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141、夢と

「A君が君と食べるの嫌なんだって。あまり噛まないで食べるから美味しく食べられないって言ってたよ」


 懐かしい夢を見ているな。幼稚園の頃の夢か。

 当時、親同士が仲良かった子とよく遊んでいた。

 この言葉はある時言われた。


 当時の俺は人と遊ぶ事に躊躇する事がなかった。

 むしろ率先して遊び、人を引っ張っていたと思う。

 だがこの言葉がきっかけで覚めた。


 人は言わないだけで悪く思う事があるという事を。

 俺は自分が仲がいいと思っていただけで迷惑に思われていたかもしれないと。

 そして陰口を叩かれて、こうやって又聞きするんだなと。


 俺は相手が嫌がるような事をしたつもりはなかった。

 そもそも俺はいたずらをするようなタイプでもなかったし、そう悪口を言われると思っていなかった。

 だからその言葉は晴天の霹靂だった。


 親は食事のマナーに厳しい人でもあった。

 だからその言葉は方便だったかもしれない。

 ただどちらにしろ信じたくなかった。


 思えばそこから俺は人から離れるようになったと思う。

 半歩引いて、他人に迷惑をかけない生き方をと思い始めたのではないだろうか?

 引けば引くほどずれている事を自覚する羽目になったが。


 きっと俺自身が俺は嫌なのだろう。

 理想の姿をいくら思い浮かべてもなれないもどかしさがある。

 成れるものならルイ君の様になりたい。


 思考に縛られ、先を気にし過ぎ、最善をと考えた結果最悪を引く。

 これは出来ないからあれをしようと諦め、自分の楽な道に流れようとする。

 ルイ君の様に天真爛漫にはなれない? 現地の人の様になれない?

 なんでだ? 俺だから? 俺だから出来ないなんて言い訳がどうして出来る?


 能力が足りない? お前は幼児にも劣る能力なのか?

 状況が悪い? その状況は振る舞いのどこに影響される? 影響されないだろう?

 恥ずかしい? ルイ君の振る舞いのどこが恥ずかしい? 今のお前は同い年だろう? 憧れすら覚えているというのに何故それを恥ずかしがる?


 結局は俺が楽でいようとしているのが悪いのだ。

 現状は悪い。怪しまれる原因を多々作ってしまった。

 だからこそゴーレムに俺を移して自由に活動できるようにしなくてはいけない。


 あの時も結局家を出なければもっと腐っていただろう。

 就職を決める判断が遅すぎて手遅れを増やしていた。

 今回は後悔したくない。早いうちに体を自由にしよう。


 人生は一度きり。今回はやり直せたが次があるとは思うな。

 後悔は前世だけで十分だ。前を向いて歩くのだ。全ては自分の責任だ。

 下を向いて毒を吐いても、上見てため息ついてもしょうがない。


 結局前世はやらない後悔、やれない後悔をしたのだ。

 今世はやって前に進まなければいけない。やりきれない後悔は後に引く。

 ゴーレムとなれば全てから自由になれると信じてやるしかない。


「ニーナ。魂……魂の器を作ろうと思うんだ」


 朝食の後、周囲から人が離れた事を確認し俺はニーナの耳元で囁いた。

 ニーナの体が明らかに硬直する。禁忌に触れる可能性がある事を伝えたのだ。

 そういう反応をされるのは想定していた。


「俺はこの体にいてきっといい事はないと思う。

 だからゴーレムの体に移ろうと考えているんだ」


 ニーナの首に背中を預けて呟く。背中に感じるニーナの体はほんのり温かい。

 ニーナがもし俺を殺そうと思えばすぐに殺すことができるだろう。

 ニーナが何を考えているのかなんて俺はわからない。


「この体に俺は間借りしているだけだ。

 だから本来の持ち主に返したいと思う」


 本来の持ち主に注がれるべき愛情が俺へと注がれる。この事への罪悪感がすごい。

 本来の持ち主がいるというなら俺は返すべきだと思った。

 何より俺がこの体を使っていても最適を引く事ができないだろう。


「自分の体を作る方法はゴーレムを作る時の要領でいいだろう。

 ニーナ達を見れば魂を入れる母体として適している事はわかる。

 ただこのままでは俺が入れるかわからない。

 俺がこの体から抜けた時、本来の持ち主が体を問題なく扱えるのだろうか?」


 ニーナは静かに聞いていた。体の硬直は解けていない。

 どんな心持ちで聞いているのだろう? わからない。

 これは否定なのだろうか? 困惑なのだろうか?


「魂の器はそもそも存在するのか?」


 根本的な条件を見直してみよう。ニーナ達の存在はどうなのだろうか?

