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132、研究員 レン

新年明けましておめでとうございます。

本年もまたよろしくお願いします。

「で、君たちはどうしたのかな?」


 良く熟れたみかんのような温かい色の髪をショートカットにした男性はそう尋ねた。

 藍色の瞳や柔和な表情がとても優しそうな雰囲気を醸し出している。

 水色のYシャツのような服とベージュのスーツのズボンから若い先生の様に見える。


「ちょっと休憩に来ました。ちょうど休憩が終わったところです!」


 ネックタグに書かれている名前は『魔道具研究開発課ミザ研究室研究員 レン』とある。

 この学園は幼稚園から大学までの一貫校なのだろうか? その可能性は高いかもしれない。

 都市の大きさがはっきりしないが、この都市だけで学園の生徒は完結されているだろう。となればそんなに人数がいるとは考えられないだろう。


「そっかそっか! じゃあ、運動場に行った方がいいんじゃないか?」


 このレンさんは俺達の時間割を把握しているのだろうか?

 いや、把握しているわけがないだろう。むしろそんな年齢の離れている子供のカリキュラムを覚えていることの方がおかしいはずだ。

 教育課だとかカリキュラムを把握していてもおかしくない職員であれば問題ないが、魔道具研究開発課だろう? 通常であれば知っているはずがない。


「すみません! 勝手に運動場を離れてしまったので、次の授業がどこになるのかわかりません! 教員室など先生がいるところに連れていってもらえると助かります! お願いできますでしょうか?」


 魔道具の研究開発。この言葉は色々な意味で興味がわく。

 例えば車だ。車を作るにあたり、多少は転生者達の存在が影響している事は間違いない。

 しかしそのまんま車を作ったというわけではないと思う。だとしたら魔道具として作られた可能性が高い。


「いいよ。案内するからついておいで」


 軽くジャブ。3歳児とは思えない言葉を話したが、あまり大きな反応は見えない。あまりにも平然とした対応だった。

 鈍感な人なのだろうか? それとも反応を隠して何かを企んでいるのだろうか?

 いや、この世界の3歳児といえばルイ君やリラちゃんがいる。この程度の言葉使い自体、あり得る事なのかもしれない。


「ありがとうございます!」


 この世界の知能指数の高さの基準値が見えない以上、どこまで話せるのが普通なのかが判断しづらい。

 あまりに子供っぽく振る舞ってもただのバカか仮面を被った奴かの2択になりそうだ。

 仮面を被った奴、特にそんなに人生経験がない子供が仮面を被っていた場合、転生者を疑われてもおかしくない。


「君達は何歳かな?」


 ルイ君はレンさんの手を握り、レンさんの隣を歩いていた。

 ルイ君はよく物怖じせずについていけるな。ちょっと心配になるぞ。

 レンさんはそんなルイ君の顔を見ていた。何かを推し量っているようにも見える。


「3歳~!」


 ルイ君は幼い声で大きく無邪気に言った。

 ルイ君を基準に考えると俺の言い方は大分大人びてしまっていただろう。

 自身の頭の中の基準と俺とルイ君の比較を行った時、俺はどういう風に判断されるだろうか?


「そっかそっか? ちなみに2人は?」


 なるほど、まずは同い年である確率を消すわけか。

 同い年でなければ別に多少大人び過ぎていても問題はないだろう。

 しかし同い年であるとわかればその差は大きく見えるに違いない。


「3歳です」「3歳でーす」


 こういう場合、いったいレンさんの頭の中ではどういう判断が行われるだろうか?

 面白い子供がいたという認識になり、レンさんの研究室で話を広めてくれたら今回の接触で評点は良だろう。

 魔力量で俺は有名なはずだから、面白い子供と魔力量豊富な有名人がイコールで結びついた時、積極的に関わりを持とうとしてくれるかもしれない。


「へぇ~、同い年なんだ?」


 しかしもし転生者だと判断が行われた場合が最悪だ。

 いきなり転生者と判断されて隔離される可能性は低いとしても、疑われる部分が多くなり監視者が増える可能性がある。

 いきなり達者に話したのは考えが足りなかったか。


「うん!」


 魔道具の関係という事で若干興奮していたかもしれない。よくない事だ。

 それにだ。研究室の人と関われたからといっていきなり研究に関われるわけではない。

 それに基礎が出来てもいないのだ。応用は基礎が出来ていなければバリエーションが増えない。


「そっかそっか。そうだねぇ。そういえば皆は何クラス?」


 気が付くと俺の右手にリラちゃんの左手が触れていた。

 俺がリラちゃんの方を見るとリラちゃんはレンさんとルイ君が手を繋いでいるのを指さしていた。

 どうやら手を繋ぎたい様子だ。……これはこの解釈でいいのだろうか?


