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133、猜疑心

「チサ先生。ここにいましたか」


 校庭に近づくにつれて足を緩めてレンさんは呼吸を整えた。そして澄ました顔で平静を繕って言った。

 どんだけ楽しみにしているんだ。このええかっこしいめ。

 チサ先生も若草色の瞳を丸くして驚いているぞ。


「えっとレンさんであってますか? どうなさいました?」


 チサ先生、まさかのレンさんをあまり覚えていない疑惑。

 なるほど。レンさんの一方的な片思いか。それも相手に存在を認知されていないレベルの。

 チサ先生の戸惑いまじりの顔がレンさんの後ろで若干息が荒くなっているルイ君に向けられた。


「実はこの子達が迷子になっていましてね」


 レンさんの手が後ろに向けられたがルイ君はそこにはまだいなかった。

 レンさんが「あれ?」と言って振り向いた。レンさんの後方少し離れたところ、俺達と一緒にルイ君はいるのだ。

 チサ先生がジト目でレンさんの事を見ているぞ。


「チサ先生、初めまして。リクです。こちらの2人はチサ先生のクラスに入ることになる、ルイ君とリラちゃんです」


 黙っていても話は進まない。レンさんのかっこいいところはまたいつかチサ先生に見せてください。

 「ルイ君です!」「リラです」と2人が挨拶すると、チサ先生は緑がかった黒髪を耳にかけて「こんにちは。チサですよ。よろしくね」と優しい声で返していた。

 近づいてみるとチサ先生は植物園にでもいたのかな? と思う程アロマな匂いをさせていた。


「チサ先生、僕は座学が特別クラスなので、体育が終わるまで適当に過ごしておきますね」


 さてとここにいてもしょうがない。できる事を考えよう。今、俺に足りないのはなんだ?

 人付き合い? まぁ、おいておくか。とりあえずステータスを上げる事を考えよう。

 筋肉をつけ過ぎるわけにはいかないから瞬発力を上げよう。


「リク君。ちょっとどこ行くの?」


 え、何だろう。リラちゃんが俺を引き留めようとしている?

 どういう理由でだろうか? 今まで一緒にいたから集団の一部として認識していて、そこから離れる事に忌避感を感じたからだろうか?

 まさかさっきの手をつないで走っていた時から恋愛感情があるとか……まぁ、ないわな。


「リラちゃん、僕はちょっとあっちの山で遊んでこようかなと思うんだ」


 実際、山という環境はとてもトレーニングに向いている。

 傾斜がある事で腿を上げたりしなければ登る事ができないし、降るにしても使う筋肉が違う。

 さらに足元がふかふかしている事により不安定だ。バランス感覚も鍛えられる。


「山? 私も一緒に行く!」


 なぜ? なぜ俺についてきたがるのだろうか?

 いや、これも集団で行動しようという人の本能のなせる業だろうか?

 一度リーダーのような振る舞いをしたからかもしれない。


「いいけど、つまらないかもしれないよ」


 なにせただ登ったり降ったり、足音を殺して速く動いたりするだけだ。

 足音を殺すには完全に体重をコントロールしないといけない。つまり普通に動くよりも筋力を使う。

 この動きのためのトレーニングだ。前世で少し心得自体はあるが、まだ完璧にできるわけじゃない。


「んーん。つまらなくないよ!」


 やはりリラちゃんの考えている事がわからない。

 何が目的だ? そもそもリラちゃんはどこの派閥にいるのだろうか?

 立ち位置がわからない。例え一般人といっても主張は様々だ。

 きのこだ、たけのこだ、みたいにな。


「あ、待って! 待って! 僕も行く!」


 大人2人の間に1人置いてかれると思って焦っているのか、ルイ君が慌ててこっちに来た。

 リラちゃんがちょっと白い瞳を一瞬大きく見開いて元に戻していた。

 リラちゃんが何を考えているのかがわからない。何か狙っているのだろうか?


「はいはい。リラちゃん、ルイ君、2人はこっち! 勝手にどこかに行かないの!」


 チサ先生が2人の肩を急いで触った。若干焦り気味みたいだ。

 一度2人がどこかに行って分からなくなった以上、逃がすつもりはないのだろう。

 俺はまぁどこへなりとも行って問題ないのだろう。それが特別クラスの特権だ、たぶん。


「リク君、またね……」


 名残惜しそうに、悲しそうに少し瞳を伏せながらリラちゃんは言った。

 なぜここまで寂しがっているのだろうか? リラちゃんの頭の良さなら何かしら戦略があってもおかしくない。

 教会だろうか? 王族だろうか? それとも第三勢力だろうか?


