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135、離れの小屋

「僕はネネに誘われて、花を探しに歩いてました」


 この辺りは素直に言っても何も問題ない。やましい事などないのだから。

 そもそも俺にとってやましいのは、俺が転生者である事を隠している事だけなのだ。

 何も問題はありやしない。問題は何もありやしない。


「花ねぇ。どうして花を探していたの?」


 チサ先生はジッとネネが収まっている俺の胸元を見つめた。

 チサ先生の香りの元はここの花なのだろう。

 つと池の方に目をやると青い桃のような果実が浮かび、ゆらゆらと揺れていた。


「ネネは花の蜜を吸ってみたいのです!」


 花から実になるまでが早い。

 そもそも花以外の部分が見えないがあるのだろうか?

 どういう原理で浮かんでいるのだろうか?


「花の蜜? いいよ。こっちにおいで」


 池の底に沈んでいる石は何なのだろうか?

 ファンタジーによく出てくる魔石? 魔石なんてものは存在するのだろうか?

 いや、存在しないとおかしいかもしれない。


「はい、こちらですね」


 死んだ時体に含まれている魔力が外に全部漏れ出ていくとすると爆発が起きるのが自然だ。

 その仮定に基づいて考えると王都にいるような魔力の高い人の場合、周囲を巻き込むような爆発を起こし、巻き込まれた人も死んでしまうはずだ。そうなれば連鎖的に爆発は起こり、都市の機能は停止してしかるべきだ。

 けれどもこの都市は存在している。つまり死んだとしても爆発は起こり得ないはず。


 死んだ時に魔力が身体の外に拡散して爆発が起きない事には理由があって然るべき。

 つまりそれが魔石。魔石となって魔力が固定化されて安定化する。

 そうなるのが自然じゃないだろうか? どういう理由で固定化されるかはまだ見当がつかないが。


「ここはきれいですもんね。でもちゃんと足元を見てないと危ないですよ? この辺りぬかるんでいるんで気を付けてくださいね?」


 魔石だと思われるモノに思考を持っていかれすぎて、足元が疎かになっていたか。

 少し足を滑らしそうになったのを見ていたチサ先生に注意されてしまった。

 反省しなければならない。この頃思考に引っ張られ過ぎていないだろうか?


「あ、すみません! 本当にきれいですよね」


 左手側に例のプラスティックみたいな素材の校舎があり、周囲は緑に包まれている。

 この一帯だけ初夏の装いを周囲の草木がしているのだ。

 足元は池の近くという事もあり、けっこうぬかるみがある。


「私がこの辺りの管理を任されているの。だからそういってもらえるととても嬉しいな」


 涼やかな若草色のワンピースが歩く振動で緩く揺れている。

 足元の草地は濡れてぬかるんでいるところがあるとはいえ、泥が露出していない。

 水気に強い芝生を使っているんだろうか?


 ワンピースの裾からのぞく、目の前の白い足には泥はねの跡がまるで見えなかった。

 3歳児の視点からだとどうしてもアングルが下からになるな。

 なんか嫌だ。性的に見ているつもりはないのに、性的に見ているような立ち位置になるのが。


 この体と同年齢であるなら特に何も問題は感じない。

 だが中の俺と同年齢の場合、非常に問題を感じてしまう。

 自身が性的に見ていなければ問題ないと思うのだが、疑われる事すらいやだ。


 もし今後転生者である事を明かす場合、そういった事案は後に問題を起こすだろう。

 俺が転生者で明かさざるを得なくなる事はいつかあるだろう。

 その時に疑われる事は絶対にしたくない。


「そういえば花の蜜はどれでもいいのかしら?」


 チサ先生に案内されるままについて歩くと1件の小屋にたどり着いた。

 小屋の周囲には空間が広く取られていて、校舎からは離れたところに建てられていた。

 周囲には鬱蒼と草木が生い茂り、小屋の中で大きい物音がしたとしても気づかれる事はなさそうだ。


 危険を感じる。


 いや、さすがに考えすぎか。

 俺を害してチサ先生に何の得があるのだろう?

 いや、犯罪者の思考は分かったものじゃない。


 ただ癇に障ったから。植物園に踏み込んだから。1人誰も知らないところを歩いていたから。

 理由は何でも考えられるだろう。何にしても信用するのは危険だろう。

 ここは日本ではないのだ。日本だったら起こり得ない事も起こるのは十分考えられる。


「ネネ? 何がいいとかある?」


 アメリカではヒッチハイクが禁止されている州がいくつかある。

 また人種差別が激しい地域だったりすると、身の危険を感じたからという理由で銃を向けられ、撃ち殺される可能性すらある。

 地球ですらそうなのだ。異世界ともなればさらに常識が変異していてもおかしくない。


 日本では普通。しかし異世界において普通ではない可能性がある。

 常識が周囲と大きく乖離しているから、何をするのかが見当がつけられない。

 転生者が無意識に常識を押し通す事で、周囲の常識を侵食していく危険性がある。


「う~ん? わからない!」


 そういえば何かでハチドリの給餌機を見た事があるが、そこに入っているのは砂糖水だという。

 花の蜜というのは極論は糖分の塊。砂糖水である程度代用できるから、使われているところがあるのだろう。

 ネネの場合もそうなのだろうか? 砂糖水であれば問題がないのだろうか?