「A~」「Aでーす」「特別クラスです」


 レンさんの藍色の瞳が一瞬細くすぼめられた気がした。

 ただのまばたきを過剰に警戒してしまっただけかもしれない。

 いや、微笑ましいものを見るような目だった可能性もあるか。


「皆すごいね~。Aクラスはチサ先生だったかな? 特別クラスはハク先生だったね」


 幼稚園学級? その先生を覚えているのは普通なのだろうか?

 名前と顔を覚えているのはまだわかるが、担当している学級まで覚えているのか。

 特別クラスを例に考えると数歳差があっても同じクラスにまとめられている可能性があるかもしれない。

 その場合、数十人と先生がいるわけではないから、担当しているクラスも覚えていてもおかしくないか。


「そうでーす」


 リラちゃんが間延びした声でレンさんに応えていた。

 リラちゃんを見てにっこりとレンさんは微笑むと、いつのまにか着いていた教員室の扉を開けた。

 紙とインクの匂いが漂う独特な空間は前世の教員室とよく似ていた。


「失礼しまーす。すみません、チサ先生やハク先生ってどこにいますか? 生徒さんを連れてきましたー」


 教員室の中を覗くと近くの机が高く、奥まで見通す事が出来なかった。

 身長が低いと隠れやすいというメリットはあるが、物理的に遮られて見えないモノが多々あるという事か。

 この点は明確なデメリットだな。力に関しては魔力で補えるから特に問題ないとしてもだ。


「レンさんか。珍しいね。チサ先生とハク先生はまだ運動場じゃないか?」


 教員室の奥の方から渋めの声が聞こえてくる。

 50代くらいのおじさんじゃないだろうか? すごくビール腹の気のいいおじさんをイメージする声なんだが。

 この世界の人でビール腹の人を見た記憶がないが、お酒などでお腹がやられている人はいないのだろうか?


「ありがとうございます! ちょっと行ってきますね!」


 なんか嬉しそうだな。2人の先生のうちどちらかが好きなのだろうか?

 ハク先生は1等級だから何がなくても知っていておかしくない。

 しかしチサ先生は何かあるのだろうか? わからない。だがない場合はチサ先生が目当ての人の可能性が高いだろう。


「あ、待ってー!」


 ルイ君がレンさんの背中にくっついて走っていく。なんか可愛いな。

 ひとまずついていこう。ついていけば詳しい人がいる事は間違いない。

 それと恋愛関係の情報は知っていて面白いことが多い。


「行こうか?」


 そういえばいつまでリラちゃんと手をつないでいるのだろう?

 そしてこの手を繋ぐ事はいったい何を意味しているのだろうか?

 好きか嫌いかで判断するのは気が早いだろう。まだ3歳だぞ?


「うん! 行こ!」


 そもそも俺は小さい子に興奮するような性質ではない。

 むしろミラさんとか大人のお姉さんが好きだ。

 さらにいえば強い女の人がいい。


「けっこう速いね」


 何を言っているんだろうか? わからない。

 いやだがしかし、簡単に手折られる花屋の花を見るよりも、山中の花の方が強く美しく見える。

 花屋の花もきれいで守りたいと思うかもしれない。だが人の手を借りなければいけない花よりも、過酷な環境でも対応し順応してみせる花の方が美しく思う。


「そうだねー」


 能力を尖らせた守られた花はその花なりの力をもつかもしれない。

 だが環境を整えなければ生き残れない花はとても儚く感じる。

 野山で自由に歪な介入もなく育った花は環境も含めて1つの絵になる。












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