122、学園に向かう車
「そうだね、じゃあ、わからないで頭止めないで人の事を知ってみよう?
そうしたら共通点とかも見えてくるから。
頭止めているうちは相違点しか見えないよ?」
そう言われても困るのだ。共通項を探すにはかけ離れ過ぎているのだと思う。
共通項は指の数や手足の数などといった表面的な事しかないのではないのだろうか?
俺の思考はどこか飛躍しているのだろう。
いや、文字で思考を行っている現在、飛躍はしていないはずだ。
思考のルートはとても見えやすいはずだ。
見えやすく整えているともいう。
文字を使わないで考えると机の上にモノを散らばせたような思考になる。
散らばせた本人としては何があるのか把握ができても、人からしたらどこに何があるのかまるでわからない。
それと複合的にモノを考えられるならいいが、同時に4,5個並列で思考できないなら単純作業はできても複雑な作業は行えない。
「リク君、ばんざーい」
自分の思考が飛躍しているのかなどどこで判断すればいいのだか。
発する言葉は思考の何十分の1だろう。こういう部分が飛躍と言われるのだろうか?
しかし何も考えないで言葉を発するなんて現状ムリだ。
思慮が足りない人間が力を持ったと思われたら?
あくどい人物に操られて生きた爆弾のように扱われてもおかしくない。
はた目から見てそんな危険なモノであったら? 処分一択だろう。
多少の犠牲を払う事になっても、致命的な部分で爆発されるよりも、影響の出ないところで管理できる範囲内で爆発させた方がましだ。
背に腹は代えられない。心臓をとられるくらいなら腕を持ってかれたほうがましだ。
俺だったら早い段階で見極めつけて切り捨てるか判断する。
悠長に考えていたら爆発されたとかシャレにならないからな。
「ミラ! いつもありがとね」
「カナ。いいんだ。こちらこそお世話ありがとう」
そう考えると愚鈍を装うわけにもいかない。
王子様と違って切り捨てようと思えばいつだって切り捨てられる立ち位置だからな。
親が親だから多少は融通を利かせてくれるかもしれないが、それも怪しいところだ。
親が親だから、闇ルートに流される事がなかっただけマシだと思う。
後ろ盾が何もない状況からのスタートであれば、危ない貴族や商人に子飼いにされていた可能性だってある。
そういう意味では運が良かった。無難なスタートが切れたのだ。
だが楽観視できない。両親は特別な平民? なのだろう。
権力や経済力には期待するのは間違っているだろうと思う。
戦闘力に置いても、戦巧者であっても、圧倒的な殲滅力には欠けるだろう。
「リク君、こっちこっち乗っちゃって!」
「だぁー!」
一目は置かれても、実際戦う場合、組織を相手にするわけでもない。
後腐れの少ない対応方法は山とあるだろう。いや、人脈を考えると難しい?
両親は1人で行動するわけじゃないだろう。知り合いに1等級がたくさんいるのだ。
慕われているのかどうかがわからない。
慕われているのだとしたら、下手な組織よりも厄介だろう。
見えにくい縁故関係、熱心に探るわけではなく疑わしい情報を頭に入れていく潜在的スパイ。
その人にとっての悪と判断したら、同様に付き合いがある知り合いなどにも伝えていく可能性が高い。
そして気付けば多くの人に悪だと判断される事になるかもしれない。
特に両親の知り合いが英雄、1等級がいる。高い立場の人が潜在的な敵になるのは大きな脅威だろう。
「リク……?」
だからか。普通であればすぐに大きな組織に囲われるはずだった。
親元から離されて監視だけにとどめているのは親の力は足りないが騒がれたら厄介だからか。
下手な実験を行うような真似はできないが、誰かに何かをさせないために監視する事は出来ると。
監視した結果、極端な危険性が認められた場合、排除される可能性は相変わらず高い。
相変わらず? いや、ほとんどの組織にとって排除できるなら排除したい存在だろう。
通常よりも軽い理由で排除されてもおかしくない。
排除されないためには? 排除しにくい要因を作ればいい。
具体的には? 個人の能力を見せつけるだけではダメだ。
