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137、小屋の中

 小屋の中は暗く、青臭い臭いと果実などの甘い匂いが混ざり立ち込めていた。

 足元と天井がほのかに光っている。目を凝らすと青白く光っているのはコケだとわかった。

 コケの表面はぬらぬらとしており、どこか食虫植物を思い浮かばせた。


「リク君。これどうぞ」


 チサ先生が壁に掛けられていた棒を手に取ると先端に何かを取り付けて俺に手渡した。

 透明な丸い石のついた棒はしばらくすると石の部分から蛍光灯よりかは弱い光を出し始めた。

 やはり魔石と呼ぶべきモノがあるんじゃないだろうか?


 そういえば今まで部屋の中の光について気にしていなかった気がする。

 あの光もきっとこの石が光源になっているのかもしれない。

 自然に電気が元の光だと思っていた気がする。車があるから。


 考えが浅い。確かに電気は便利な力だ。とても自由度が高い便利なエネルギーだ。

 タービンを回転させたりする事により物理的なエネルギーから産生できて、モーターを回したりする事により物理的なエネルギーに変換し直す事もできる。

 だからといってこの世界も電気で全てが回っているとは限らないのだ。この世界にはさらに便利な魔力というエネルギーがあるのだから。


「ありがとうございます」


 電気は発見こそ近代ではあるが、生命においては神経の伝達信号に使われたり、原子の構成にすら関わる力だが、魔力はどれ程関わっているのだろう?

 生命、いやこの世界において魔力は何の役割を果たしているのだろうか?

 この世界においてどこにでもある存在が何も果たしていないとはとても考えられない。


 いったいどこに関わっているのだろう?

 魔力といえばニーナやネネといったゴーレム達の存在がいる。

 ゴーレムという肉体は仮初のモノとしたら、魔力はその意識という事だろうか?


 つまり魔力とは魂を構成しているモノ?


「どうしたの?」


 気が付けばチサ先生が不安そうに顔を覗き込んでいた。

 さっき周囲に注意すると考えていたばかりなのに緊張感の欠片も俺にはないのか?

 気にするべきは周囲の状況だ。いつ殺しにかかってくるかわかったもんじゃないんだからな。


「すみません。ここまで近くで照明を見た事がなかったのでちょっと不思議に感じちゃいました」


 嘘はついていない。


「そ、そっか?」


 どこか不安げな表情をしている。何だろう、この何かミスしちゃったかな? って顔は。

 子犬とかに多いな。自分がしている事が本当は悪い事だったんじゃないか? って不安になる感じ。

 チサ先生は対人経験少なそうだし、いろいろ考えている気がする。


 前世の俺よりかは対人経験あるとは思うがな。


「チサ先生、ここってどのくらいの広さがあるんですか?」


 声を出した感じ、音の反響具合からは上手く読み解けない。

 小屋の中にあるモノに音が吸収されているのだろう。手元の明かりで見る限り毛布など音を反響させにくい物が棚につけられているとかはしていないようだ。

 ただこの感じ、マットとか軟式野球のボールやグローブがたくさん置いてある体育倉庫で声を出した時と一緒だ。


 理科準備室とか小さい部屋に色々物品があるところでも、あそこはガラス扉の中にしまわれているので、反響した声がスムーズに聞こえる。

 反響音と口に出した音のラグはほとんどないのでわかりにくいが、体育倉庫とかで声を出した時と比べると意味がわかるはずだ。

 体育館など広い場所なら反響音が遅れて聞こえてくるので、反響具合でおおよその広さが見当がつく。


「そうねぇ、だいたい900平米かな?」


 けっこう広いな。隠し部屋とか案内の一見では気づくのが難しそうだ。

 自分で隅から順に回るなら、脳内地図を補完していく事で不審な区画とか気づけるのだが。

 そこまでしっかりした自身の感覚があるわけではないが、1部屋分の空間にはさすがに気づけるだろう。


 それにしても単位の翻訳だがこれであっているかは保証がないな。

 1センチ今世の単位が多いだけで、1平米は2%増えるのだ。

 900平米であれば918平米に増量される。都会のワンルームが2つ3つ増えるか?


