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140、魂の器

 甘い蜜を舌に乗せるとリンゴのような香りが鼻腔に薫る。

 舌の上に乗っかった蜜はどろりと重く強い甘みがあり、一瞬のうちに溶けて消えた。

 そういえば蜂蜜にはボツリヌス菌がいるため、1歳未満の赤ん坊だと腸が未成熟だから死につながる食中毒を起こす危険性があるんだったか。3歳を超えているから大丈夫だろう。


「すごい美味しいです!」


 糖分が頭に流れていく感じがする。少し頭の曇りが晴れたような感覚が面白い。

 頭が糖分を欲していたのだろう。頭か。魂に頭、脳はないよな。記憶が保存されるのは頭だけではないという事だろうか?

 そういえば臓器移植した時に稀にドナー元の習慣が体に宿るという。


 臓器には記憶を保存する能力があるのだろうか?

 ドナー元の習慣によりついた癖が臓器の運用に作用する? 味覚が変わるとかが?

 そこまで臓器1つの癖で大きく影響するだろうか?


 分からない。だがもし臓器に記憶を持った魂の一部がついておりそれが影響したとしたら?

 オカルト関係は創作物としては楽しんでいたが、見たいとは思ってもそれ以上はなかった。

 ただこの世界で俺が転生している以上魂の存在はあるはずだ。


「これはどう?」


 俺という存在は何なのだろうか? この記憶や意識を俺と言っているのだろうか?

 では魂とは記憶や意識の事なのだろうか? 前世での記憶や意識を俺の魂と言っていいのだろうか?

 記憶や意識が魂だというのなら、転生者ではない赤ん坊は魂を持っていないとでもいうのか? 言わないはずだ。


 魂は一概に記憶や意識だけをいうわけではないだろう。

 記憶や意識が刻み込まれるメモリーこそが魂だろうか?

 だとしたらこのメモリーは何でできるのだろう?


 最有力候補は魔力だ。ニーナ達は自身を魔力と言っていたのだから。

 だがメモリーの材質が魔力だとしたらそれを魔法として使っている現状は大丈夫なのだろうか?

 魔法を使えば使う程魂の容量が落ちるなどの障害はないだろうか?


「美味しい!」


 いや、待て。魂だとしてそれはもう知覚できていないだろうか?

 俺がハイハイしている頃から押し広げていた魔力の器だ。

 あれは魂ではないだろうか? あれが魂の器ではないだろうか?


 魂の器があれだとしたら俺がゴーレムに乗り移る場合あれを作らなければならないのだろう。

 どうやったら器が作れる? いや器はどういう構造だ?

 押し広げたりする事は出来た。だがその構造はまだわからない。


 器を構成しているモノはいったい何なんだ?

 器自体も魔力なのだろうか? いや、魔力なのだろう。

 魔力は万能だ。だから何でもできるに違いない。


「ハチミツを全部出してみたから食べ比べしてみよっか」


 魔力の放出孔から察するに厚みは大した事がない。

 壊そうと思えば壊せるけれど、普通にしていたら壊れない。

 拡張しようと思えば拡張できるが、何もしていないと拡張できない。


 やろうと思えば出来るが、やろうと思わなければできない。

 魔力は意思によって操作されている? これは魔法の結果?

 魔法は便利過ぎないだろうか? いや、便利でいいのだ。悪い事などない。


 超えられないと暗に思うと目標がそこになり辿り着かない。

 だが超えられる目標だと知ればその先を目標にして超える事ができる。

 それは100m走の世界記録で顕著になっていた。


 できないと初めから諦めているなら出来なくなってしまう。

 そこが到達点だと思っていたら、その道しかないと思っていたら、そこで道は途絶えてしまう。

 魔法はきっとその辺りが顕著だろう。出来ると思えば出来るのだ。


 初めにやるべき実験は魔力放出孔を埋める事だろう。

 この放出孔を器と同じ材質で埋める事が出来るなら、俺はゴーレムの中に自分用の器を作り上げる事が出来るだろう。

 まずは小さいところからやらなければ怖いからな。


 ……もし魔力放出孔に蓋が出来るなら、任意で開け閉めできるように出来たら隠れやすい?

 魔力量を外部からなんとなくの感覚だとしても察知できる人がいるのだ。

 魔力を放出していたらそこに俺がいる事を主張しているようなものじゃないか。


 思い返せば王都の外で出会った1等級の3人組は離れたところにいた俺の存在に気が付いた。

 かいつまんで聞いていた感じだと、魔法の波動の反射で異様な反応があったからだとも言っていた。

 この点から考えても、魔力は反射されたり、反射された魔力の存在を感じ取れたりする事がわかる。


 魔力は粒子なのだろうか? 粒子だから集めれば硬くなるし、ぶつければ跳ね返る?

 液体のようなモノを想像していたが、粒子と考えた方がいいか。いや水も水分子という粒子の塊だ。

 この世界は全て粒子で出来ているのだから魔力も例外とはならないのだろう。


 そう考えると魔力も配列を上手く作り替えたら水が氷になるように器へと変わるのだろうか?

