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124、他の子

 見る。聞く。感じる。風の向きを知る。

 小山の頂上から外周に視線を添わせれば自然と不自然な動きをしているモノが見つかる。

 頂上から見れば途中に生えた木々で視界はふさがれるが、その木々の動きでわかる。


 風で動くものは自然と目が滑る。違和感のある動きをすればそこに何かがいるのかがわかる。

 そこにいる何か。それは今はルイ君以外に考えられない。

 小山の数も2つ。見つけるのは大分、容易い事だろう。


「あれ~? 君、だ~れ?」


 ……。そうか。来るよな。他の子達。

 初めての場所だから案内されたのが早かったのだろう。

 ここで平穏な生活ができるかどうか全て決まるかもしれない。


「僕はリク。つい最近ここに入ったんだ。君の名前は?」


 白い瞳を大きく丸くした、活発そうなその女の子は、ほへぇ……と声をもらした。

 髪の色は茶色がかった黒。3歳児としてみれば健康的な体形だ。

 純粋そうな感じがする。きっと純粋ないたって普通な女の子だろう。


「リラ! 私はリラだよ!」


 リラ。そう名乗った女の子はニコニコとほほ笑んでいた。

 くっ。陽性か。またも溶かされそうだ。

 いや、溶けない。溶けない。そもそも何が溶けるんだ。


「僕は今この付近にもう1人いる友達と遊んでいるだけど混ざる?」


 ルイ君は友達。友達だよ? いいね? これはお約束だ。

 今はまだ足りない部分があっても欠けているモノはたぶんないだろう。

 魔力以外で上を行き続けられるかどうか怪しい。


 俺が関わる範囲で誘導できるところを誘導していけばライバルといえる競い合える仲になるかもしれない。

 身体能力が近いうちはかなり競い合いやすいはずだ。

 より良い道があれば知っていけばいい。


「うんっ!」


 スタイルを変えるのは難しいから、初めからできるだけ変えなくてもいい王道スタイルがあればそれに乗りたい。

 だが今はスタイルが固まり切っていない時期。いくらでも模索できる。

 基礎能力を上げておけばそれだけ応用力が上がるだろう。


 どんなスタイルであれ人間の構造を考えた理論で動いているはずだ。

 メジャーなモノであれば他流試合などを繰り返したりするうちに使えない技は捨てられ、使える技が作られていることだろう。

 他流試合を繰り返すところ程、実践を繰り返す程に技は洗練される。


「じゃあ、まずは僕と一緒に動こうか」


 必要な筋力量を満たしていなくてできない事もあるだろう。

 要求ステータスがある武術なども多々あるだろう。

 ステータスバランスで、遠距離メインだったり、近距離メインだったり、選べるモノだって変わる。


 肉付きも今の段階ではまだわからない。

 外付け筋肉として魔力を利用できると思うが、それにしても体が丈夫じゃなければ付与できる魔力も低くなるに違いない。

 豆腐を芯にしたら一瞬で折れる。


「あそこの木から誰かが覗いているのがわかる?」


 魔力で外骨格を作って、外付け筋肉を使って動かす?

 むりやり動かしたら生身を壊す事は間違いないな。

 生身の強度を高くしないと高速戦闘はできない。


 どんなに1発が大きくても、大振りの攻撃は状況を整えなければ当たらない。

 状況を整えたらどんな攻撃も当てられなくなる。

 相手が対応しきれない攻撃。それが至上なのだろう。


「うんっ!」


 相手が対応しきれない。その理由は?