揺れ動く力は危険だろう。どこに倒れるのかわからないのが1番恐いのだから。
「リ~ク~?」
1つの組織に癒着するのは? それも危険だ。
その組織が余程関心をもって囲ってくれない限り、他の組織から危険視され潰されかねない。
相手が興味をもって守ってくれるかどうかなど、判断がつくわけがない。
その組織の1人が甘い言葉を言っていたところで、組織の他の人が甘い顔をしてくれるわけではない。
結論からしてみれば敵対しないようにいい顔しておけ。
各組織に人畜無害な存在だと認知されるように、けれど短絡的な行動を起こさない存在だと認識されるように動け。
いい顔している八方美人であっても、どこでも仲間面するコウモリにはなるな。
「むぅぅ」
どこでも仲間面するコウモリはどこの場所でも嫌われる。
仲間面するならその1つの組織に居つけ。さもないとスパイ扱いで処分だ。
童話のコウモリはそれでひどい目にあったものだ。
童話。童話は子供にわかりやすく道理を伝えるために作られたモノだ。
そこに前提情報をあまり必要としない。わかりやすい立場を与えた事で物事を見やすくしたものだ。
実際にその事象が起きたわけではないが、例え話として語り継ぎやすいモノが童話として残っているのだろう。
童話だからとバカにはできない。
そこに何かしらのメソッドがあるから語り継がれる。
コウモリの話なら都合よく立場を変える奴は嫌われ損をするとかな。
「リク君、大丈夫か? 眠れているか?」
「え、あ、はい!」
あぁ、もう。俺はただ自分の力を発揮したいだけなんだ。
どこまで鍛えられるのか。鍛えた力を振るえる場所はどこにあるのか。
自分という存在を認めるために、自分で自分を承認するがために、全ては後悔しない自分であるがために。
誰かに誇りたい? 違う。
誰かに見せびらかしたい? 違う。
人に認められたい? 近いが違う。
自分という存在が普通になり、社会の歯車の一部として違和感なく動ける事を体感したい。
社会から外れた存在である自覚が強すぎるのだ。自身が正しくない存在に感じて堪らない。
自身が正しく動く存在でありたいのだ。
「リク君、ここのところ大変だから気が休まらないんじゃないか?」
「いえ! 大丈夫です!」
「そうか? 大分、今日は物思いにふけっているように見えるぞ?」
「あ、あはは……」
苦笑しかできなかった。確かに今日は酷いな。
内側を見過ぎて外がおろそかになってしまっている。
大分危ない。王城の中でもそうだった。
心や頭の中でどんなにいい事を考えても、結局行動に移さないモノは何にもならない。
内側がどうであれ、行動しないモノは置物だ。
置物は邪魔になれば片付けられる。動け。動いて価値を示せ。
もしここで学園を休むことになれば悪影響があってもおかしくない。
何が起きるかわからない。弱い人だと認識されるのも怖い。
弱いものは利用されるのが世の常だ。魔力量というネギを背負ったカモになる。
「はいはい、それじゃそろそろ学園に着くよ! ルイ! 背筋シャン!」
……とりあえず近い目標は友人を作る事だ。
それは近すぎても遠すぎてもいけない。仲間面はするな。
その場その場で遊べるくらいの関係がいい。
自分という存在を知って、どういう人なのか認知してもらえる程度で十分だ。
同年代との体育、鬼ごっこでもすればいいだろうか。
アスレチックを利用した鬼ごっこ? 激しい上下動と隠れた子供を見つける動体視力、いいトレーニングになりそうだ。
鬼ごっこ……どうすれば始められる?
俺から誘うのか? どうやって? 鬼ごっこ自体、こちらでは何ていうんだ?
そもそも鬼という存在が知られているのかどうかすら怪しい。前世バレが恐い。
「ふわぁぁあ」
車の中でルイ君が大きな声を出しながら身を起こした。
そうだ。ルイ君がいるのだ。何も1人で行動しなくてもいい。
1人で言葉で説得していくのは困難だろう。
だが2人で遊びながら人を巻き込めば他の人を交え遊ぶことができる。
ここで躊躇するのは後悔の元だ。使えるものは使っていけ。
誰かに迷惑や被害を出すわけじゃないのだ。気兼ねするな。