 正確な単位が分からないというのは辛いもんだ。聞いた時に正確な距離が思い浮かべられない。

 まぁ、1mと考えている単位で計算を行うだけだから、計算する時の比は変わらない。

 代数みたいなモノと考えれば問題ない。1インチと1センチの程の差はないはずだ。


「広いですねぇ」


 仄かに光る天井までの距離は棚とチサ先生から比較してだいたい3mないくらいだろう。

 結構な量の物資がここに保存されているのではないだろうか?

 前世で倉庫内作業の派遣を経験した時を思い出すとそんなに量が入らないかもしれない。


 いや、あれは数万人単位のための物資だから比較対象としてふさわしくないか。

 しかも別に食品というわけでもないから、あそこまで貯蔵する事が出来るのだろう。

 食品を保管する場合、どの程度の広さが妥当なのだろう?


 保存の利く加工食品であれば数年分を保管しておける必要があるかもしれない。

 しかし見たところ棚にあるのは生鮮食品ばかりだ。1月も倉庫の中に置いておけるのだろうか?

 空気が若干ひんやりしているところからしてみて、保存に適した環境なのだとは思う。


 外から見た小屋の大きさはそこまで大きくなかったところを見ると、900平米という広さは地下に広がっているのかもしれない。

 重たい空気、冷たい空気や湿度の高い空気などは地下に向かう傾向があるので、夏場はカビが生えやすい環境になるとか聞くが大丈夫なのだろうか?

 この世界には魔法があるから湿度を低くできる仕組みがあるかもしれない。

 空気中の水分を水としてまとめて排水するとか。


「でしょ? 私1人だとここけっこう大変なの」

「1人?」


 いや、さすがにこの規模の施設を1人で管理できないんじゃないだろうか?

 そもそも1人で回すとしたら休日はどうするんだ?

 風邪なんかにかかったら施設が回らなくなるぞ。控えの要員がいなければムリでは?


 は……別に1人で管理するといったところでここは学校の施設だ。

 タスク的には1人で回すのかもしれない。それはある時間に限っての事では?

 別に他の人員がいないとは言っていないのだ。


「大変ではないですか?」


 ここの施設の仕事はいったい何があるのだろうか?

 外の畑……といえばいいのだろうか? あの池とかも仕事に含まれているんじゃないだろうか?

 メンテナンス要員? 蜜の融通が出来るとなると物資の出納も任されている?


 小屋に入る時に何かしらの施錠はあっただろうか?

 もしかしてその辺りはおざなり? さすがにそれは考えられないよな。

 学園施設で食中毒なんて起きたら保護者とか乗り込んでくるぞ。


 扉に触れる時に魔力を検知して施錠が解除されるとかそういう仕組みがあってもおかしくない。

 学園施設が近隣住民の避難所として利用される事を考えればなおさらそういう仕組みは重要だろう。

 この世界には魔物がいるのだから。そして定期的な氾濫、海嘯という現象があるのだから。


「1人だと集中できるのはいいですけど、どうにも肩が凝り固まっちゃってね」


 そういえば次の海嘯はいったいいつ来るのだろうか?

 俺が生まれてからはまだ来ていないが、生まれる直前にはあったはずだ。

 なければ俺が王都に来る事もなかったのだから。


 1等級の魔力保持者が生まれるのも10年に1回3人まとめて。

 もしかして海嘯も10年周期だとしたら? まだ分からない。

 偶然なのか、必然なのか、上手く調和した結果? それとも神による意図的な結果?


 とてもじゃないが現状ではまだ判断がつかない。

 だが海嘯において俺はどう立ち回るのがいいかはもっと考えなければいけない。

 知らない事が多すぎる。


「肩叩きしますか?」








ニキ

28歳

役職:行商人

属性:水

魔力4等級。

髪色:黒

虹彩色:青

登場回:15~37話

柔らかい雰囲気を持つ行商人のお兄さん。交渉能力や伝手の多さなど、とても手腕の優れた商人である。

間違っても侮れない。優しい風貌だが、芯に力を持った強い商人の雰囲気を感じる。

父親は中郭の東区画5の都市で店を構えている。

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