
役職:学園少等部学生
属性:水
魔力:3等級
髪色:ダークブラウン
虹彩:白
鬼ごっこの際に知り合った女の子。天然ちゃんか不思議ちゃんの気配が濃厚。母親がリク君のお母さん、エリさんに助けられてファンになる。そしてその薫陶を受けて『万魔のエリ』のファンになった女の子。パーソナルスペースを曖昧にする能力者、もとい気づくと傍にいるタイプ。座敷童とか遊んでいると気づいたら1人増えていて誰だ誰だとなるようなタイプ。なお本人も一緒になって誰だ誰だをする。人の懐に入りやすく感受性も高い。
もしこの子気になるとかありましたら是非感想とかで言ってください。参考にさせていただきます。