 俺は器を作った覚えがない。だがいるのだ。ニーナ達には器がないのだろうか?

 ニーナの困惑が背中を通じて感じる。


「話が不意過ぎたかな」


 ニーナ視点で見ればたった1日しか経っていないし、何か事件が起きたわけでもない。

 誘拐事案も今回は発生していない。今回は発生していない。発生していないの枠でいいはずだ。

 小屋に入っただけなのだ。迎えが必要な案件には至ってない。問題ない。


 誘拐され過ぎか。王都に来てから何度ニーナの手を借りなければ帰れなくなっていたのだろう。

 小屋は気を払ってたが結局ついていった。一歩間違えれば誘拐案件だろう。

 自力で帰れない状況は忌避すべきものなのだ。


「大丈夫だ。問題ない」


 ニーナは静かに言った。気がつけば寄りかかっていた首の辺りの筋肉が和らいでいた。

 俺が想像し創造したとはいえ、いったいどこまで俺の設計図通りで、いったいどれほど魔力のおまかせになっているのだろう?

 ご都合はどこまで通っているのかわからない。


「それじゃ本題に戻すと俺はゴーレムになりたい。

 そして本来の持ち主にこの体を返したい」


 方策が立たないうちは出来なかった事だ。

 俺以外の魂が俺の中にあるという前提の話にはなる。

 だが可能性があるのだ。できるならやりたい。


「そりゃまた何でかな?」


 ニーナは首をぐいっと動かしその黒い大きな瞳に俺が映る様に体勢を変えた。

 その大きな瞳に反射して映る俺の姿はどうあがいても小さな子供でしかない。

 ニーナの瞳は俺を見通そうとする様に静かにじっと見つめていた。


「俺だとこの体を不幸にしてしまうだろう。

 少しだが俺は自分以外の意思をこの体に感じた。

 もしそれが本来の持ち主であるなら返さなければ気持ち悪い。

 生まれ変わる事ができた以上前世の未練を晴らしたいから死にたくはない。

 俺は心置きなく使える自分の体が欲しいんだ」


 ニーナは静かに俺を見つめ続けていた。

 ニーナの瞳に映る俺は表情が抜け落ちて見えた。

 真剣そうな表情に変えようと思ったが今更の話だった。


 きっと俺は本性を前面に出している時は演技ができないのだろう。

 まぁ、その演技も実践回数が少ないからどこまでも拙いものだろう。

 しないよりかはマシ、練習すれば上手くなる事を祈る。 


「魂の器が作りたいと不意に言われたから気でも狂ったかと思ったよ」


 気は元々狂っているだろう。一周回って正気に見えるだけだ。

 ニーナの瞳は少し安心したように細められた。

 俺は危険じゃないとでも思っているのだろうか?


「俺はいい人ではない。一般的に見て狂った人物のはずだ」


 人が素直に倫理的にいけないと判断する内容に対して、デメリットを考えて結果的に行動しない。

 これは同じやらないでも意味が違うのだ。条件さえ整えばやっても何も思わないといえるのだから。

 この思考を狂ったと言わずして何を狂ったというのだ。


「あー、そうだな。君はいい人ではないだろう。

 だが悪い事をしない理性がある。善意に満ち溢れたバカではない。

 大丈夫。君は自分が思うよりもちゃんとした人間だ」


 違う。欠けている。周囲の人の事すら気にも留められないのだ。

 人にメモを付けてお終いにする人でなしなのだ。

 相手の内心を推測しても、相手をいくら見ても、それは状態把握でしかないのだ。


「人間ではない。人と人の間にいるのが人間だ。俺がいるとしたら精々人の隣くらいだ。

 それも仲間として隣にいるのではないだろうな。モズの隣にカッコウがいるようなもんだ」


 カッコウの様に他人の親に我が子の様に育てさせている様は正しく托卵じゃないか。反吐が出る。

 早いうちにこの状態を脱しないと本来の持ち主が成長できない可能性がある。

 考えれば考える程この状態は嫌だな。







ミラ

21歳

役職:魔力制御の先生、大尉

属性:火

魔力:1等級

髪色:赤

虹彩色:赤


現役の英雄、キル達の上の世代の1人。魔力制御に関してキラさんの薫陶を受けた。ルイ君のお母さん。好奇心と見栄っ張りが同居しそれを規律で抑えつけているが、まだ予想外の事に対して動揺しやすい。リク君の騒動で心が鍛えられていくので、次第に動揺する事が少なくなるだろう。動揺しなければカッコいいミリタリー系騎士風お姉さん。



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