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128、認識

「リク君って私の方を見ているけど、私を見てないよ?」


 人を見るというのはいったいどういう事だろうか?

 ただ単純に人の瞳を見るのと違うのだろう。

 だがしかしどういう事だろうか?


 いや、少しは分かる。

 人として相手を見ていないという事なのだろう。

 だが俺としては人として見ているはずなのだ。


「リク君は何を見ているの?」


 というかだ。人として見ていなければ何として見ているというのだろう?

 なんだ? 俺が実験動物を見るように見ているとでもいうのだろうか?

 そんな事あるか。そんな恐い事したら追い出されて暗殺など考えられる。


 敵対者を増やしてしまえば一気に詰むのは俺なのだ。

 どういう風に見たら正解なのかがわからない。

 というか正解があるのだろうか?


「何と言われてもなぁ……。リラちゃんを見ているなんて言っても嘘っぽいか」


 もし俺の意識の全部をその人に向けると大分危ない人になるんだが。

 どう考えてもストーカーかサイコパスの領域だろう。

 その領域でモノを見ろとか言われたら大分危ない。


 そもそもそんなに考える事があるのだろうか?

 意識を向けすぎるのも気持ち悪くないか?

 他人に深く詮索されるのは誰しも嫌なモノだろう。


「リク君、私を見ているのに見ていないんだもん。恐いよ」


 そう言われてもとても困る。

 ならどこまで見て欲しいんだ? 見るだけならどこまでも見える。

 類推していけば先はいくらでも予想できる。


 見ている方向を知りたいという事だろうか?

 知ったところで合わせる事などできるわけがない。

 知られたら危険ですらある。ムリだ。


「リラちゃんを見ていないから恐いんだ?」


 全ての事情を知る必要はない。

 そこまでを望んでいるわけじゃないだろう。

 一緒に過ごすうえで、何を見ているのかが重要なのだろう。


 だがしかし、俺は生き残る以外に何を望んでいるのか?

 前世では後悔ばかりだった。上を目指せなかった。

 だから今世では努力し、自分の至れる限界に辿り着きたい。


「だってリク君が何を考えているのかわからないんだもんっ!」


 夢という程大層なモノでもない。

 具体性にも未だにかけている。ただ組織の上の方に行けばいいという話でもない。

 俺は自由でいたいのだ。何かに気兼ねする事無く、ひたすら自由に振る舞える存在でありたい。


 生活にカツカツで上を目指せなかったあの前世は悔しく、苦しい。

 事故がなくともいつかどこかで終わっていた事だろう。

 俺はただ自分を試したい。転生したのだ。だからこそ初めから築き直せる。


「他人の考えている事なんて誰もわからないよ?」


 俺がおかしいから上手く築けない? それはわかっている。

 おかしいなら修正しないといけない。どうやって? 人を参考にするしかない。

 だから俺は人を見ていたはずだ。


 結局、見るというのはどうすればいいのだろう?

 人の行動を先読みしたり、その性質を想定していく事は見るとは違うのだろうか?

 しかしこれは観察の一環にしかならないだろう。


「うー……。そうじゃなくてっ!」


 相手の目線になってモノを考える? それは思考トレースの基本だろう。

 道具を作るのなら道具を使う人の目線に立たないといけないのと同じ事だ。

 こちらが重要視しているモノが相手にとっては特に気にも留められていないモノであったりする。


 その人の目線になり、その人の取る行動から優先順位を割り出し、行動を先読みする。

 精度が低いモノであれば無意識でもできるレベルだ。

 選択肢を提示されれば多くの人がその人ならこれをするんじゃないか? と選ぶことができるだろう。


「もっと人に興味をもとうよ!」


 いや、興味を持って言われても困るんだが。

 これ以上見たら偏執的な具合だと思われる。

 少なくともそんな俺は俺自身が見たくない。嫌だな。


 観察と人を見る事の違いは何なのか?