 粒子としての魔力と全体としての魔力って単語が同じだと区別がつきにくいな。

 粒子としての魔力は魔力の素という意味で魔素とでも呼ぼうか。


 魔素の配列を整える事で、魔力というエネルギーではなく、魂の器というモノに作り替えられるとしよう。

 どうやって並び替える? 魔法でこれはできるのだろうか? 違う。してくれるのだろうか?

 神様にとって魂は作られたくないモノじゃないだろうか?


 魂の器を作るという事は神様にとって不都合が起きる可能性だってあるだろう。

 魔素を魂の器として作り替えれば流通する魔素の量が減るだろうし、魂の器を補完する事ができるのならそれは不死になり得る。

 魔素の流通量が減れば、新しく生まれる魂の素材が減り、循環が停滞する事になりかねないからな。


 もし魔素の循環を神様が管理しているとしたら許してはいけない事として魔法では出来ないモノになりかねない。

 魔法を自前で制御できれば問題ないのだが、魔力をどうやって事象へと変換しているのかがわからない。

 魔力はそのままではただのエネルギーでしかないのだから。


 物質としての構造を持たないエネルギーと考えると難しい。

 何かしら構造があると考えた方がいいだろう。

 原子みたいに原子核と原子殻を持つような感じなのだろうか? 電子みたいに単体で存在できるのだろうか?


 電子って考えてみればエネルギーだよな。マイナスの電荷を持った物質といえばいいか。

 実際移動するエネルギーは電子なのだからマイナスどころかプラスだろう。

 魔素も電子のようなエネルギーと捉えてみたらどうだろうか?


 いやそうなると不活状態の魔力はどういうモノになる?

 魔素を電子のようなエネルギーと捉えるならそれはどんな状態でもエネルギーではないだろうか?

 不活状態の魔力の存在が成り立たなくなるだろう。


 原子核みたいな存在があってそこにエネルギーとして貯まる?

 原子核みたいな存在とは? 何だ? 新しく概念が必要になるぞ。

 いや、待て。これは肉体を、生体を原子核みたいな存在と仮定すれば解決できる?


 生体を核に魔力を集める事が出来る?

 魔力は一定の密度がなければ効果を発揮できないとか?

 いや、それよりも圧力をかけてエネルギーとしての力を蓄えている?


「僕はこれが一番好き!」「ネネもーっ!」


 だがこの仮定の中に俺が感じていた魔力の器が成立する部分が見えない。

 生体を器とするとどこかを破るというのは生体部分を壊さなければいけないはずだ。

 だが魔法を使っても俺はどこもケガをしていない。つまりこの仮定は間違っているはずだ。


 わからない。いや、待て。まだその仮定を捨てるのは早いか?

 電子だって反発する力やくっつく力など物理的な作用に影響されていた。

 そこまで行くと物理の素粒子くらいまで踏み込まなきゃいけなるだろう。


 重要なのは魂の器のモデルだ。観測している事象から予想が出来るモデルだ。

 もし魔法で魂の器の創造が出来なかった時、自力で作るために知らなければいけない。

 俺が自由になるためには必要なことなのだ。


「土コケモモの蜜ね。じゃあ、ここであった事は秘密だよ?」


 このままずっとこの体で過ごすのもいいだろう。

 だがこんな監視だらけで自由に出来ないのは俺が耐えられない。

 今日という日は俺にとって非常に長い。


 ただの子供であれば学校に行って遊んで、保健室で休んで、小屋に入って蜜を食べられたという簡素なモノで終わったはずだ。

 それが俺がいるだけで潜入捜査染みた事になってしまう。一々全てを気にしなければいけなくなるのだ。

 これが自然な事だろうか? 当たり前であるわけがない。


 きっと今夜の眠りはとても深くなるだろう。処理する情報が多すぎて。


「秘密なの?」


 隠すことが減れば俺ももっと楽に生きる事が出来るだろう。

 考え事が減れば退屈に飽かせて何かをするかもしれない。

 料理とかも楽しめたらいいだろうな。


 思う存分読書をするのもいいかもしれない。

 人を見てその人が何をしている人なのかを想像するのも面白い。

 植物も育ててみたい。動物も飼いたいな。


 考えた事を文字に起こすのもいいかもしれない。

 新しい気づきがあるかもしれないな。

 何なら小説を書いて書籍として出してみたい。


「他の子がここに来たらもらえると思っちゃったら皆来ちゃうかもしれないでしょ?

 そしたらここの食材がなくなっちゃうもの。だから私とリク君とネネちゃんの秘密。

 守ってくれるかな?」




キル

11歳

役職:学園中等部学生

属性:木

魔力1等級

髪色:緑

虹彩色:緑

登場回:34~37話


学園の中等部生にして英雄見習い。同じ英雄見習いの金属性のマイペースなラスちゃんや火属性の短気そうなアイちゃんと行動している事が多い。図鑑やメガネが似合いそうな少年博士。英雄見習いのまとめ役。



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