 爆発などの範囲攻撃は躱しにくい。その範囲から逃れる手段がなければいけないから。

 手数もそうだろう。1度に対応できる数なんて限られている。


 そして本命は速度だ。相手が対応しきれない速度で攻撃する。難しいだろうが出来たら強い。

 速度にしても神経の反射速度やある姿勢から別の姿勢に変えるまでの時間なりある。

 神経の反射にかかる時間よりも短い時間の間に攻撃を終えれば対応できない。この速度を目指したい。


「じゃあ、僕はあっちから回り込むからリラちゃんはこっちから回り込んでくれるかな」


 質量×速度の2乗×2分の1が運動エネルギー。

 速度を上げれば上げる程エネルギーを必要とするが、そのエネルギーを威力ととらえられれば速ければ速い程高い威力を発揮できるはずだ。

 速度は力だ。そしてどんな強力な攻撃も当たらなければ攻撃は無意味なのだ。


「わかったーっ!」


 だが制御しきれない速度は身を滅ぼす。

 速度は力だ。それは体を砕く力にもなり得る。

 敵を壊す前に自分を壊しちゃ元も子もない。


「リクーっ! ズルいーっ!」


 体を鍛えれば自分の強度を上げられる。

 ひょろひょろモヤシとガチムチプロレスラー。

 体が強いのはガチムチプロレスラーなのは誰の目にも瞭然だろう。


「ルイ君、いつから2人だけのゲームだと思っていた?」


 プレイヤーは2人で間違えはないがな。

 リラちゃんは環境だ。今回のゲームでは木々と同じ。

 次のゲームからはプレイヤーになるかもしれないが。


「むぅっ!」


 戦闘は環境も考えないといけない。

 敵を倒すだけで物語が終わるのは御伽噺だけだ。

 倒せばいいでは終わらないが、倒すにも環境を利用するのは重要だ。


「じゃあ、次は僕の番だね。先に僕を捕まえられた方が次の番っ!」


 人数が増えたのだから、それなりの動きをしても問題ないだろう?

 さっきは声を出して場所を教えてあげたのだ。

 そんなヒントはもういらないだろう?


「それじゃ、2人共、目を閉じて5まで声出して数えてね。数え終えたらゲームスタートだよっ!」


 逃げたり隠れるというのは重要な能力だ。

 どれほど鍛えたところで数を頼みにされれば駆逐される。

 体力や気力は無尽に使う事ができるものではないのだから。


「5ーっ!」


 逃げる事は恥ではない。

 むしろ余計な労力を消費しないでいられる賢い行動だ。

 逃げきれればの話だが。


「4~っ!」


 隠れるというのは多対一の戦いでは重要な事だ。

 隠れている間に息を整えたり、状態を整えたりできるのだから。

 補給物資を探したりするのもいい。


「3-っ!」


 補給物資。野山のモノに詳しくなればサバイバルが上手くなるかもしれない。

 どれが食べていいか、安全な水分の確保の仕方も重要だろう。

 漏洩魔力を使って蚊を落としたりもできるのだ。この世界ならではのサバイバルができるはずだ。


「2~っ!」


 作戦目標を達成する時の大前提は生還する事だ。

 死んだら目標を達成しようがしまいが、大半関係ない。

 死んでしまえばそこまでなのだから。死人にその後を左右する意思を誰も確認できないのだ。


「「1っ!」」


 死んだ当人がこういう風に異世界に転生するとかもあるのかもしれない。

 それにしたところでそれを誰が確認できるというのだろう?

 結局生きなければ今世に干渉はできないのだ。


 生きなければいけない。死んで何になる。

 記憶に残っても、それを俺は確認できない。

 満足できない生き方は価値がないのだ。


 前を向けない、その場でなんとかしたい。

 そう思ってずっと燻り続けるとそこから抜け出す事ができなくなる。

 その場から出ていく歩く足がある事すら分からなくなる。


 それを続けた末に待つものは破滅だ。

 身体が動けなくなるのが先か、職を失うのが先か。

 どちらにしろ破滅しかない。


 生きる力は必要だ。

 過適応でそこでしか生きられない存在ではやっていけない。

 どこででも生きられる力を俺は欲しい。


「ねぇーっ! 一緒に遊ぼ!」


 ルイ君が誰かに話しかけている。

 どうやら人手を集めているようだ。

 俺がしたように人を巻き込む事をしているようだ。


 ありがたいことだ。

 交友関係を広げる手助けをしてくれているぞ。

 ここで能力を発揮すればするほど今後が楽だ。


 ……それにしてもまさかこういう風になるとは。

 「交ぜて」と言われるのを想像していたのだが、こちらから「遊ぼうぜ」と声掛けしていくのか。

 リラちゃんに関して消極的な巻き込みだったのに対し、ルイ君が行っているのは積極的な巻き込みだ。


 積極的に人を巻き込んでいく方を俺はできるのだろうか?

 それができるか、できないかで言えば、今の俺はできないだろう。

 だができるようにならないといけない。


 それができるかできないかで、先の進路が大きく変わるだろうから。



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