13、予測される事態
母さんはその場では返事を出さなかった。
黙ったまま俺をつかみあげると乳母車に押し込むように入れて、教会の玄関から飛んで帰った。文字通り。風で目も開けられない程の速度で。
行きよりも早く帰り着いた。
俺を抱え上げると部屋に押し込めるように入れると扉を閉めた。
扉の向こうで母さんはバタバタと足音をたてていた。
扉に耳を当てて外の様子を窺うと物をひっくり返すような音が聞こえた。
住み慣れた街を出なくちゃいけなくて荒れているのだろうか?
それとも環境がいいだろう王都への切符をつかんで喜んでいるのだろうか?
もしくは王都で何か行きたくない理由があるのだろうか?
顔をあわせたくない人がいるとか、嫌なことがあって思い出したくないことがあるのだろうか?
母さんが王都に行きたくない方に思えてしまうのはなぜだろう?
何か少し手荒い感じだからだろうか?
嬉しくて舞い上がってというには何か違う気がしてならない。
もしかしたら困ったことが起きるかもしれない。
今、俺に何ができるだろうか?
今後の予測をたてる?
何か今、俺に分かっている情報はあるだろうか?
とりあえず現状から把握し直しておくべきだろう。
1、母さんは3等級、父さんは2等級の魔力を持っている。
2、その2人から生まれた俺は0等級という魔力を持っている。
3、0等級という魔力が暴走すると街が吹っ飛ぶ。
4、暴走しないためには魔力のガス抜きなどの扱い方を覚えるしかない。
5、魔力の扱い方を俺に教えるには1等級の師匠が必要。
6、1等級はこの街にはいない。
7、王都では1等級は10年に1度、3人生まれる。
8、俺が魔力を暴走させないためには王都に行き、1等級の師匠を持つしかない。
9、俺が2歳のこの年に1等級は3人生まれる。
……?
……。
魔法使いって1度に何人教えられるんだろうか。
1人しか教えられないとしたら、1等級の魔法使いを1人、俺が師事すると、3人の内1人は 2等級の人に教わることになるのか。
……本当に?
いや、それ以前に何歳で巣立ちになるのかわからない。
もしかしたら30年くらいまで師事しなくちゃいけないかもしれない。
10年で終わるかもしれない。
それは何歳くらいの師匠に師事することになるのだろうか?
修行が終わってすぐに弟子を持つのだろうか?
それとも修行後しばらくして、大きな実験のための助手として、弟子をとり育てるのだろうか?
前者だと育てる側にメリットがない。
後者の確率が高いんじゃ?
ヤバい。
定例行事みたいな感覚で1等級の子供達が生まれると言っていた。
取り決めみたいなことも決まっているかもしれない。
そこに俺という未知の要素が飛び込んだら?
……いろんな意味で争いの予感しかしない。
……これはひとまず置いておこうか。
師匠になる人がどういう人になるのか。
師匠にならなかった他の2人がどういう人なのか。
そういう情報が必要だ。