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120、テーブルゲーム

「リク殿、連絡もなく消息を絶たれると不安である」


 ニーナは俺の顔の前まで鼻を近づけると悲しそうな顔で言った。

 たしなめる、そんな色はない。ただ悲しそうだった。

 何が悲しいのだろうか。


「ニーナ。ごめんね」


 不安にさせた事を謝るとニーナの鼻をなでた。

 ニーナの鼻は冷たく湿っていた。柔らかい肉の感触。

 鼻をなでるとニーナは眼を細めた。


「いいのだ。大丈夫だ。リク殿」


 その瞳は慈愛に満ちているようだ。

 親が子を見るような、どこまでも優しさにあふれた瞳。

 ニーナはその大きな鼻をこすりつけると他の人を見た。


「リク殿、それでどうして今日も行方不明になったのだ?」


 ニーナの黒いその瞳は打って変わって大変厳しいものになった。

 すみませんでした。確かに行方不明ですね。連絡1つ取らずにいったのだから。

 今後の進展を考えてついていったが、実際問題、帰宅方法などもなかった。


「クラスメイトの歓迎会に参加しようと思って、サラお姉ちゃんについていきました」


 尋問のようなこういう問いかけは苦手だ。

 聞き出そうという意図が強すぎる。構えさせてしまうような問いかけだ。

 悪い事をしてしまったなんて思っている俺に対して特効だ。


「そうかそうか。サラ殿。話を聞いていいだろうか?」


 あ、やばい。そりゃ、名前だしたらそこ気になるよな。

 ダメだ。先生に言いつけた、みたいな感じだ。良くない。

 やってしまった。やってしまった。


「いいですよ。何が聞きたいですか?」


 凛とした調子。澄んだ声だ。サラお姉さんが凛々しい。

 王族だから? 貴族だから? 人を指導する立場の人間だからか?

 不意打ちのような突然の質疑応答なのに当然の如く振舞えるのだろうか。


「リク殿のお迎えになぜ連絡をしなかった?」


 そういえばその問題があったか。

 てっきりサラお姉さんのお迎えの人に俺の迎えの人へ連絡をいれたのかと思った。

 もしそれをしていないのであれば……完全な行方不明だろう。


「私はリク君の身元を知らなかったから知らせようがなかったわ」


 サラお姉さんはしれっとした表情と声で言った。

 確かに身元の確証はないだろう。だがおおよその予測は出来たのではないだろうか?

 身元の確証を取る事が出来たとしてもそれをする意義はなかっただろう。


 知らなければ子供の考えたらずで呼んでしまったと言い切る事が出来るだろう。

 知らないという事にしておけば失踪という形で囲う事もできるかもしれない。

 子供の考えたらずが狙ってやった事かどうかなど当事者でもなければ判断できたものじゃない。


「知ろうとしなかっただけじゃないのか?」


 ニーナの声は冷たかった。対するサラお姉さんは涼しげな表情を保っていた。

 そこらの子供と胆力が違う。大きさはそのまま威圧感になるというのに。

 近くに俺やその家族がいるという事や今後を考えたら殺したら影響が大きそうな面々がいるという事。

 これらが自身の命を守っているからの胆力? 違うかもしれない。わからない。根拠のない自信か?


「そうね。リク君の事を知ろうとしてそればかりで考えが回らなかったわ」


 王族としての自負からここまで命知らずの胆力が? いや、奥の手の1つや2つ持っているのか?

 ここで殺されないとしても、侮れない人として認識され……いや、それが狙いなのか?

 路傍の石のように思われれば行動に影響を及ぼす事もできない。


「その程度の事も思い浮かばない程サラ殿は鈍いのか?」


 ニーナ……。毒が過ぎる。ここをそこまで突いてもしょうがないんじゃないか?

 突けるところは深く突きたいのか? ここで逃がせば関係性が決まって次も逃がしてしまうかもしれないからか?

 サラお姉さんは艶然と笑っていた。不敵であり、幼い顔なのに色気すら漂わせていた。


「魅力的な子がいたら夢中になってはいけませんか?」


 サラお姉さんの瞳にはいつの間にか俺が映っていた。

 青い瞳に映る俺の姿はどこまでも呆けた子供にしか見えなかった。

 こんなぼけた子供が魅力的なのだろうか? 魔力量しか今のところ誇れるモノはないぞ。


「他に狙いがあったのだろう?」


 考えられるのは囲って何かさせるとかだろうか?