 見る目の違いといっても、俺としては人を見ているつもりだ。

 むしろ自分を人間と見れているのかが怪しいところだ。


「どういう風に興味を持てばいいの? 教えてよ?」


 対等の存在かどうか? それは俺の方が下だろう。

 人間という社会生命体は生物1個体に比べてとても大きい。

 その人間という存在に同化できない段階で欠陥品だ。


 近寄ろうにもその精神構造をどんなに読み解こうとしても見えない。

 こうしたらこうなるだろうという予測をつける事は出来ても、それに対応する行動ができない段階で俺は欠陥品すぎる。

 そうでなければ今回こういう問いかけが起きるわけがなかった。


「え、えっとね……。うー……」


 見てる見てない論争で困るのはここだ。

 本当に見てないわけではないからなおさら困る。

 だって見てはいるから。見てはいるからそこからどうしろっていう話だ。


 自分が人間か怪しいというこの思考回路自体がおかしいのは百も承知だ。

 両親ともに人間なのだから、生物学的に肉体は人間と同じモノでなければおかしい。

 メンタルが人間になりきれていないと言われても、そもそもメンタルが人間とはどういう事なのだか。


「僕は少なくともリラちゃんを見ているつもりだよ?

 だからあやとりとか楽しめるかな? と思ったモノを教えたんだよ」


 観察か。動物に対しての観察。

 ペットに玩具をあげる事とリラちゃんにあやとりを教える事。

 どれだけの差異があったのだろうか?


 俺は人間に同化できないから自分が下だと考えている。

 だがそれは本当に自分が下だと思っているのだろうか?

 ペットに玩具を与えて一緒になって遊び相手が楽しんでいるのを見て楽しむのと、俺がリラちゃんにあやとりを教えた行動の差異はあるのだろうか?


「なんか違うのーっ! 見ている様で見てないのーっ!」


 どうしろっていうのさ。

 どう見たら正しい答えに辿り着けるのだろうか?

 見方が問題なのか? 構え方なのか?


 そういえば上からモノを言っていると言われた事あったな。

 これも同じ要因なのだろう。

 対等に見ろっていう話なのだろうけど、対等に見るというのはどういうモノなのだろう?


「リク君は何か遠くを見ているの! 私の先には私はいないの!」


 むぅ。そう言われても困る。俺はリラちゃんをちゃんと見ているつもりなのだ。

 いや、リラちゃんを通して、人間という存在を探っているのかもしれない?

 そう考えたらリラちゃんの先を見ているというのも間違いではないのか。


 しかしだ。で。どう行動に違いが出るのだろう?

 俺はリラちゃんの様子から次の行動を予測し、微調整を加えながら自身の行動を決めている。

 これがリラちゃんを見るとどう変わるというのだろうか?


「僕はリラちゃんをちゃんと見ているよ? だから泣かないで」


 俺の中の「僕」がどんどん気障な奴になっていく。

 俺と僕は徐々に乖離していっていないだろうか?

 乖離した方がいいのだろうか?


 これは多重人格? いや違うか。

 ただの仮面だ。主人格は俺だ。

 ……もしかしてこの「僕」は本来のこの体の持ち主の人格……? んなわけないか。


「泣いてないよっ!」


 実際泣いているようには見えない。

 何故「僕」は泣いているなんて言ったのだろう?

 いや、ちょっと待て「泣かないで」は俺の意思で言ったのだろうか?


 半ばオートで進行させていたと思う。

 しかしこれは誰しもができる事のはずだ。

 脊髄反射の様に会話するくらい、話す内容がある程度決まっているものなら出来て当然なはずだ。


「そう? 僕のせいで泣いているように見えた」


 お前は誰だ! どこの気障男だ! 恋愛小説の読みすぎか!

 落ち着こう。たぶんこれは前世の小説が影響しているに過ぎない。

 俺の前世の対人経験はほぼゼロに等しい。基本は本。本が9割9分9厘だ。


 前世でちゃんと話をしていた時期はほぼない。

 数度の遭遇事案とでも言えばいいだろうか? たまたま話かけてくれた人と話をしたに過ぎない。

 自分から話かけた事があったのだろうか? いや、たぶんない。酷いな。


「……リク君の言葉は軽いよ」


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