「チサ先生。すみません、いくつか種類があるようでしたら、試させていただいてもいいでしょうか?」


 当たり前の様に認識していたが、ワンピースや軍服、その他衣服が地球の服と似ている。

 この部分は転生者の知識が働いている可能性が高い。

 この世界の転生者の中で日本人の割合が高い? いや、そんなご都合主義なことはないだろう。


「いいよ、こっちにおいで」


 もしチサ先生が俺を害そうとする場合、チサ先生は何をするのだろうか?

 殺す? いや、それは抵抗された時の反動が大きいだろう。

 魔力を意図的に暴走させるのは容易い。その場合、チサ先生も死ぬ事は間違いないだろう。


 ネネの存在を当たり前の様に受け入れている段階で、俺の事情は知っていると判断できる。

 いや、即暴行というのは考えにくいのか。薬物の危険性があるだろう。

 遅効性の毒物や麻痺、睡眠薬を使われた場合、抵抗すらも手遅れだ。


 いや、そもそも俺は転生者だとばれていないという保障はどこにもありはしない。

 チサ先生ごとまとめて毒煙をぶっかけられる可能性とかも考慮するべきだろうか?

 日常的に摂取しているアロマなモノが対抗薬となり、都合よくチサ先生にだけ効かない毒物があるとかそういう可能性はあるのだろうか?


 ニーナやネネの存在が何を参照にされたゴーレムなのか。

 これが転生者である俺という存在が知っている情報だと気づかれる可能性があるだろう。

 気づかれていた場合、油断をさせるために泳がせている可能性だってある。


 自律したゴーレムを作るという魔法は俺にだけできる魔法だと誰が言った?

 誰も言っていない。魔力量に驚かれて、反応から俺以外できないと考えたが、効率的な魔力の運用方法があり、誰にでも作れるのかもしれない。

 ゴーレムを作る魔法について検証できる誰かがいた場合、モデルが前世のモノだと気づかれる事は間違いないだろう。


 ゴーレムの中に入っている人格のおかげで疑われていない可能性は微レ存。

 本当に微粒子レベルで存在しているだろうな。考えれば考える程、バレていない方が不自然だ。

 しかし疑われていない可能性を論じてもしょうがない。


 バレている可能性は高い。だがバレていない可能性もある。

 どういう行動が正解か? バレていない前提で行動するしかない。

 だがバレているという前提で準備をする以外ない。


 準備とは何だろうか? 何を準備すればいいだろうか?

 バレていたとしても悪影響を受けない地位にたどり着ければいいのだろう。

 しかしそれはどういう行動をとればいい?


 堅実に実績を積み上げるのがベストなのだろうか?

 しかし実績を積む間に処されたら元も子もない。

 実際、現在その可能性が怖いから小屋に入れないのだ。


 今ニーナは近くにいない。

 ニーナは今何をしているのだろうか?

 わからない。知らない。


 もしニーナが俺の内情を人に話していた場合、どういう事が起きるだろうか?

 その可能性だってあるのだ。背中に背負った覚えはないけれど、背中を切られる。

 俺はただ生きたいだけなんだ。前世とは違う人生を歩みたいだけなんだ。


 頼れるものは俺自身だけだ。いや、それすらも頼れるのか怪しい。

 この体の規格であれば中身が俺でなければもっと楽に生きられたことだろう。

 中身が俺だから。


 またか。


 またそれか。


 中身が俺でなければ前世の体ももっと有効活用できただろう。

 中身が俺でなければ親とケンカして、家を飛び出し、1人で苦労して何も手にできないなんて事はなかったんじゃないだろうか。

 全ては中身が俺だという事がいけないのだろうか?


 俺は俺である。


 それはどうしようもないのだろう。

 1がAになるように変わることはできない。

 1が2になるように付け足す事はできる。


 覚える事は容易だ。忘れる事は難しい。

 忘れたと思っても、少し関われば過去の経験が蘇る。

 過去は捨てられない。だが新しく付け足す事は出来る。


 今の自分に何を足せば人間として生きられるのだろうか?


 今の自分に何を足せば自由を手に入れられるのだろうか?


「どうしたの?」


 チサ先生の不思議そうな顔が目に入る。答えを出さないといけない。

 今までにも殺すタイミングはあった。今ここで殺される危険は低いはずだ。

 考えろ。考え続けろ。






ケン

25歳

リクの父親

属性:土

魔力2等級

髪色:赤髪

虹彩色:黒


プロレスラー体型でとてもがたいがよく、剣聖と呼ばれる程に剣術が巧み。寡黙で愚直。

1つの事に集中し過ぎるところがあり、奥さんのエリさんが手網を取らなければ目的地に辿りつけないところがある。

搦手に弱いが攻撃力は高く、エリさんのサポートがあれば1等級相当の魔物にも対応可能。

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