 赤子のうちに与える情報を偏らせれば洗脳することも容易いだろう。

 情報の供給元を絞る事で思考を制御するのは少年兵の作り方でわかる事だ。


「何の狙いがあったというの? 私はリク君の事を知りたいだけなのだけど」


 サラお姉さんの瞳には何が見えているのだろうか?

 このカマかけの裏側に意図はあるのだろうか?

 ニーナは知られたくない情報を隠し持っているのだろうか?


「もうよい。リク殿。そろそろお時間も遅いので帰りましょう。

 早く眠らないと大きくなれませぬ」


 幼い頃の睡眠は身体に大きく作用する……。

 身体の成長を質に取られたら何も言えないじゃないか。

 前世のようなもやしは避けなければ。


「……わかりました」


 何か隠したい事がニーナにはあるのだろう。ここで話を断ち切るという事はきっとそうだ。

 そしてサラお姉さんも俺が知らない事を知っている可能性があるのかもしれない。

 カイさんも何か言おうとしていたが聞けなかった。


「そうですね。もうこんなに空も暗いですね。今日はお開きにしましょう?」


 サラお姉さんも微笑みながら言った。

 追撃をかけないのか。追撃をかけない理由は理由が俺だからか?

 俺を損ねるような事をしたら本末転倒だからか?


「なるほど。わかりました。今日はここまでにしておきましょう」


 カイさんがニーナとサラお姉さんの間に入り込みながら言った。

 場が剣呑としていたからだろうか? 冷静な考えが出来ないという考えだろうか?

 ボロが出て喜べるのは情報戦や相手を詐欺にかける時だけだろう。


「久しぶりにリク君の顔が見れて安心しました。また会いましょう」


 お母さんが静かに言った。ニーナを入れられるような家をとなると色々難しい。

 今の住んでいる場所も家の中にトラックの車庫があるようなものなのだ。

 場所にしても用意するのは難しいものがあるだろう。周辺住民との兼ね合いもある。

 一緒に過ごすのは大分ハードルが高いだろう。


「リク……またな」


 父さんは何を考えているのか全くわからない。

 お母さんが交渉担当っていう事なのか? 語るより行動なのかもしれない。

 参謀や幹部ではなく、純粋な戦士系なのだろうか。


「父さん、お母さん、またね」


 その言葉と共に俺はお母さんの腕からニーナの首元のゆりかごへと移った。

 柔らかな布が敷き詰められたカプセルのようなゆりかご。

 ニーナが寝ていれば自分で乗り降りができるが、座っている状態であれば人の手がなければ移動できない。


 早く自分の身を自分で守れるようになりたい。

 空中浮遊や飛行もできる世界なのだから空だって飛びたい。

 全て自分でやれるようにしたい。


「それではこれにて。さようならだ」


 色々情報を聞き損ねた。見えない情報が溢れすぎて何を知ればいいかわからない。

 公に出来ない情報というのは知っているだけで責任を伴う。

 その情報を知っていると害意を持った人ならいくらでも悪用できるから。


 だが知れば知るほど行動がしやすくなる。

 知っていれば自ずと動く意味が決まっていく。

 もちろん情報に縛られた行動になるかもしれない。


 けれど研究のようなものであれば、人海戦術のように様々なパターンを色々な人が試してくれる。

 既にしている実験をわざわざしなくてもデータを調べればよくなる。

 だから無駄な時間を使わなくてもよくなる。


 今回、考えられる情報は何だっただろうか?

 ニーナの隠している情報は神様関係だろうか?

 王族だからこそ知ることができる情報をサラお姉さんは保持していたのだろうか?


 ニーナは人間関係の情報を集めていた。人間関係の様々な情報を。

 他愛無い内容でもそこから予測できる内容は大きい。誰と誰が仲がいい悪いとか。

 人間がどこまでの情報を保持しているのか調べるために聞いていたのだろうか?


 わからない。


 ニーナもサラお姉さんもカイさんも隠していることが多いだろう。

 お母さんや父さんも何かを隠しているかもしれない。

 隠し事が俺の人生にどれほどの影響を与えるのかわからない。

 全く影響を与えないなんて思えない。


 今後すべき事は? 肉体的にはユエさんとの格闘の訓練、ニーナとの魔力訓練。

 そして学校では人間関係の構築、同年代や上位学年と交流し認知度を上げる事。

 研究面では都市外部に出た時に魔法関連をしていけばいいか。


 大まかな予定はこんな感じだが、どこまで計画通りに行けるだろうか?




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― 新着の感想 ―
[一言] 一番不明なのは主人公だよな。
2022/05/16 10:38 退会済み
管理
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