「リク君、またねー!」


 ルイ君はすごい元気がよさそうだ。裏を感じられない光属性だな。

 単純にまた遊ぼうというタイプの幼児。こっちは何も考えなくていいと思う。

 しかしルイ君もバカじゃない。こちらがサクラを増やせば仲間を増やす頭があるのだ。

 何も警戒しなくていい存在じゃない。


「リク君、チャイムが鳴ったら校舎に入るように! 次のコマの子達の時間になるからね!」


 次のコマか。そういえば俺は体力測定でBクラスだったな。

 しかしルイ君もBクラスなのか? Aクラスはどんな化け物集団なのだろうか?

 もしかしたら魔力を使って体力測定挑んだタイプなのか?


「わかりました!」


 だとしたらどうする? あそこで魔力を使って体力測定してもよかったのだろうか?

 いや俺はまだ身体能力強化の魔法を覚えていない。どうやって使うのかもわからない。

 ただ体に循環させるだけなら問題なくできるが、魔法として使う場合、体外に魔力を放出する必要がきっとあるだろう。


 下手に暴発させた場合、いったいどうなる事だろうか? クレーター再来か?

 校舎がなくなっていたかもしれない。子供や教員が大勢亡くなっていたかもしれない。

 そんなことになれば俺は殺処分されてもおかしくないだろう。


 ろくな事にはならないだろう。

 適正な量の魔力で魔法を使えなかった場合、下手すれば魔法に体が押しつぶされてミンチか?

 ミンチになって蓄え込んだ魔力を暴発させて盛大に自爆か?


 この辺りはニーナに手伝ってもらい、力の使い方を学ぶしかないだろう。

 繊細な力が必要になるのは間違いない。

 いっそ細かい魔法を使ってくれるゴーレムでも作ったらいいのだろうか?


 でもまた人格のあるゴーレムが出来上がるんだろうな。

 意味がわからない。俺は誰かの自由を奪って、自分の自由を得たくはない。

 俺は縛られたくないし、縛りたくもない。ただ自由でありたい。


「あれ? 静か? ご主人? 周りに誰もいない?」


 おぅ。そういえばこの子もいたわ。胸元に隠れっぱなしだったわ。

 にしてもこの子なんでここに隠れているのだろう?

 俺はどこにいてもいいと思うのだが、ここにいるのには訳があるのだろうか?


「ネネ、たぶんどこかにまだいると思う」


 今の隠し事は転生者である事だけだが、それはゴーレム勢には創った時からばれているらしい。

 この部分が何よりも問題だろう。もし雇用状況が悪く不満を覚えさせた場合、下手なところに密告されるかもしれない。そしたら俺は終わりだ。

 どこかに監禁されて監視対象になるのは間違いないだろう。


 そしてこちらから提供できて、ゴーレムにとってメリットがあるものは豊富な魔力だけだ。

 それにしたところで他人の魔力が代用できないとはとても思えない。

 裏切れない理由はどこにもない。乱暴に扱える存在では毛頭ないのだ。


「そっか。ご主人! とりあえずご報告! お腹が空きました!」


 ……ゴーレムってお腹が空くんだ。

 いやこれは魔力が不足しているという意味なのではないだろうか?

 あまり派手に動いてないし、エネルギー不足になるものだろうか?


 タマゴを思い出せ。あれは限界までつぎ込んで稼働限界は2日間だった。

 ゴーレムもそうなのだろうか? 製造時に消費した魔力の10倍で2日間か。燃費悪いな。

 他人が魔力供給しようと思ったら何人分必要になるのだろうか?


「ネネ、魔力が欲しいのか?」


 魔力の容量は大きさに比例するのだろうか? それとも製造時の魔力量に比例するのだろうか?

 魔力の大部分が機能の作成に対して使われていそうだ。だとしたら大きさに比例する場合容量が小さくなりそうだ。

 そうなるとゴーレムは基本的に1日で稼働限界を迎えるかもしれない。


「ううんっ! ご飯が欲しいのっ!」


 何だって?


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